反大学論と大学史研究―中野実の足跡

制作 : 中野実研究会 
  • 東信堂
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レビュー : 1
  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887136151

作品紹介・あらすじ

2002年、50歳で急逝した中野実には、大学史研究者として知られる近年の顔のほかに、かつての激烈な体制批判者、「反大学」論の書き手としてのもう一つの「顔」があった。この二つの顔が現在の我々に投げかけるものは何か。すでに一般の目に触れる機会もない70年代の反大学論・教育批判論、多岐にわたる世代・立場の師友が痛切な思いで語る回想・追悼文-その狭間に浮び上がる独自の人間存在の軌跡。

感想・レビュー・書評

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  •  書店で手に取ってみてよくわからなかったのが、「中野実」という人物。私たち教員には心当たりのない人物だが、「反大学論」という刺激的なタイトルに惹かれて買ってしまった。厚さから言えば『学校は軍隊に似ている』よりはお得かも。じゅうぶんに厚い。そして熱い。腰帯に「七〇年代の日本とは何であったか!」と書いてあるところを見ると大学紛争後の残り火の奇妙な熱さを感じないわけにはいかない。
     中野実という人物は二〇〇二年に五〇歳で亡くなった東京大学大学史史料室の助教授だという。東大で大学史をやっていた人だし、わざわざ故人名を冠した研究会が編集するくらいだからよほどの大人物で、東大生え抜きの人間かと思いきや出身校は立教大学と書いてある。なんかついついこの人物について知りたくなってしまって読み耽ってしまった。
     どうやらこの人物が大学史という研究領域では第一人者であったことはわかった。いやいやこういう(「…だそうだ」みたいな)書き方をしてはいけないみたいだ。この業界の某センセイにうかがったら、大学史の世界では知らない人はいないくらいの人なのだそうだ(あっ!またかいてしまった)。だからその若くして亡くなったことは学界の大きな痛手なんだと。
     確かに早世した故人を悼む本ではある。しかし、内容は文字通り「反大学論」なのだ。内容は三部に分かれていて第一部は「序」。「序」といっても座談会「中野実の人と仕事」と「一九七〇年代の中野実」(米田俊彦執筆)という論文からなり、これで七〇年代が少し見えてくる。殊に東大で当時助手だった宇井純なんかが登場する自主講座「大学論」や五十嵐良雄が主宰して世にもの申していた現代教育研究所なんかにも真ん中で活躍していた人物だということが記されている。すげぇ。大学に入ったころにはもう紛争の臭いなんか消えていたあちきにはかなり新鮮な時代の空気を感じたね。冒頭にすでにこの研究会が二冊本を出しているというので調べてみたら、『大学史編纂と大学ア-カイヴズ(野間教育研究所紀要 ) 』野間教育研究所(二〇〇三年三月出版 五〇〇〇円+税)と『近代日本大学制度の成立』吉川弘文館(二〇〇三年十月出版 九〇〇〇円+税)の二冊だということがわかった。それで再び某センセイに聞いたらどっちもその筋では必読書みたいな本だということだった。しかし、問い合わせたらこっちの二冊は現在では入手不可能なんだと。惜しかった!
     で、第二部は「一九七〇年代の反大学論・教育批判論」となっていて、中野実氏が一九七〇年代に書いた論考がまとめられている。現代教育研究所なんて知る人ぞ知る組織の中心にいた人物らしく、時には筆名を使って原稿を書いていたようだ。そりゃそうだろう、大学史研究という学問研究をしつつ、その傍らで反大学論や教育批判を書いたのだから。かといって矛盾を抱えていたわけではない。緻密な(ほんとうに緻密な研究者だったらしい)歴史研究の土台があって大学を批判できる、大学の中にいてこそ大学の批判ができる。そういう生き方を全うした人物なのだろう。もとより短い文章として書かれたものを集めてあるのですごくわかりやすいし、七〇年代の大学問題、教育問題が手に取るようにわかるだけでなく、中野実という教育研究者のすごさに圧倒される。まさにもっと早く知っておけばよかったのに…、と後悔してしまった。
     第三部は「回想・追悼文集」となっていて中野実氏と親交のあった人たちによる文章が載っている。これも某センセイに聞いたところその業界ではビッグネームが並んでいるんだと。
     いずれにしても本書は一個人の死を悼む本のようでいて一九七〇年代を語る本であり、今の腑抜けた教育界に喝(かつ)を入れる一冊であることはまちがいない。思わぬ拾いものをした一冊であった。


    ★★★★ 子どもたちにビシバシ勉強させて、大学に送り込む。その先がどういうところか教員というのはちゃんと考えているのだろうか。大学が全入に近くなるという。そんな時代の中であちきたち教員が持たなければならない問題意識みたいなものをあちきは七〇年代の燃え残った熱気の中から感じ取ったのだ。

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