MONKEY Vol.1 ◆ 青春のポール・オースター(柴田元幸責任編集)

著者 :
  • スイッチパブリッシング
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・雑誌 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884183899

感想・レビュー・書評

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  • 柴田元幸さんの雑誌『モンキービジネス』がリニューアルして復刊!というニュースを聞き、買ってみた。

    第1号ということで、柴田先生のソウルメイトともいえる、ポール・オースター大特集。オースターの若き日の未刊行原稿の訳やら、オースターAtoZなど、全力でオースターてんこ盛り。でも、私は残念ながらオースター作品が大好きというほどではないので(端正だなあと思って読むことはあるんだけれど、小理屈っぽさが私の好みの方向でなくて、ちょっとめんどくさい)、この全力オースター特集よりも、後半に並んだ、のちのちの連載になると思われる作品のほうが楽しかった。中でも、門馬太喜さんとおっしゃる作家さんの短編『白足袋』が、この号ではいちばん好み。アリス・マンローに似ているけど、言葉がもう少し簡素な感じで淡々と美しい。主人公と白足袋のつながりには、書かれている以外の関係があるのではないかとうっすらにおわせるように書かれた、終盤の雰囲気のよさ(ちょっぴりのあやしさも含む)も素敵。

    巻末の村上春樹の講演録「職業としての小説家」も面白かった。例によってハルキ節全開だが、彼の小説を読んでいるときのように「チッ」と舌打ちしてしまう面倒くささはなく、直球で知的に面白い。筆一本で食べていくことと、その周りのことに関して、小説家を目指そうとするかたがたにはプラクティカルな部分も見受けられるし、こじゃれた言い回しを使うようで実はプロレスネタという、おっさん的なユーモアの効かせかたも緩急が付けられていて愉しい。個人的には、彼は翻訳と、こういった講演形式も含めた、英米のコラムのような文章を書くほうが向いているように思う。

    『モンキービジネス』のときも思ったけれど、これだけ自分の好きなものでがっちり固めて、しかもメジャー路線(といってもガイブン界隈での話だけれど)に持っていけるところは、やっぱり柴田先生の選球眼と誠実なお仕事っぷりで築いた信頼のなせるわざなんだろうなあと感じた。次号の特集「2010年代の文学」も楽しみ。

  • 「柴田元幸」責任編集で特集が「ポール・オースター」、というワタシのキーワードが二つ入ったこの創刊号を早々に買ってはいたものの、第二号を先に読んでしまったせいか、ずっと積ん読になっていた。そして、海を渡ってようやく読了。
    目玉のひとつは、若き日のオースターが1967年から70年にかけて書いた未完の小説の草稿・断片の柴田元幸による翻訳。洗練されたとは言い難い文章なのだけれど、それが逆に「書かずにはいられない」という若き日のオースターのほとばしる情熱を感じさせる。もちろん、オースターを知りつくした柴田さんの訳が秀逸だからに他ならないわけだが。
    それにしても、この草稿・断片の後に続く著者と訳者の対談を読むと、お互いのことをいかに理解し、いかに尊重しているか、ということがよく分かる。自分のことを理解してくれ、自分の作品のほぼすべてを外国語に訳してくれる人が存在するということに、作家はどんな思いを持つものなのだろう。
    そんなふうに感じたワタシを見透かしたかのように、本書の中で柴田さんがなかなか素敵な表現を使っている。
    『ひととひととがかかわりあうということは、たがいたがいの物語を書きあうことでもあるのではないか、それこそが「生きるということの意味」なのではないか』

  • Twitterのフォロワーさんにオススメされたので読んでみる。
    表紙から他の雑誌と一線を画している雰囲気。内容もオースター好きには満足満足。
    いつかNYに行きたい。

  • この手の本は、ソファーに埋まりこむようにして、淹れたてのコーヒーをお供に愉しみたい。好きな作家を挙げるとき、ぱっとオースターの名前が出てこない私が読んでも、とても面白かった。特に、柴田元幸、高橋源一郎両氏との対談、ポールオースターAtoZは興味深く、春樹氏の、小説、小説家という職業をめぐる、率直で真摯な物言いには、やはり胸が熱くなった。雑誌は隅々まで、というのが難しいけれど、余すところなく堪能できたのも嬉しい。次号もたのしみ。

  • 10年越しに、ようやく読了。
    今となってはもう思い出せないのだけれど、如何なるきっかけからかポール・オースターの著作と出会い、柴田先生を知り、縁あって『MONKEY』を創刊からずっと買い続けている。
    ポール・オースターは、私が「海外小説と日本小説の違い」を強く意識するきっかけとなった作家だ。つまり、私が初めて「多民族国家」に出会った作家だった。長い一文、細かな人物容姿の描写。その傾向がこの20代の頃に書かれた草稿にも見られることで、確信は一層深まった。とりわけ印象に残ったのは、『3 フルーム族』。生きていく限り切り切り離せない<肉体>からの脱却を目指すこの民族は恐らくオースターの創作だろうが、しかし、我々は誰もがフルーム族同様、己の肉体から逃れたいと願っているのではないか。欠落や喪失が生む物語を求めているのではないか。そう思わずにいられない。
    オースター以外にも、読み応えのある作品が2つあった。
    第一に、門馬太喜の『白足袋』。最後に「私は今、見知らぬ街の古い墓所、苔むした墓石の下に白足袋とともに眠っている」の一文を見て、「やられた!」という感が強くこみ上げた。白足袋は、正直この物語の半分にも登場しない。立場も、最後に残った娘の夫としてであり、義理の息子としての印象も薄い。それなのに、たったこの一文で、主人公の<私>の半生そのもの、いっそ片割れのようでさえある。以前、保坂和志の「書きあぐねている人のための小説入門」という本で、「回想で繋ぐ小説はデメリットの方が大きい」とあった。使い古された手法であること。現在を説明するためだけに挿入されるという構造が多く平板化しやすいこと。心情が変化することが少なく、小説としての運動量が小さいこと。これらにまるで反論や挑戦でもするかのように、この物語は鮮やかに<回想>のテクニックを使っている。もちろん、そう感じるのは読んだタイミングのせいもあるだろう。だが、いっそ清々しい悔しさを感じるほどに、してやられた感があった。体言止めを作品全体で行ったような最後の一文も、一人の女の人生が見知らぬ街、古い寺、墓所、墓石、そして恐らくそこに刻まれているであろう女の没年や享年まで目に浮かぶようで、動的でありながら、確かに収束・終息していくようで、あまりにうまくできすぎている。久々に、目の前が開けるような作品に出会ってしまった。
    そして第二に、村上春樹の『職業としての小説家』。食わず嫌いを続けてきたハルキワールド、ファースト・エンカウントがまさかエッセイになろうとは。正直、「これ、寛容と言っていいのか……?ただの高みの見物では……?」と思いはしたが、小説を書き続けることの難しさには首肯せずにいられない。趣味でやっているはずの今の私が、まさにその状態である訳なので。でも、そうすると、二次創作を続けている人たちは少なくとも、その資格というか才能というか、能力があるということなのかもしれない。気をつけろ、思いの外、卵はたくさんありそうだぞ。でも、村上春樹は多分言うんだろうな。「リングにようこそ。」と。うーん、やっぱり寛容ではないんじゃないかな?
    最後に、猿からの質問、「あなたがいたい場所」について。私なら、多分こう答える。「ここ」。タイムマシンで過去に戻れても、私はここに戻ってくるために選択し、同じ道を辿るだろう。であれば、私にとってはいつだって、<いたい場所>は<ここ>でしかありえない。

  • 何だか読んでしまうのがもったいなくて、ずっと本棚にあるのをにこにこ眺めていた一冊。
    読書会で「幽霊たち」を取り上げることになり、潮時だ、と手を伸ばした。
    若かりし日のオースターの、未完小説が数編。
    どれも、その後の作品よりも表面的には込み入って見える。
    柴田氏の訳でも、正直わかりづらい。
    この後のブランクによって、文章と物語のバランスが取れるようになるのだろう。
    それでも面白い。
    柴田氏のエッセイも非常に面白かった。

  • おすすめ資料 第228回 (2014.3.20)
     
    2011年秋に休刊した「モンキービジネス」。
    海外文学に興味がある人のための、ポップな文芸誌でした。
    タイトルも出版社も違いますが、「モンキー」はその後継といって差し支えないでしょう。

    創刊号はポール・オースターの特集です。
    初期の未発表作品、柴田元幸によるインタビュー、高橋源一郎との対談などが掲載されています。

    Vol.2以降も順次受け入れる予定です。

  • 柴田さん責任編集の創刊号。

    オースターのインタビューに村上春樹のエッセイとたまらない内容で、買い続けたい文芸誌ができました。

  • 遅ればせながらVol.1を読了。オースターをたっぷり楽しめる1冊。

  • MONKEY Vol.1青春のポール・オースター号 http://www.switch-store.net/SHOP/MO0001.html … 読んだ。オースターの名前を見るとつい買っちゃう。NYCの図書館に収蔵されているというオースターの習作9点、柴田元幸によるインタビュー、あと高橋源一郎との対談が意外によかった(つづく


    「あなたがいたい場所」という特集がおもしろかった。どういう場所を理想とするか、著名人各々の好みを読めて楽しいというだけでなく、単純で制約もないこういう寄稿依頼に何を返してくるかはその人の自意識が透け見えてしまっていて、つまりちょっと読んでて恥ずかしいものもある笑(つづく


    そしてまたハルキムラカミを読んでしまってイライラした。読まなきゃいいんだけど次のページに出てきたら目はどうしても文字を読んでしまう。なんか例によって小説家の定義について説教臭い独り言を書いていた。作品の良し悪しや誰を小説家とみなすかは自分以外の人が決めるんだと思うけどね(おわり

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著者プロフィール

1954年生まれ。東京大学名誉教授、翻訳家。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベックなどアメリカ現代作家を中心に翻訳多数。著書に『アメリカン・ナルシス』、訳書にジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒けん』、エリック・マコーマック『雲』など。講談社エッセイ賞、サントリー学芸賞、日本翻訳文化賞、早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞。文芸誌『MONKEY』日本語版責任編集、英語版編集。

「2023年 『ブルーノの問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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