妖精が現れる! 〜コティングリー事件から現代の妖精物語へ (ナイトランド・クォータリー増刊)

  • 書苑新社
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感想 : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883754458

作品紹介・あらすじ

コティングリー妖精事件の新旧の研究史を出発点としながら、
多様な論点が訴えるより広範な問題に対し、
幻想文学の立場から向き合う――

井村君江らの紀行文、エドワード・L・ガードナーの文書など
コティングリー関連の記事や、妖精に関する評論・エッセイをはじめ、
タニス・リー、パトリシア・A・マキリップ、高原英理など妖精をテーマにした小説も数多く収録!

タニス・リーの小説は20ページ、ガードナーのコティングリー妖精事件についての文書は35ページを一挙掲載。

感想・レビュー・書評

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  • 妖精というテーマ、そして何よりタニス・リーにホイホイされた。読者歴は長くないながら訃報はけっこうショックだった思い出。そして多作なのに邦訳はあまりない哀しみ。早川も平たい地球シリーズの新装版全部出そう?

    コティングリー妖精事件を巡る当時から現代のルポルタージュがとても面白い。拙い写真という物証があるのに、逆にあるからこそ加熱する目に見えないものへの憧れ。当時は霊界通信を求める人も多かっただろうし、ケルト文化復興運動の余韻も響き、科学が神を弱めてなお土着の伝統的な信仰が見つめなおされ愛された時代であれば、飛びつきたくなる気持ちはおおいにわかる気がする。
    タニス・リーの作品は「エルフの眷属」(冒頭でフィオナ・マクラウドが引用されている)。著者の作品としては初めて出会うロー・ファンタジーで、もうこれだけで美味しいし、妖精達の近づきすぎない描写がうすら寒く神秘的。訳者が「ある作中人物の語りに古英語や中英語の名残を持たせるなど」と言っているのは、妖精達に語りかけるソルジャーのことだろうか。現代的なお話の中で異彩を放つ時代がかった口調につい原文を見てみたくなる。
    タイトルがもろにパロディなフーゴ・ハル「鈍色の研究」は、ドイルが熱狂したコティングリー妖精事件をシャーロック・ホームズに語らせるというメタフィクション(?)。名言を引用したり、「我々がついこの間まで生きていたヴィクトリア朝時代」なんて言ってみたりと、次元の壁をぶち抜く作業の余念のなさに笑ってしまう。科学的な思考に基づいて推理するホームズを著した一方で心霊主義に傾倒したドイルを、そのホームズの立場から評して、フィクションとノンフィクションの境界を論じる手の込みよう(現実に発展中のVRを念頭に置いている)、さらに「フーゴ氏」まで登場させて、作品全体を多層化フィクションの円環構造に整えてしまうのに感心した。他の著作も読んでみたい。
    ジェフリー・フォードの創作妖精譚「イーリン・オク一代記」、石神茉莉のチェンジリングもの「左眼で見えた世界」、高原英理の連作「縞模様の時間」もお気に入り。今号は私的大ヒットかもしれない。

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