文豪たちが書いた 怖い名作短編集

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883929665

感想・レビュー・書評

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  • ジュニア向けの「怖い名作短編集」のようなものをいくつか読んで、せっかくなら大人向けの編集もと。
    ジュニア向けも十分コワかったけれど、大人向けになるとまた色艶があるような。

    【夢野久作「卵」】
    三太郎君と、隣に引っ越してきた露子さんは、お互いを密かに思い合っていました。
    日中は口をきくことも、目を合わせることもなかった二人ですが、しかし夜になるとお互いの”想い”は体を抜け出して逢引を繰り返していたのです。
    露子さんの家が引っ越して行ったその夜、いつも二人の魂が逢引をしていたその場所には、卵が一つ残されていたのです…。

    【夏目漱石 「夢十夜/第三夜」】
    こんな夢をみた。
    私はたしかに自分の子供を背負っている。
    目の潰れた青坊主だ。その子供に言われるままに山の路を歩く私の前に、私の原罪が付きつけられる。

    …夏目漱石は怖い話が良いですねえ。いきなりはじまりいきなり終わるというこの潔さ、断言するような語り口がいかにも逃げてはいけないという宿命のようなものを感じます。


    【江戸川乱歩「押絵と旅する男」】
    電車に乗り合わせた老人が持っている不思議な押絵。
    絵の中にいる老人と若い娘は、確かに生きているのだ。
    老人に聞かされた押絵の挿話。


    【小泉八雲「屍に乗る人」】
    女は死の状態を継続することにした。
    自分を捨てた夫への復讐として、死を継続したまま夫を待ち続けることにしたのだ。
    妻から逃れられないと知った夫は陰陽師を頼る。
    陰陽師は言う。「一晩中、この女の身体にのり、左右の手で髪を持ち続けていなさい。どのような怖ろしいことがあっても、女の髪を離してはいけない」


    【小泉八雲「破約」】
    死の前に妻は夫に問うた。「私の代わりに誰かがこの家に来るでしょう」
    夫は妻に誓った。「愛する妻よ、決して再婚はしない、お前の代わりにだれも迎えたりはしない」
    妻は死の前に願った。「それなら私をこの家の庭に葬ってください。そして私の棺の中に小さな鈴を一つ入れてください」
    しかし妻の死後、1年経たぬうちに夫は新しい妻を迎えることになる。
    新しい妻が一人で夜を過ごしたときに、庭の方から鈴の音が聞こえてくるようになり…。


    【小川未明「赤い蝋燭と人魚」】
    寂しい北の海に住む人魚は、自分たちの住処のあまりの寂しく荒いことに心を痛めているのです。
    「人間の町は美しいという。そして人間は、この世界で一番優しいものだと生きいている。可哀相なものや頼りないものをいじめたり苦しめたりはしない、いったん手付けたものを捨てることもないと聞いている。それなら生まれてくる子供には、人間の中に入って暮らしてほしい」
    生まれた人魚の娘は、貧しい老夫婦に拾われました。
    老夫婦は山の神社にお参りに捧げるろうそくを作って売っていました。
    人魚の娘は蝋燭に絵を描き、その蝋燭を掲げると海は優しくなり、船は必ず港に還ってきました。

    老夫婦は人魚の娘を可愛がって育てました。
    しかし蝋燭で儲けた老夫婦は、人魚の娘を売ればもっと儲かるという香具師の言葉に乗ってしまったのです…。

    …穏やかで丁寧な言葉使いがむしろ心が締め付けられる。
    人として詫びを言いたくなるような。

    【小川未明「過ぎた春の記憶」】
    正一はかくれんぼが好きだった。
    隠れる時に誰もいなくなったような孤立感、鬼に見つかったときの驚き。
    かくれんぼの最中に友達とはぐれた正一は、鼠色の袈裟に白髪の坊さんと言葉を交わす。
    坊さんは言った。「お前に会いに来た、わしの顔を覚えていないか」


    【久夫十蘭「昆虫図」】
    始めは銀蠅だった。
    隣の家に住む夫婦、かみさんが里帰り中に訪ねると、いつも虫が湧いている。
    次に蝶や蛾、それから甲虫。
    それは、死んだものを早く骨にするために軽う埋めておき、虫たちに死体を食わせる方法だ。

    そしてついに蛆虫…。


    【久夫十蘭「骨仏」】
    疎開先で看取るものもなく死のうとしている私を憐れんで、陶芸家の伊良がしょっちゅう様子を見に来てくれる。
    伊良は最近、白い白い皿を焼くことに成功したのだ。
    それは、死んだ人の骨を少し混ぜて焼いてやっと出した白だという。
    伊良の目的が私の骨であるのならば、身寄りのない私は喜んで彼に暮れてやろうと思っているのに。


    【芥川龍之介「妙な話」】
    戦地から夫の便りが途絶えた。
    神経衰弱になる妻の元に、夫の消息を知らせる不思議な赤帽が姿を見せる。
    やがて帰ってきた夫は、自分の様子を尋ねる不思議な赤帽に出会った話を…

    …素直にいい話と思いたい。


    【志賀直哉「剃刀」】
    床屋の先代に気に入られた芳三郎は、一人娘のお梅の入り婿となり店を継ぐ。
    刃物の研ぎ方も、毛の剃り方も一流だ。客の肌に傷をつけたことがないことが絶対の自信だった。
    しかしこの時芳三郎は風邪を拗らせやることなすことうまくいかない。
    ついに決してしなかった”客の肌に傷をつけ”ることをしてしまった時の芳三郎の心は…。

    …怖い!
    「普段はしないこと、決してしてはいけないことをしてしまう一瞬が訪れてしまうまで」の状況といい、心理状態描写と言い、妙に現実的なことと言い、一番怖かった!!

    【岡本綺堂「蟹」】
    私の曽祖父のお話でございます。
    手広く商売を行っていた曽祖父の元には客が多く、ある時お客様が一人増え、その日の御馳走である蟹が一匹足りなくなってしまったのであります。
    家のものは八方探し回り、不思議な小僧さんが売り込んできた三匹の蟹を買ったのでございます。
    さっそく調理して、曽祖父とお客さまがたに蟹をお出ししたのであります。
    しかしお客様の一人の占い師の方が不吉な予言をなさったのでございます…

    …不可思議な話ですが、意味なく一方的に変なものに狙われて、こういう話は非常に理不尽な巻き込まれ方。


    【火野葦平「紅皿」】
    おれをこんなところに呼び出してどういうつもりだい。
    お前はおれたち河童にとって皿がどんなに重要かわかっているだろうに、
    おれの皿を割って殺そうとしたじゃないか。
    ただ綺麗な花を見ながら酒を酌み交わそうったって信じられるもんかい。
    しかし確かにこの酒は見事だ。
    なに?互いに秘密を教え合おうって?
    たしかにこの酒と交換なら悪くはないな…

    …騙し騙されどっちが騙したのか…


    【内田百閒「件(くだん)」】
    気が付いたら私は件(くだん)として産み落とされていた。
    私は人間だったころに聞いた件の話を思い出す。
    顔は人間、体は牛で、生まれて三日以内に予言をして死ぬんだ。
    困ったなあ、私は予言なんてできない、今のうちにどこかへ隠れよう。
    おや人間たちが件が生まれた事をかぎつけて、私めがけて集まってくるではないか。
    これでは逃げ隠れ出来ない。
    予言を期待されたってできないもんはできないんだ、困ったなあ。

    …昏くて深刻な状況だろうにどこかすっとぼけてるというか。
    この後どうするんだ?と心配しつつ、まあこんな感じで何とかなっていくんだろうか。

  • 彩図社文芸部編『文豪たちが書いた 怖い名作短編集』彩図社。

    11人の文豪による不思議な話、奇妙な話、身の毛もよだつ話など15編を収録したアンソロジー。

    読み返してみると、いずれの短編も現実世界と異世界との境界線が曖昧であるか、或いは無いかの如く、当たり前に不思議な世界を描いていることに気付く。科学の進歩が現実世界と異世界との間に境界線を作ったことで、人間は不思議なことを容易に認めなくなったのかも知れない。

    夢野久作『卵』。夢か現実か曖昧な中でストーリーは展開し、嫌な感覚だけがずっと残る作品。

    夏目漱石『夢十夜』。『夢十夜』の中でも最も怖い第三夜より。確かに怖い。後の怪談話のお決まりパターンとなったストーリーは見事。

    江戸川乱歩『押絵と旅する男』。江戸川乱歩にはミステリー作品の他にホラー作品も多いが、もしかしたらミステリーのトリックとホラーの仕掛けには共通点があるのかも知れない。

    小泉八雲『屍に乗る人』『破約』。どちらも人間の死後の怨念を扱った作品。小泉八雲は日本人より日本の心を理解し、より日本的な心理を描くことに長けていた作家だと思う。

    小川未明『赤いろうそくと人魚』『過ぎた春の記憶』。童話で有名な作家だが、ホラー作品も多い。

    久生十蘭『昆虫図』『骨仏』。どちらもミステリー色の強い短編。昔はこのような趣の作品が多かったように思う。

    芥川龍之介『妙な話』。大昔、芥川龍之介はかなり読んだが、こうした不思議な話は今読んでも、なお面白い。

    志賀直哉『剃刀』。初読み。志賀直哉にこうした風合いの作品があったとは。江戸川乱歩にも似たような短編があったと思う。

    他に、岡本綺堂『蟹』、火野葦平『紅皿』、内田百間『件』『冥途』。

  • 有名な物語から、ややマイナーな作品まで、11人の文豪による15の物語。
    お勧めは夏目漱石の『夢十夜』より、「第三夜」。
    むかしオーディオブックで聞いたときに最も気に入ったものの一つだ。
    明けない夜を思わせる余韻。
    夢の中らしい怪しい雰囲気。
    自分の子をおぶって夜道を歩く。
    語りながら道を歩く、という場面としては長閑な雰囲気なのに、描かれた全てがそうではないことを暗示する。

    夢野久作は『ドグラ・マグラ』で初めて出会い、合わない、と思っていた。
    しかし最近それ以外の短編に触れることができたことと、本書に収められている「卵」という短編で少し感じ方が変わった。
    他の作品も読んでみようかと思わせられた。
    本作では、何も、起こっていないのだ。
    ……少なくとも、今、この瞬間までは。

    小泉八雲の「破約」は初見。
    夫の心変わりを責める亡くなった妻の物語。
    迫る鈴の音が濁らぬ音ゆえ不気味に聞こえる。
    ラフカディオ・ハーンはやはり怪談の名手だ。

    今まで読んだことのなかった文豪たちと出会えて良かった。
    旧仮名遣いなどは改められているので読みやすい。
    文芸部イチオシの作品たちなので、食わず嫌いをせず、是非。

  • 昔読んだな…覚えのあるちょっと怖い話 不気味な話 因果応報も怖いが、不条理の怖さはどうおさめたら良いものか

  • 怪奇小説がテーマのアンソロジー。
    作品のセレクトが非常にオーソドックスで、物珍しさは余り感じない。その代わり、定番の作品を手軽に楽しめる。怪奇幻想小説のアンソロジーは数多く出ているが、本書のように『ベタなセレクトのアンソロジー』というのはありそうで無かった印象がある。
    ベタなだけあって大半は既読なのだが、再読しても面白い作品ばかりなので予想以上に楽しめた。

  • 本の名前の通り様々な文豪が書いた怪談小説

    作者によって特徴などは変わってくるが、日本の怪談らしくジワジワとした恐ろしさや、気味の悪く後味が気になる感じが良かった

  • 同期に借りた。今まで読んだことなかった色々な文豪の話が読めて良かった。個人的に東方Projectのメリーと紫の元ネタになっているであろう小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の作品を読めて良かった。海外の人が書いたとは思えないぐらい日本の生活様式とかがしっかりしていた。(訳のおかげもあるんだろうけれど)2作共女の怨みからくる怪談だった。ドグラ・マグラの作者夢野久作の卵、何が生まれてくるかワクワクしながら読んでたけど滅茶苦茶気持ち悪い話だった。なんの卵だったのかどうして露子はそれを三太郎に渡したのか色々謎が多い。夏目漱石の夢十夜、ファンタジーのイメージだったんだけど怪談だった。最後は罪の重さに気づいたってことなのかな、それとも裁きを受けたのか。小川未明の作品は初めて読んだけど怪談なのに儚い感じがして良かった。乱歩の押絵と旅する男も読みやすかった。どれも短編だからこそ楽しめた感じはする。丁度いいボリュームだった。

  • 赤い蝋燭と人魚、剃刀が気に入った。
    その他の作品もさすがの名作揃いと思います。

  • 収録作品は以下の通り。

    夢野久作: 卵(1929年)
    夏目漱石: 『夢十夜』より「第三夜」(1908年)
    江戸川乱歩: 押絵と旅する男(1929年)
    小泉八雲(田部隆次 訳): 屍に乗る人(1900年)
    小泉八雲(田部隆次 訳): 破約(1901年)
    小川未明: 赤い蝋燭と人魚(1921年)
    小川未明: 過ぎた春の記憶(1912年)
    久生十蘭: 昆虫図(1939年)
    久生十蘭: 骨仏(1948年)
    芥川龍之介: 妙な話(1920年)
    志賀直哉: 剃刀(1910年)
    岡本綺堂: 蟹(1925年)
    火野葦平: 紅皿(初出年不明、昭和二十二年(1947年)の東京出版『石と釘』に採録)
    内田百閒: 件(1921年)
    内田百閒: 冥途(1921年)

    夢野久作、小川未明、芥川龍之介、志賀直哉の作品は道徳的に訴えかけてくる作品で、思わず自分の行動を自省した。
    小泉八雲、岡本綺堂の作品は道徳的な筋が弱いと感じた。
    久生十蘭はまさに"怖い"作品である。
    火野葦平の作品はおそらく何かの暗喩なのであろうが、何が示されているのか捉えきることができなかった。
    内田百閒の作品は、「件」は独特の諧謔に富んでおり、「冥途」は読後に悲哀漂う余韻を味わうことができた。

  • 2018/02/20-02/24

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