職業としての小説家 (Switch library)

著者 :
  • スイッチパブリッシング
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感想 : 353
  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884184438

感想・レビュー・書評

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  • 又吉騒動を予見したかのような小説家寛容論、とくにいらない芥川賞論や、最近パクリ騒動を予見したかのようなオリジナリティ観、学校教育というものへのつまらなさくだらなさや不信感またその逃げ場のサードプレイスとしての書物観、などなど数年前から書き溜められていたという講演風エッセイというわりには、様々にアクチュアルな今の日本の事象に絡みついてくる柔らかい言葉で綴られた「自伝」でありながら、深いところでの信仰告白があり、村上氏は基本なんというか「期待しない」が「信じる」というスタンスが基部にあり、無論謙遜含みつつであるが村上氏自身の作家能力に対してもその姿勢だし、また創作行為および文学ジャンル全般へ「期待しないが信じる」という姿勢を強く貫かれている。

    逆に「期待ばかりしているが信じていない」という態度は我を含めて様々な領域で観る事例であるけども、何事にも不毛な結果しか招いていないし、またそういう態度をあからさまに出す人は、我を振り返って思うけど、自分自身へも様々な事象へも、妙に「期待ばかりして」妙に「信じていない」。

    その「信じる」って何かっていうと別にスピリチュアルとかそういものでなく、変なレトリック使うと、こう「あけっぴろげの何かを預けてしまう」というか「もうこっちの思惑はどうでもよいから、そっちにすべて預けます」という、一番大事なものを頑強だけがとりえな金庫の中に抱え込まずに、そっちの本来の様々に自生する力に託すという姿勢であり、なんかこの姿勢が、氏の様々な問題の解決能力の基部になる重要なタフな楽天性なような気がします。

    最悪の事態はあれど事態は必ずにそれ自らのうちで解決に至れるのだという確信を持たれている。

    なので、波間に浮き沈む藻屑状況に目先だけで一喜一憂もしなければ期待もしない。ただ、底の深く重い流れの潮は信じ、その流れにおらっと身を放つ姿勢の、妙な開き直ったサッパリとした覚悟があり、それが潔くよく気持ちよく、また非常に公正にみえ、であるからこそ、読んでいるこちらまで不思議と快活に「しょうがないじゃないか」と開き直った気分になれるような、妙に自己啓発的な本でもありました。

    もっとも、自らを「ごく普通の人間」と自覚される「村上春樹」という世界文学作家の修行僧にも似たストイズムは一切普通ではないユニークな位置に到達しており、第二の「村上春樹」という作家は今後あり得ないだろうなと思いますが、実作者が語る世界文学上の様々な作家のエピソードを裏付けするような「とにかく若いうちに多くの本を手に取った方がいい」というメッセージを発してくれてよかったなと思います。

  • ダメだ春樹さんがかっこよすぎて辛いから、巻頭読んだだけで積ん読! カバーかっこよすぎる。

  • 何作か読んだことあるんですけど、独特の文体とか、(良い意味で)もやもやした読了感みたいなものの裏にあった作者の姿勢に触れられるのは楽しかったです。こういうすごい人がどういうことを考えて生きてるのかを聞けるのって幸せ

  • ある意味小説よりも面白かった。
    僕はもしかすると、村上春樹という小説家が紡ぎ出す物語よりも、彼の文体、リズム、物事への姿勢というようなものが昔から好きなのかもしれない。

  • 村上さんの小説家としての「思惟の私的プロセス」をまとめた一冊。

    語りかけるような文体ではあるけれど、職業作家としての根幹に関することなので、こちらとしても背筋を伸ばして拝聴する、というかんじ。
    だからといってかた苦しいわけではなく、とてもわかりやすい。

    小説家になる予定はないけど、何度でも読み直したい。手元に置いておきたい。こういう生き方もあるんだなって、励まされるというか…うまく言えません。

    とにかく、村上さんの小説に対する姿勢を尊敬するし、これからも村上さんの作る「物語」を読み続けようとあらためて思ったしだいです。

  • 著者の小説家としての考えていることなどが書かれている。
    上から目線ではないところが読みやすいです。
    小説家を目指している読者への言葉は参考にしたくなると思う。

  • 村上春樹のデビュー三作は面白いと思ったけど、そのあとは何が面白いかがわからないまま読み続けていた。でもこの本でなぜ村上春樹が書く小説に惹かれてしまうのか、納得ができた。「走ることについて語るときに僕の語ること」を読んだ時にも感じたことだけど、この本で決定的になった。考えるのはもちろん頭なんだけど、その前にカラダが見たり聞いたり、時には歩いたり触ったり、そして書くというルーティンをすることでものごとが整理されていく。カラダは頭の代わりにせっせと情報取集してくれているわけだ。
    村上春樹の”心の強靭さを維持するためには、その容れ物である体力を増強し、管理維持することが不可欠になります”という言葉にとても共感する。仕事で立ち向かっていく元気をなくしたとき、家庭でのポジションが後退していることに気がついたとき、オイラは走り始めた。カラダが健康になるにつれて、ココロも元気を取り戻し始めた。健康なカラダを維持するための自分なりのルーティンができた。ビックリするくらい、同じことを毎日繰り返すことになる。でも、退屈ではない。これがオイラのココロをいつも元気にする方法だからだ。村上春樹の小説のなかにルーティンをこなす登場人物が出てくることがあるけど、淡々として面白みがなさそうなその姿に好感をもってしまう。健全なカラダで丁寧な生活をすることで、ココロを穏やかに暮らしているんだな、って。だから村上春樹の小説は見かけによらずタフなんだと思う。「気分が良くて何が悪い」「十分に生きる」「健全な野心を失わない」、それぞれ印象的な言葉だ。

  •  全12回の村上春樹の講演を聴いているような、非常に濃密で読み応えのある、なおかつ一単語も無駄のないエッセイだった。MONKEYで既読の内容もあったが、改めて読んでも楽しめる。

     村上春樹は、言わずと知れた世界的作家だ。50の言語に翻訳されている作家なんて、世界を見渡しても、長い歴史の中でもそうそういるまい。作品に対する好き嫌いはあれど(熱狂的ファンも多い一方でアンチも多いらしい)、それは誰もが認めるところであろう。そんな人物だからこそ、多少鼻高くなってるんちゃうの?なんて思ってしまうが、氏は驚くほど謙虚だ(すぐ調子に乗る浅はかな自分が恥ずかしい。私なら「世界中どこでも好きなところに行って、いくらでも経費を使って、好きなように紀行文を書いてください」なんて依頼喜んで飛びつくわー)。
     書いているあいだの批評・助言を必ず受け止めること。自らを“天才でない”と評し、ゆえに日々フィジカルの鍛錬を欠かさないこと。これだけ売れても、自らを常にアップデートしていること。“ええかっこしい”で言っているわけではないと思う。これだけまっすぐで深い文章からは、嘘など微塵も感じない。

     感銘を受けた箇所はたくさんあるけれど、とりあえず3つ挙げておく。

    ・オリジナリティーとは、独自のスタイルがあることだけではない。そのスタイルを自らの力でヴァージョン・アップできること、時間の経過とともにスタンダード化され、人々の価値判断基準の一部として取り込まれることも必要だという。オリジナルを生むには努力が必要だし、心の乱れは邪魔になるのだろう。

    ・読書の効用を巧みにまっすぐに語ってくれていること。私自身本をよく読むようになり、人間関係は狭くなったけど世界が広がった実感があった。学校が合わない、生きづらさを抱える子どもたちが、村上春樹がこのように語ることによって読書の効用に気づいてほしいと願う。

    ・リック・ネルソンの『ガーデン・パーティー』の歌詞
     もし全員を楽しませられないのなら
     自分で楽しむしかないじゃないか
     無責任な言葉に惑わされないためにも大切にしたい言葉!

  • 村上春樹の Work ethic を学べる良い本だった。特に、「第六回 時間を味方につける——長編小説を書くこと」という章は、共感の嵐。また別の章では、日本の学校について比較的強めの言葉で語っている。これは新鮮だった。こういう意見はしない方だと思っていた。

  • 2019年3月19日読了。村上春樹が「小説の書き方」や自分と小説の向き合い方、芥川賞に関する所感などを書き綴った本。世の中に対する軽いエッセイとは異なり、「小説」という氏が全力を傾けているであろう対象に関する考察であるためなかなか力の入った・生々しい独白を見ることができる。小説はとにかくたくさん読み・とにかく書き出して書き続けること、推敲して人に見せること、はスティーヴン・キングの本でも同じことを読んだ気がする、小説家に共通するスキルなのだろう…こういうことを飽きもせず・やり続けることには才能もいるのだろうし、自分の型とかそのためのトレーニングも必要になるものなのだろう。楽して・自己流でできる物事なんて、この世の中にないものなのかもしれないなあ。

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著者プロフィール

1949年 京都府生まれ。著述業。
『ねじまき鳥クロニクル』新潮社,1994。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』新潮社,1985。『羊をめぐる冒険』講談社,1982。『ノルウェイの森』講談社,1987。ほか海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

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