誰も語らなかった防衛産業

著者 :
  • 並木書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784890632596

作品紹介・あらすじ

防衛産業は「国防の要」であるにもかかわらず、防衛費の削減により、国産の装備品を製造できなくなる事態が進んでいる。日本の防衛産業の多くは中小企業で、いま職人の技術が途絶えようとしている。一度失った技術は二度と戻らない。安全保障のためには「国内生産基盤」の維持は欠かせないのだ。三菱重工など大手企業から町工場まで、生産現場の実情を初めて明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 防衛産業を取り巻く厳しい現実を知ることができる良本
    我が国の防衛産業各社の血の滲むような企業努力に感銘を受けた。
    また、それらに依存しすぎているにも関わらず、企業の営業を入室禁止にする等、防衛省の姿勢に疑問を感じた。

  • 最初は感情過多な文体にも思ったが、熱心に取材したからこそであると理解。そもそも、営利企業に損得抜きを押しつけて成立している現在の防衛作業に危機感を覚えた。文末の「まとめ防衛装備品調達の諸問題」は必読

  • 国防の要である防衛産業。しかし近年続く防衛費削減により、あろうことか国産の装備品を製造できなくなるという事態が進む。
    たとえば戦車の製造数が減る、すると製造ラインが停止する。それは戦車一両を構成する部品を作る中小の町工場1400社の職人的技術が途絶えるという意味でもある。
    一度失った技術は二度と戻らない。
    「国内生産基盤」の維持ができなくば、安全保障は成り立たない。民主党政権時代の安易な仕訳がもたらした、大手企業から町工場までの生産現場の苦い実情を明らかにする一冊。

    「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」というラテン語の警句がある。意味は「敵に攻撃される可能性の少ない強い社会となれ」と解釈される。
    その意味を間違えずに受け止めたい。

  • ・軍需産業=死の商人
    ・兵器=殺傷の道具
    とする人がいます。

    死の商人とは、イデオロギーに左右されず、金さえ用意されれば売買を行うようなケースを指します。
    例えばベトナム戦争や朝鮮戦争で直接対峙する南北それぞれに武器を売るなど。

    これに対し、軍需産業の基本は「国を護るため」「人を護るため」の産業です。
    兵器もその基本は「抑止力」です。

    こういった基本的な誤解やセンチメンタリズムに流される風潮を念頭においてか、本書は次の言葉で始まります。

    【本書抜粋 著者】
    私たち国民は多額の税金を投じている国防や、それを支える産業について十分理解しているといえるだろうか。
    どんな人が携わり、どれぐらいの時間をかけ、どんな思いで取り組んでいるのか、知っているだろうか。
    ニュースや新聞報道という「断片」でしか、防衛産業に対する評価をしていないのではないか。
    国防の現場を理解することは、国民の務めと言っても過言ではない。
    私たちは、防衛産業に多額の税金を投じて、将来、この国を守れるかどうかに関わる国産防衛装備品、使われないことを祈りながらも、持つことで抑止力となる「国民の財産」を作っているのだ、ということを改めて認識する時期にきているのではないか。
    ---

    また、防衛産業の現場(高い技術が求められる部分は多くの小さな町工場の職人たちが支えている)に取材におもむき、現場の具体的な思いを明らかにしてくれています。
    現場での取材を通して著者が感じたポイントが以下に要約され表現されています。

    【本書抜粋 著者】
    国内の防衛産業がなくなれば、国産装備品の製造ができず、万一有事になった時、輸入に依存していれば供給が途絶える可能性があり、その時点で国家の生命は終わる。
    多くの防衛産業の人たちは「儲かるか」「儲からないか」という次元ではなく、「国を守れるか守れないのか」という視点で、日々研究開発に努めているというのが取材を通して得た私印象だ。
    彼らは、防衛部門をビジネスのツールとしているのではない。
    なぜなら、すでにこの分野では商売としての「うまみ」はほとんどないのだ。
    しかし、世の中はそうした目で彼らを見ていない。
    ---

    また当然ではありますが、技術は生産という形で使われてこそ維持されます。
    我が国では既に、この技術の維持さえ困難なほどに、防衛予算が削減されている実態・実例が繰り返し本書に登場します。
    「苦しくても国防を担う誇りとともに限界のラインで踏みとどまっている」企業努力の様子とともに。

    さらに、この取材を通して、「日本におけるものづくりとは何なのか」「技術立国とされた日本の強みとは何なのか」についても掘り下げられていきます。

    【本書抜粋 著者】
    真の日本技術の強さは、個人の名誉よりも会社やモノに対する気持ちが強いこと、その「誠実さ」にあるのではないだろうか。
    それこそが「ニッポン人の力」だと高く評価されてきたのだ。
    (中略)
    現在只今の経済の良し悪しだけが時代の評価となっている風潮、良いもの大事なものを見極め、財産として残すことのできない軽薄な国家に成り下がりそうな傾向を、なんとか軌道修正したい。
    ---

    国防とは何か。そのために何が必要で、我々国民一人ひとりは何をしなければならないのか。
    防衛産業の現場への取材を通し、我々に警鐘を鳴らし、強く問いかけてくれる一冊です。

    【三菱重工で長く戦車の設計・開発に携わった 林磐男著 「戦後日本の戦車開発史」 林磐男】
    もし、われわれが自衛の戦力を持たなかったら、誰がわれわれを守ってくれるのであろうか。
    戦車は決して単なる戦争の道具としてあるのではなく、戦争を抑止し、われわれ自身を守るために必要な装備品なのである。
    ---

  • 著者は防衛産業の支援に前向きな立場だ。日本にもこれだけの防衛産業があることを明らかにしてくれた点で本書は立派だと思う。しかし本書の帰結には賛同しかねる。著者は防衛費増額による日本の防衛産業の育成・保護を訴えるが、説得性が今ひとつない。

  • ジャイロコンパスの製造からスタートした多摩川精機は、昭和13年の創業以来、「男女同一賃金、同一労働」らしい。

  • 軍事産業が安定した産業ではないことが分かった。
    武器や戦闘機を造るのに多くの人が関わっている。そして一度製作を止めてしまうと、再開することが困難だそうだ。
    いつ日本が戦争に巻き込まれるか分からない。そのときに急いで武器を作っていたのでは間に合わないだろう。だから軍事産業を無くさないために、どうすればいいのか考えなくてはいけない時に差し掛かっている。

  • 女性記者の目から見た防衛産業の姿。防衛産業が、多くの中小企業の努力や自衛官の働きに支えられているか、がわかる。これからの防衛を考える上で、「抜かない名刀に価値を見いだせるか」という言葉が大変印象的。
    一方で、高い技術の職人に頼らざるをえない状況を鑑みるに、「いざ必要なときに大幅増産する」ことは難しいように思う。産業として保護しなければならない、という本書の主張は理解するが、本当に今のままでよいだろうか?考えさせられる一冊。

  • 防衛費削減で疲弊する防衛産業関連の中小企業等の実態、自衛隊の武器調達の流れや、企業の国家防衛に対する姿勢等も紹介されており興味を引きました。
    ただ、できればもう少し踏み込んで詳細に書き込んでほしかったと思う、物足りなさを覚えました。

    防衛産業ってどんな感じだろうと、大まかな全容を掴むには良い一冊と思います。

  • あまり世間に知られる事がない日本の防衛産業。

    本書は、この日本の防衛産業をテーマに、自衛隊の現場から小さな町工場まで幅広く行われた取材を基に書かれた本です。

    尚、著者の桜林さんは、フリーアナウンサーやテレビ番組ディレクター、ジャーナリストなどのキャリアを積んできた人で、ここ最近は日本の防衛問題も彼女のテーマの一つになっているとの事。

    さて、本書の内容を簡単にご紹介すると、

    ・戦車1両の製造に約1300社もの膨大な数の企業が参加しているが、その多くは町工場レベルも含めた中小企業。

    ・日本で防衛関係の仕事をしている企業は、大手も含め、防衛予算削減に伴い痛手を受けており、中小企業の中には廃業する所も出てきている。

    ・これにより、日本の防衛産業の基盤が徐々に破壊されて行っている。

    ・現在の日本の防衛産業は、長期にわたる開発期間を考慮すると利益に乏しいばかりか、(現状の発注制度では)国の政策次第では逆に損害が出てくる可能性も大きい。

    ・その様な中、収益を2の次にする企業により、日本の防衛産業(とそれに伴う日本の安全保障)は支えられている。

    ・防衛予算削減に伴い、防衛産業基盤が破壊されて行っている日本とは裏腹に、韓国ではK2戦車の開発を初めとし、国家の後押しで防衛産業の育成に当たっている。

    ・武器輸出三原則は、元々、特定の国への武器輸出を禁じる為の原則だったが、時間の経過と共に武器の全面禁輸になった。

    等となります。


    所々に、韓国の防衛産業の現状や自衛隊の防衛装備品調達の流れなどを解説したコラムが載っており、それらが興味深かったです。


    本書は上記コラムの様に解説メインの箇所もありましたが、基本的に取材体験記と防衛問題に対する著者自身の考えがメインの内容となっています。

    なので、淡々とした解説を期待すると当てが外れるかも知れません。

    加えて、有無を言わせぬ程の徹底した分析が載っている訳でもありません。

    しかし、防衛産業の現場で働いている人達の様子や彼らの肉声を知る事が出来るので、(類書に乏しい日本の現状も併せて考えると)その点では有意義な本ではないかと思います。


    防衛産業の現場の人達がどの様に考え、どの様に働いているのか。

    この事に興味を感じた方などにおすすめです。

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著者プロフィール

桜林美佐(さくらばやし みさ)防衛問題研究科
昭和45年生まれ。東京都出身、日本大学芸術学部卒。防衛・安全保障問題を研究・執筆。2013年防衛研究所特別課程修了。防衛省「防衛生産・技術基盤研究会」、内閣府「災害時多目的船に関する検討会」委員、防衛省「防衛問題を語る懇談会」メンバー等歴任。安全保障懇話会理事。国家基本問題研究所客員研究員。防衛整備基盤協会評議員。著書に『日本に自衛隊にいてよかった ─自衛隊の東日本大震災』(産経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸~星になった小さな自衛隊員~』(小社刊)、『自衛隊と防衛産業』(並木書房)、『危機迫る日本の防衛産業』(産経NF文庫)など多数。趣味は朗読、歌。

「2022年 『陸・海・空 究極のブリーフィング - 宇露戦争、台湾、ウサデン、防衛費、安全保障の行方 -』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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