電力改革論と真の国益 (エネルギーフォーラム新書 13)

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  • エネルギーフォーラム
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784885554087

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  • 世間では、電力システム改革について議論がなされている。
    改革論者の論点は、「市場原理を活用し、価格の低減を」、「海外で発送電分離ができて、日本でできない理由がない」、「発送電分離をすることで、分散電源が促進される」、「自然エネルギーの導入が進む」、「周波数の統一化」、「韓国、ロシアとの系統連系」などである。
    筆者は、これら全てにつき、非現実的として切り捨てる。
    電力供給の最も大切なことは、価格と供給の安定であり、まずは、震災後、3割を失った供給力の確保だとする。
    筆者は、自ら特定規模電気事業者(PPS)を預かり、電力自由化の現状を最も実感した実務家であり、既存の電力会社や経済産業省に辛酸をなめさせられてきたはずである。
    その筆者が、現在の過激な電力改革論に警鐘を鳴らすことを、各種委員会の門外漢の委員たちも、素直に受け入れるべきだろう。
    電力システム改革は、学者のお勉強の場所ではなく、国家の存亡がかかっているのだと。この点は、近年、施策の体たらくが著しい官庁も認識すべきだろうが。
    全般にわたって、電力のあるべき姿を現実的、合理的に述べており、現実を知るのには良書であり、一般の人にも読んでもらいたい。
    ただ、唯一、論調が拙速だったのが、「小売りの競争の活性化」である。
    自由化の拡大、活性化は必要だと思うが、安定供給という観点で「供給責任」に対する見解が見当たらなかった。これは、PPS事業者の経験により先走りしまったのだろうか。

  • 3.11以降、エネルギー問題と電力改革論について、大手出版社からは一般向けの新書がいくつか出ているが、たいていは電力事業の本質を微塵も知らない者の放言、デマゴーグに過ぎないしろものであった。
    しかし、本書はマイナーな出版社(原発に反対する人から見れば「原子力ムラの一味、提灯持ち」の出版社で信用できない!と言うかもしれないが)の本だが、内容は学術書といっても良い。著者は電力のプロバイダーとなることを身を以て体験し、その本質を深く考察して慎重な発言をしてきた人であり、信頼できる。
    世の中は総括原価制を批判するのだが、人々が安心して暮らせる社会を維持するために、長期にわたって安定したエネルギーを供給するには、リスクが大きく準備に時間と手間もかかるファシリティを誰かが投資して作らなくてはならない。そして、そういう投資のインセンティブが継続できる制度でなくてはならない。そのために総括原価制があるのだ。市場万能を唱える経済学者のほとんどは、投資回収に命をかけるリアルなビジネスのことなど知らないし、そういうことを知らないことがアカデミズムの本質であると明言していることを忘れてはならない。

  • この関連の本の最近のトレンドして、
    「現在」の事象を近視眼的に論じる風潮が目立つ。

    自由化も発送電分離も、起こすまでの議論で
    非常に夢のあるアイデアや将来を描く論調も多い。
    それ自体は全く問題がなく、それぞれの見立てがあること、
    あるいはエネルギー政策として大局を描く際に
    ネガもポジも含めて、両端があることは大変に意義がある。
    そもそも両翼がなければ政策は飛べない。

    そんな中、この本はあくまで「国益」を論じる際のコアに置いている。

    電力会社の総括原価方式が「国益」を考えると
    どんどん歪んでいってしまったこと。

    PPSの導入に対し、事業者からすれば意図的とも思える
    取り決めがあり、それが結果的に参入障壁となってしまい、
    「国益」を考えた際に十分なカンフル剤にならなかったこと。

    それらを含めて、非常に潔く、現在の動向を論じている。

    著者がPPSの出身とのことで、若干思い入れがある点は
    個人的にはもっと客観的に論じていただきかったが
    それを差し引いても、この値段でこの内容なら
    十分お釣りが来ると思う。

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