- Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
- / ISBN・EAN: 9784891769185
感想・レビュー・書評
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ラテンアメリカ現代文学の代名詞でありながら、その定義がいち読者にはもう一つ分かりづらい「マジックリアリズム」をラテンアメリカ諸国の文学史のみならず歴史を俯瞰的に解説した優れた評論本。明解かつコンパクトでもありおすすめ。
が、入手困難なドノソの「夜のみだらな鳥」はともかくマルケス「百年の孤独」「族長の秋」の詳細な内容も触れられているので未読の方は要注意。私は未読だったので失敗しました(笑)。実のところ、先にあらすじとかを知っても気にならない方なのでそれほどがっかりはしていない。初心者にも分かりやすいだけに自分のように「ラテンアメリカ文学に詳しくなくて、あらすじ紹介とか先に知っても苦にならない」人向けとかややこしいことを言いたくなってしまう(笑)。
それから現在Amazonではいきなり入手困難で高額な古本が出ているけど、他のオンラインショップで買えるみたいなのでそちらをどうぞ(笑)。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
巻末のブックガイドを参考に、いよいよ読み出そう。
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ラテンアメリカの小説=“魔術的リアリズム(マジック・リアリズム)”という印象は何となくあったけれど、実際「魔術的リアリズム」はどんな定義なのか、という疑問が氷塊する好著だと思う。
記述のスタイルは多少学術的な感じがするけれど、ガルシア=マルケス、ボルヘス、カルペンティエール、バルガス=リョサ(本書では“ジョサ”と表記)、ドノソといった作家の作品を読んだことがあったり、ラテンアメリカ文学そのものに興味があればなんのことはないはず。
魔術的リアリズムの始原から、ブーム、大衆化という時系列的な流れでたどるので、その順番に色々な小説を読みたくなってしまう。ブームの頃をオンタイムで味わっていないし、これまでそこまで身近にラテンアメリカ小説があったわけでわなかったので、その辺りの事情を把握するにはうってつけかもしれない。
さて、肝心な魔術的リアリズムの本質だけれども、著者が一言でまとめている箇所によれば
非日常的視点を基盤に一つの共同体を作り上げ、そこから現実世界を新たな目で捉え直す
としている。
もちろんこの部分だけ読んだってそこまでピンとくるわけではないから、アストゥリアス『グアテマラ伝説集』やカルペンティエール『この世の王国』からアジェンデ『精霊たちの家』までさまざまな小説を取り上げながら論じているわけだけれども。
結びでエルネスト・サバトが提起していた「フィクションの矛盾」についての言葉が引用されているが、それをここでもそのまま引用しておく。
良い小説の特徴は、読者を作品世界に引きずりこんで現実から切り離し、まわりを忘れるほど夢中にさせてしまうところにある。にもかかわらず、それが身の周りの現実をしっかりと暴き出していることに変わりはないのだ。
シンプルだけれど、まさしくそうだと首肯かざるをえない。
最後に、本書で挙げられている「魔術的リアリズムを理解するためのブックガイド」の本を列挙しておく。なお、本にはそれぞれの作品に解説が添えられている。
*ミゲル・アンヘル・アストゥリアス『グアテマラ伝説集』
*アドルフォ・ビオイ=カサーレス『モレルの発明』
*ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』
*アレホ・カルペンティエール『この世の王国』
*フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』
*カルロス・フエンテス『済みわたる大地』
*マリオ・バルガス=リョサ『都会と犬ども』
*ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』
*ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』
*ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』
*レイナルド・アレナス『夜になるまえに』
ちなみに個人的にはドノソ『夜のみだらな鳥』、マルケス『族長の秋』をものすごく読みたくなったのだけれど、前者は古本でしか手に入らない上、けっこうな値段がついている…。 -
極めて曖昧なマジックリアリズムの定義をはっきりさせてくれる一冊。