ヴィクトリア朝の昆虫学: 古典博物学から近代科学への転回

  • 東洋書林
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887217850

作品紹介・あらすじ

蒐集と偏愛の博物学が全盛を迎え、階級社会が栄華をきわめたヴィクトリア朝の英国は、ダーウィニズムと宗教との軋轢やフランス革命の余波に揺れる変革の時代でもあった。そんななか、近代昆虫学はいかに「科学」として確立していったのか?帝国主義による採集地域の拡大、農業利益の追求や社会モデルとしての生態研究など、言及される機会が決して多くはなかった挿話の数々を、当時を物語る数十点のユニークな稀少図版とともに詳述する。

感想・レビュー・書評

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  • 昆虫学をめぐるあれこれ。
    虫を調べるという一見安全無害な研究も、やっぱり政治でイデオロギーで思い込みで、その時の立場やなにやらを投影される。
    「観察」や「分析」という手法を通してさえ、見えたものを解釈するのは「常識」や「倫理」で、虫の生態や行動さえも人になぞらえて「あるべき姿」の手本にされる。
    という構造を描きつつ、この本も似たようなことをやっているのがなんだかなあ。
    せっかく面白いテーマを扱っているのにもったいない。

    結果と原因の相関を印象だけで語っているような部分がいくつか見られる。
    よく調べた内容ではあるのだろうけど、よく練られた思考ではない。
    当時の状況を知るには面白いが話半分にざっと見るのがよさそう。


    とりあげる人物をいちいち馬鹿にするような書きぶりが気に入らない。
    特に8章。「男社会のなかで(自分を含めた女性を抑圧する枠組みを再生産して)上手に立ち回る賢い女性」を賞賛し、「ヒステリックなフェミニズム」を揶揄する化石のような偏見にうんざりする。
    オーメロッドの直面した問題について(調べて?)「知っている」のにこういう書き方にしかならないというのはどういうわけか。


    内容からの連想。
    ・アリやハチの集団生活を「自然な(あるべき)社会」の根拠にしようとする態度は、「同性愛なんて不自然」というセリフに似ている。
    カマキリになぞらえて「種まき後の男は妻子の栄養になって死ぬのがあるべき姿」とは言わないのに都合のいいところだけ「自然」を引き合いに出す。

    ・「ミミズの話」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4864100306に出てきたミミズがダーウィンに進化する絵ってこれか!

    ・ホームズが養蜂してたのは「田舎でのんびり」じゃなくて流行に乗った探求的な部分もあったのか。

    ・害虫の項、
    虫を人のように描くイラストはオズの魔法使いを思い出す。大学で学びでかくなるあの虫はこの頃の世相を反映しているのだろうか。http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/B000J91C2W
    コロラドハムシの頃のアメリカ。ローラ・インガルス・ワイルダーの描いた蝗害はこのあたりか。http://booklog.jp/item/1/4001145154
    ジャガイモの国・アイルランドの感じた「主食のなくなる恐怖」は「カブラの冬」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4409511122と関連か。

    ・エリナー・アン・オーメロッドは裕福な「独身」女性昆虫学者。
    すでにいる人たちを脅かさない領域を新たに見つけ出し儲けを出さず政治に口を出さずひかえめな態度で居場所を確保する。
    無害な笑顔で手を振るくらいしか許されないどこぞのおひいさまのようだ。

    ・造園に自然の美を求めるピチャレスク派と人工美を求めるガーデニスク。
    「秘密の花園」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4834007588の管理された外の庭と自然に少々手を加える隠れた庭は教育の暗喩だけじゃなくて庭そのままの意味もあったんだろうか。

    ・眠り病とツェツェバエはやっぱり植民地的。http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4000074806

    ・馬車がゆきかう都市(素敵)と馬の糞尿(不衛生)は切り離せない。

  • k

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