煙滅 (フィクションの楽しみ)

  • 水声社
3.71
  • (6)
  • (9)
  • (6)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 243
感想 : 20
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784891767501

作品紹介・あらすじ

"い"段がない!?失踪した男と失踪した"文字"をめぐる、前代未聞のミステリー。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • タイトルは「跡形もなく消えてなくなること,消し去ること」の意。
    主要な登場人物が次々に姿を消していくが、
    何故消えなければ、あるいは
    消されなければならなかったかという真相に辿り着くまで、
    奇妙な言語遊戯が繰り広げられる。

    不眠症の男が幻覚に苛まれながら小説の構想を練っていたが、失踪。
    友人たちは彼が残したテクストを読み解いて
    行方を探そうとするが、
    手掛かりが増える度に却って事態は混乱していく。

    勘のいい人は途中でカラクリに見当がつくらしいが、
    凡庸な読者は
    訳者のあとがき兼解説に接して初めて「おお」と
    膝を打ったのだった。
    これは作者がある企図に基づいてルールを設定し、
    その効果を最大限に発揮するためのストーリーを
    構築して書かれた小説、とのこと。
    なので、御都合主義的な展開や結末の呆気なさに
    ポカンとしてしまうが、
    富豪の屋敷の老メイドによる幻想文学的な話中話など、
    楽しめる箇所も多々あった。
    ついでに言うと、キャラクター達のドタバタぶりに、
    ある種の映画に似た雰囲気を感じたのだが、
    作者は『地下鉄のザジ』の
    レーモン・クノーが中心となった文学集団「ウリポ」のメンバーで、
    作中にクノーの戯文を登場させている等、
    なるほど接点があったのだと納得。

    また、Wikipediaによると、
    父方の親類にポーランド出身のイディッシュ語の作家
    イツホク・レイブシュ・ペレツがいる、とのことだが、
    そういえば、先日、沼野充義【編】『東欧怪談集』で
    ペレツの「ゴーレム伝説」を読んだばかりだった。

    読了後、表紙(装幀)を見直して、
    作品のエッセンスが見事に抽出されていることに感嘆。

  • 作者、訳者の努力に感嘆。小説として読むには、少し苦痛。途中からは読了が目標に。

  • 「e」を使わずに書かれた小説を、日本語では「い、き、し、ち、に、ひ、み、り」を使わず翻訳した1冊。
    この試みを知って、言語にとても興味のある身としては絶対読みたいと思っていました。すごい!の一言。もっと多くの人に読まれるといいなあ…!

    あとがきを先に読む癖のある人、どうかこの本ではやめて下さい。あとがきを普段読まない人、どうかこの本では読んで下さい。
    おおほんとに使ってない、とか、イ段使えたらこっちの語を使いたかったんだろうなあ、とか考えながら読むのもちょっとはいいけど、まるっきりそればかりで読むのはおすすめしません笑 あと内容も難解になってるから、必死で理解しようとしながらっていう姿勢じゃなくてもいいと思う。おぼろげなイメージを自分の中で形成できる程度で(それが間違っててもあんまり気にしない方向で)読まないと、いろんな意図を全部汲むことなんてできないので分からなさに疲れてしまうと思う。
    ふわふわと読んだなら、あとがきを読んで、「何となくそんな部分もあったけどそんなところまで意図があったのか!」とびっくりしてほしい。イ段の不使用は一要素に過ぎないのがわかる。勿論中心となる要素だけど。

    英語だったら原著も読んでみたかったけど、フランス語、かあ…!ハードル高い!これほどフランス語ができたら、と思ったことはありません。でもいつか原著も手に入れたいなあ…

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「言語にとても興味のある身としては」
      ジョルジュ・ペレックは凄いですよね、これを訳した塩塚秀一郎もスゲーけど。。。
      ところでレイモン・クノー...
      「言語にとても興味のある身としては」
      ジョルジュ・ペレックは凄いですよね、これを訳した塩塚秀一郎もスゲーけど。。。
      ところでレイモン・クノーの「文体練習」は読まれましたか?新訳が「煙滅」と同じ水声社から出ました
      2012/10/11
  • いとうせいこう曰く「うわ、確かに選りすぐりの今だ。」
    その二。

    翻訳者は原作であるフランス語では「E」という文字を一切使わずに書かれたこの作品を翻訳するにあたって「い行」の文字・音(い・き・し・ち・に・ひ・み・り)を用いずに行なった。

    翻訳ってナンだろうと考えてしまった。

    言葉に込められたニュアンスというのは翻訳してしまえば、どこかしら失われてしまう。
    たとえ作者が訳したとしても、言語が違えばそれは違うものだ。


    海外の文化を受容することについて超えられない壁の存在を再確認してしまった。
    もしかして、それは同じ言語にもあって、コミュニケーションの限界って奴なのかもしれないけれど。

    「判りあえやしないってことだけを分かりあうのさ」

  • 長らく、同じ「e抜き」のギルバート・アデアによる英訳しかないと聞いてたけど、日本語訳はイ段抜き!
    ただ、そういう前知識なしに内容だけで楽しめたかと考えると疑問かも。この制約に気づかないで読了しちゃうかも。そういう意味だと、筒井康隆「残像に口紅を」は説明なしに何やってるかわかるトコが一枚上手。

  • 全編eを使わないで書かれた小説を、”い”段抜きで訳したもの。
    登場人物たちが何かの欠落を感じて様々な解釈、捜索を行い、その正体に気づくと次々と消えていくというストーリーだが、普通の小説と思って読むとかなりハチャメチャで難解。「eの不在」を楽しむ作品なのだろう。
    そのあたりのことが訳者あとがきに詳しく書いてあって、本書の凄さや訳者の苦労がよくわかった。よく書いたしよく訳したものだと思う。

  • 『e』を使わずに書かれた小説。邦訳では『い段』を使わないという制約が課された。
    翻訳についての苦労話は巻末のかなり長いあとがきに詳しい。また、解説としてもかなり踏み込んだところまで書かれている。

  • あとがきのみ。
    翻訳者のいうよくいる読者のひとりとしての読み方ではあるが、
    あとがきだけでも面白かった。
    念入りな仕掛けと、その翻訳に際する悪戦苦闘具合がよく伝わってくる。

  • 第1回(2011年度)受賞作 海外編 第4位

  • 唸るどころか文字通り言葉を失うほどの労作。言語が語り得ることと語り得ぬこと、ことばの限界、翻訳とはなにか…などの問題意識に対して、気の遠くなるくらいの正攻法で、力業で示唆を与えてくれた。うへえ。
    物語と叙述のスタイルとが不可分に絡み合っている稀有な書。寓話的な側面も強くておもしろかった。
    もちろん読むのはしんどかった。
    あと音読するとア段やオ段の連続にたびたび出くわすためつんのめりやすくて楽しかった。
    それから、漢字は複数の文字を持っているので、一瞬禁じられた読みを想定してしまい、直後にその音を「煙滅」させる、というプロセスが頭の中で起こって、それは日本語ならではだよなあと思った。

全20件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1936年生まれのフランスの作家(両親はポーランド系ユダヤ人で、第二次大戦中に死去)。パリ大学、チュニス大学の文学部で学んだ後、国立学術研究センターに勤務。1965年、ヌーヴォー・ロマンの手法を駆使して消費社会の空しさを暴き出した処女作『物の時代』でルノドー賞を受賞。以後、大胆な実験作を次々と発表して注目を集め、1978年には大作『人生使用法』にメディシス賞が与えられたが、1982年、46歳の若さで病没。広範な視野から現代世界を鋭く抉るその前衛的作品群は、文学の新たな可能性をひらくものと評価されている。日本文学にも関心を寄せていたことは、本書中の『枕草子』からの引用においても示されている。邦訳作品に『眠る男』(海老坂武訳、晶文社)、『物の時代』『小さなバイク』(弓削三男訳、白水社)、『人生使用法』(酒詰治男訳、水声社)などがある。

「2000年 『考える/分類する 日常生活の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジョルジュ・ペレックの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
コーマック・マッ...
レーモン クノー
スタニスワフ レ...
ウンベルト エー...
円城 塔
ウラジーミル ナ...
ロベルト ボラー...
阿部 和重
リディア デイヴ...
ブノワ・デュトゥ...
マルカム・ラウリ...
ロベルト ボラー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×