生まれてバンザイ

著者 :
  • 童話屋
4.33
  • (47)
  • (34)
  • (15)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 290
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (153ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887471047

作品紹介・あらすじ

俵万智さんが、赤ちゃんを生んで、唄った母の歌。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 短い短歌に詰まったみずみずしい赤ちゃんの感触だったり、眼差しだったり…匂いまで伝わってきそうな、そんな感じがした。
    我が子もこんなだったんだよなぁと懐かしくもあり、淋しくもあり。
    とても良い。うん、とてもよかった。

  • 第一歌集「サラダ記念日」の

    陽のにおいくるんで
    タオルたたみおり
    母となる日が
    我にもあらん

    という歌で、将来の自分を思い描いていた、俵万智さんの、息子さんと共に人生を歩んでいった、もう二度と取り戻すことのできない時間を摘み取った、記録のアンソロジー。


    息子さんの生まれる前は・・

    ぽんと腹をたたけば
    ムニュと蹴りかえす
    なーに思っているんだか、


    秋はもういい匂いだよ
    早く出ておいでよ
    八つ手の花も
    咲いたよ

    と、期待で胸がいっぱいの様子に、読んでる私も胸が温かくなる。


    生まれた後は・・

    バンザイの姿勢で
    眠りいる吾子よ
    そうだバンザイ
    生まれてバンザイ

    ふるえつつ
    天抱くしぐさ
    育児書は
    モロー反射と
    簡単に呼ぶ

    ついてってやれるのは
    その入り口まで
    あとは一人でおやすみ
    坊や

    一、二、三、
    四秒立った
    五、六、七、
    八秒立った
    昨日今日明日

    その一秒一秒への想いの深さは、他のそれと違う気がする。


    ときには、母の苦労や責任感もあって・・

    泣くという音楽がある
    みどりごをギターのように
    今日も抱えて

    親子という言葉見るとき
    子ではなく
    親の側なる
    自分に気づく

    夜泣きするおまえを抱けば
    私しかいないんだよと
    月に言われる

    自分の時間
    ほしくないかと問われれば
    自分の時間を
    この子と過ごす

    揺れながら
    前へ進まず
    子育ては
    おまえがくれた
    木馬の時間


    それでも子はかわいくて・・

    しがみつきながら
    体をかたむけて
    子は
    犬という生き物を見る

    一人遊びしつつ
    時おり我を見る
    いつでもいるよ
    大丈夫だよ

    こんもりと尻あげたまま
    眠りいる吾子よ
    疲れた河童のように

    さよならの
    意味を知らないみどりごが
    幸せ分かつように
    手を振る

    叱られて
    泣いてわめいてふんばって
    それでも母に
    子はしがみつく
    (私は独身で子供もいないけど、それでも胸がキュッとした)

    何度でも呼ばれておりぬ
    雨の午後
    「かーかん」
    「はあい」
    「かーかん」
    「はあい」

    怖れつつ
    こちょこちょを待つ
    子の瞳
    濡れた小石のように輝く

    箸はまだ持てない
    吾子の右の手が
    我よりうまく
    バッタをつかむ

    ぼくの見た海は
    青くなかったと
    折り紙の青
    持ちて言うなり


    そして、母の想いの尊さと際限なき深さに・・

    私から生まれ
    私に似ているが
    私ではない
    私のむすこ

    葉桜のみどりに
    すいと手を伸ばす
    坊やいつまで
    私の坊や

    舟になろう
    いや波になろう
    海になろう
    腕にこの子を
    揺らし眠らし

    たんぽぽの
    綿毛を吹いて
    見せてやる
    いつかおまえも
    飛んでゆくから

    アルバムに
    去年の夏を見ておりぬ
    この赤ん坊はもう
    どこにもいない

    振り向かぬ子を見送れり
    振り向いた時に振る手を
    用意しながら

    一生を
    見とどけられぬ寂しさに
    振り向きながらゆく
    虹の橋


    こうして見ていくと、歌それぞれに、その現実感に満たされた、息づかいや肌ざわりも感じられるような、やわらかくてあたたかい生の瞬間瞬間を、消え去らないうちに、俵さんが素早く摘み取って、歌としたような強い印象を受けまして、それは、まえがきで彼女が書いている、『子育ての歌は、刺身』だという言葉そのものだと思いました。

    子どもとの時間は、とびきり新鮮で、とびきり美味しいけれど、あっという間に古びてしまう。
    そんな一度きりの、二度と取り戻せない時間だけれど、こうして歌にすることで、いつでも何度でも、その時の鮮度を取り戻すことができる・・改めて、言葉ってすごいし、短歌ってすごい。

    また、歌人の穂村弘さんが、「ひとつの歌との出逢いは、ひとつの魂との出逢いである」といった言葉も思い出し、ここでの俵さんの母としての、その想いがまさに彼女自身の魂であり、しかもそれはとても温かくて厳しくて、そして、ちょっと切ない。
    そう感じると、お母さんだけでなく、大きくなったお子さんが読むのもいいかもしれない。

    子のいない私が読んで、これらの事を感じるのだから、子育て中の方は、尚更、感慨深いものがあるのかもしれませんし、子育て中の、辛さや悩みにも寄り添ってくれるような、共感の思いも、もしかしたら抱くのではと思っております。

    短歌を読んだことのない方でも、歌が縦に一続きに書かれた、一般の表記方法ではなく、リズム感に合わせて、幾つかに文体を分けた表現になっているので(上記の歌たちも、それに倣って掲載しました)、その親しみやすさも相俟って、お薦めですよ。

    また、私は私で、今回のアンソロジーを実現するきっかけになった、同じ童話屋の詩集で、息子さんお気に入りの「パタポン」を読んでみようと思いました。

  • 友達の出産祝いに贈ろうかなと思って自分でも読んでみた。いつか自分ごととして読める日が来たら再読したいな。

    バンザイの姿勢で
    眠りいる吾子よ
    そうだバンザイ
    生まれてバンザイ

    たんぽぽの
    綿毛を吹いて
    見せてやる
    いつかおまえも
    飛んでゆくから

  • 『納豆は「なんのう」
     海苔は「のい」となり
     言葉の新芽
     すんすん伸びる』

    今は生意気盛りな娘が
    ヨチヨチしていた頃を
    思い出して涙。

    あの頃は紛うことなき
    天使でした。

  • 子育ての頃を思いだしました。どれを読んでもあるあるです、今思うと本当に幸せな時間でした。もっと存分に幸せを堪能したかったなぁ。

  • 読売新聞 空想書店でのオススメ
    子育ては究極的に喜びだそうだ

    喜びを感じるなんて余裕は
    ほとんどなかったなぁ
    勿体ない

    子育ての歌と少し恋の歌の歌集
    全てよかった 特によかった私のベスト3

    『とりかえしつかないことの第一歩
     名付ければその名になるおまえ』

    『夜泣きするおまえを抱けば
     私しかいないんだよと月に言われる』

    『一生を見とどけられぬ寂しさに
     振り向きながらゆく虹の橋』

  • 俵万智さんの妊娠中から、生まれたお子さんの卒園頃までに詠まれた歌がまとめられている
    私は人間の子育てをしたことはないが子猫をよく拾っていたので、そのことを思い出したりした
    大変だけど愛おしい、もう写真とかでしか見られない小さかった頃
    出産も育児も大変なことだと思うし、必ず生まれた子を愛せるとも限らないけれど、ちょっと心に余裕があったら読んでみてこういう捉え方をしている人もいるんだなと思えたらいいのではないかと

  • 2021.11.07

    Twitterで偶然知った俵万智さんが妊娠〜子育て中の短歌集を出版していると知り、借りてみました。
    我が子を優しく見守る温かい歌、
    成長を喜びながらもいつか巣立って行ってしまうという一抹の寂しさを覚える歌、
    子どもの初めてを一緒に見守ったり支えたりした歌…
    どれもこれも優しさにあふれた短歌ばかりで共感したり、ほっこりしたり。
    「かーかん、はあい」も読んでみたいです。

  •  持ち運びにもいいし、1ページ一首、もいい。
     ただ子どもとのかかわりが中心になるので、子育て・発達を考えるには、恋愛、妊娠前、父親とのことが書いてある『プーさんの鼻』をすすめる。
     最後に少し、恋愛の歌など載せてあるが、全体を読んだ後、例えば『プーさんの鼻』の「卵」などを背景においてみると、全く違って読めると思います。
     子育ては背景があるということを感覚的に経験できると思います。
     
     バンザイの姿勢で
     眠りいる吾子(あこ)よ
     そうだバンザイ
     生まれてバンザイ

     文学はこの一首で味わうのがよいのですが、背景に
     
     不妊という悩み持ちたる女らが手つなぎにくる「子宝倶楽部」(プー、p.64)

     を置くと、ああ、お母さんもいっしょにバンザイしてるのかも、とかまたちがうように感じられる。
     俵万智 プーさんの鼻
     https://booklog.jp/item/1/4167548089

  • 図書館で何気なく手に取った1冊。
    「生まれてバンザイ」は、「サラダ記念日」「チョコレート革命」などで有名な歌人・俵万智さんの妊娠から出産、その後の育児の日々の中から生まれた短歌を編者が選りすぐってまとめた1冊でした。

    普通は1行で表現される短歌ですが、詩のように、言葉の語感や文章の意味を重視して、1ページに複数行に分けて記載されています。
    そのため、短歌に馴染みが薄い人にも読みやすく、その歌が詠まれた時の情景や気持ちがよく伝わってきます。

    日々成長していく子どもとの何気ない日常を、心のシャッターで切り取り、三十一文字の言葉の中にギュッと写し取る。
    素晴らしい才能だと感心しながら、時には育児に疲れ音をあげそうな自分を励ましてくれる歌、小さな幸せに気づき、感動する歌など、1つ1つをできるだけ丁寧に味わって読みました。

    4歳4ヶ月の長女と、もうすぐ9ヶ月になる次女の娠・出産・子育てをしている私には、どの歌にも共感でき、思わず涙が出てくる歌もいくつかありました。
    母にも読んでもらったのですが、やはり母も感じるところがあったようで、母も涙を拭いながら読んでいました。

    現在“母”の女性に読んでもらいたい、これから母になる予定の方にも贈りたい、“珠玉の1冊”だと思いました。(文庫本サイズですが、イラストや色が配され、特別な装丁がなされているので、プレゼントにもピッタリだと思います。)

全46件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1987年の第1歌集《サラダ記念日》はベストセラー。歌集に《かぜのてのひら》《チョコレート革命》《プーさんの鼻》《オレがマリオ》《未来のサイズ》《アボカドの種》、評伝《牧水の恋》、エッセイ《青の国、うたの国》など。2022年、短歌の裾野を広げた功績から朝日賞を受賞。読売歌壇選者のほか、宮崎で毎年開催される高校生の「牧水・短歌甲子園」審査員もつとめる。

「2023年 『旅の人、島の人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

俵万智の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
辻村 深月
村上 春樹
三浦 しをん
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×