戦後日本を狂わせたOSS「日本計画」: 二段階革命理論と憲法

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  • 展転社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784886563613

感想・レビュー・書評

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  •  OSS?二段階革命理論? まずこの二つから疑問符をもつ方も少なくないのではないだろうか?
     
     OSSとはOffice of Strategic Services の略で、戦後創設されたCIA等の諜報機関の前身になった組織である。またこの組織は第二次大戦前から稼動しており、対日戦略、対独戦略の戦中戦後の方針に大きく影響を及ぼした組織である。

     二段階革命理論とはソビエトのような暴力革命による一気の共産主義社会実現を目指す革命ではなく、封建的な側面を打破し近代的資本主義社会を実現する(第一段階)、そうした後、資本家階級を労働者階級が打倒し社会主義革命を達成(第二段階)し、革命を完成するという理論である。日本の場合に当てはめてみると、第一段階で軍閥、ファシストを打破し、天皇は象徴として残す(現代日本)を経て第二段階に至る青写真である。ここで用いた「軍閥」や「ファシスト」の表現や「階級」という切り口が日本に於いて本当に妥当であるかどうかは不問にしておく。また定義も明瞭かどうかも本当のところは疑問な点である。ここではあくまでも二段階革命理論を説明するために、左翼用語を用いて一応の表現をしてみました。

     さて、第二次世界大戦後の日本の占領期を中心に分析書では主にGHQを中心にして論述しているものは数多あるが、本書の目玉というかポイントはOSSに光を当てた点であろうと思う。まだまだOSSに関連して調査すべき点が多数残されており、断片的な情報のみの把握に留まっているようですが、その断片的な部分と既存の他の自明な部分から推論や推理を重ねて、ザックリと指摘すべき事柄や主張すべき事柄、すなわち本書の題名に付されているとおりの主張に繋がるわけである。ここで著者がいう「戦後日本を狂わせた」とは保守思想(伝統文化を大切にし育む、また時間の連続性を大切にし先祖や子孫のことに思いを馳せて豊かに生きていく思想とでもいいましょうか。定義は人の数だけありそうです)の退廃、左傾化した現代のことを「戦後日本を狂わせた」と表現しているのではないかと読み取りました。

     本書で指摘されている細々した多く事例や推論が果たして順当解釈なのか飛躍解釈なのかは、専門家で無い限り十分に把握することは困難だと感じましたが、少なくとも大枠でその言わんとするところを読者それぞれが現実の経験や知識(現代の日本人を前提にしています)に照らし合わせて吟味すればわかる部分ではないかと思います。

     ただ、仔細の妥当性の検証はさておき、著者が故意に嘘でも付こうと思わない限り間違いなく事実であろうと考えられる指摘事項で、あまり他書で指摘されていないと思う事実を列記してみる。

     ① 戦前にアメリカ中枢にソビエトのスパイが少なからず浸透しており、その勢力が対日戦略に大きく影響を及ぼした という指摘は多くの書で指摘されていることであるが、実はソビエトとは無関係にアメリカ自身が昭和22年頃までは容共に傾いており、戦後の冷戦が始まる以前はまったく異なった政治環境であった事実。
     ② このアメリカの容共政策で戦後の国共内戦を毛沢東勝利に帰するように蒋介石に圧力を加えた事実(中国の共産化を事実上アメリカが支援したに等しい事実)。この点に特化して書かれた書が近年発行しているようですが、そちらを読めば詳しいかもしれません。
     ③ このアメリカ内部にいるコミュニストがOSSに多数在籍しており、OSSコミュニストが戦後の象徴天皇制の方針を打ち出していた。決してマッカーサーが象徴天皇制を考案したのではない。
     ④ 日本国憲法はOSSコミュニストが二段階革命理論実践を準備するために作った。
     ⑤ 戦後の公職追放で数十万の保守系知識人が日本共産党の協力の下でOSSが手際よく選別され追放された事実。
     ⑥ その他、戦後の農地改革や、教育基本法、労働関係法などほとんどすべての戦後大改革(社会主義化への改革)が米ソ冷戦が明確化してアメリカの容共政策が大転換を迎える昭和22年までに準備されてしまった事実。

     これらが戦後日本の方向に多大な影響を及ぼしたと著者は考えている。

     その他現代に至るまでのマスコミや大学における思想のベクトルが戦後の数十万人規模の公職追放の折に保守系の良識が一掃され一気に左翼系人物がポストを占めたことによる後遺症が連綿と続いている事実が、半世紀以上かけて広く一般大衆に与えた文化的・伝統的・思想的 陰に陽に計り知れない影響を与え続けていると指摘している。

     本書はまだまだ光を当てられ始めたOSSに関する序論と考えてもいいかもしれません。今後さらなる多くの研究者によってOSSに関する、またOSSの及ぼした多方面への影響等等の一定の評価や見方が定まってくるのではないかと思います。

  • おぉ、神よ!正義の女神が虚偽からその仮面を剥ぎ取った暁には、必ず、ルーズベルトに裁きを加え、我が国の英霊に名誉を与え給え!

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著者プロフィール

昭和17(1942)年東京生まれ。東京大学文学部仏文科、美術史学科卒。ストラスブール大学に留学しドクトラ(博士号)取得。文学博士。東北大学名誉教授。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める

「2024年 『日本国史学第20号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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