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本 ・本 (323ページ) / ISBN・EAN: 9784883440511
感想・レビュー・書評
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政治や体裁という実体のない力に翻弄されながらも、常に行動(中村医師風に言えば「実弾」)でもって対峙されてきた方の言葉です。
現場で常に人と共に在り続けた中村哲医師の言葉はさながら、「沖仲士の哲学」のようで、虚飾の皮膚が怜悧な刃物で精密な薄さで切り取られるような、そんな感覚を覚えます。
立ち向かうべき人間には対しては厳然とした態度で臨み、手を差し伸べるべき人間には柔らかな眼差しを持ち続けた、そんな姿勢をわずかでも持てたら、という思いに中村哲医師の言葉は力を与えてくれます。
「およそ人間と名のつく動物の集まる社会では、人はそれぞれに、侵してはならぬ「神聖な空白」とでも呼べるものを共有し、それに自らの生活から滲み出た言葉で意味を与えようとする事である。謙虚さの根源は、この、人の言葉の限界と相対性を自覚することにあると私は思っている。実態と投影図を混同するところに人間の傲り、偽りが生ずる。投影図の操作で実態を操作できるとまで信ずる所に、人間のこっけいな悲劇が生ずる。」p.249
「我々が神を守るのではなく、神が我々を守るのである。金や地位に執着しないのはそう難しいことではない。難しいのは、自分たちが設けた心の垣根――人生観、思想、生きる論理、哲学……何と呼ぶにしろ――さえからも人は実は自由に生かされている事実を知ることである。人の定義したり発明する神なぞ要らない。守らなければならぬ神なぞありえない。それは独善・狂信・偏狭・妄執とは無縁のものであり、すべての思想や生き方を突き破って輝く圧倒的な光なのだ。躓きは下手な人間の言葉にある。」p.262
「今日、それなりに西欧化してスマートになった日本で何が足りないかと言えば、決して各分野における各論卓説ではない。まして技術的教育水準はすでに欧米を圧している。だが、巷には怪しげな新興宗教が依然として若者の心をとらえ、政治家は金で腐敗し、国際化の掛け声の舞う国内では老人が過疎地に捨てられ、塵ひとつない街路では浮浪者が暴行を受ける。そして、ヌエのように掴みどころのない慌ただしいだけの精神生活に、誰もがやる瀬なさをかこっているではないか。
我々に足りないのは科学技術でも、気の利いた幸福論や海外協力論、ひねた個性の追求でもない。足りないのは、自然と人間についての地についた洞察であるような気がしてならない。」p.259詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
NDC 369.9
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家族でもない他の人のために何かをする。しかも命がけで。どうしてそのようなことができるのか、する人がいるのか。背景が少しだけわかった気がする。
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カテゴリ:図書館企画展示
2019年度第6回図書館企画展示
「追悼展示:中村哲氏執筆本等」
展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。
開催期間:2020年1月6日(月) ~ 2020年2月28日(金)
開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース -
「井戸を掘る医者」中村哲さんの強靱な意志
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究極の医療過疎地への拠点作り。所属組織、人種、宗教、様々な爆弾を抱えつつ、真に大事な事は何かという事を貫く中村医師。
中村哲の作品





