ガラスの国境 (フィクションのエル・ドラード)

  • 水声社
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784891769567

作品紹介・あらすじ

国境を接するメキシコとアメリカ。"こちら側"と"あちら側"の人間たちが生きる世界を九つの物語によって多層的に描き出し、登場人物たちの声を響かせ祖国"メキシコ"を高らかに謳いあげる、現代版"人間喜劇"。

感想・レビュー・書評

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  • 書物の王国「人形」で読んだ「女王人形」から著者を手探り。「フィクションのエル・ドラード」なるシリーズの1冊。同じシリーズに「夜のみだらな鳥」がある。タイトルが気になって見覚えていて、結局まだ読んだことがない。この機会に読まねば。
    「首都の娘」「痛み」「略奪」「忘却の線」「マキラドーラのマリンツィン」「女友達」「ガラスの国境」「賭け」「リオ・グランデ、リオ・ブラーボ」を収録。

    アメリカ・メキシコ間の脆く透明な国境をテーマとした連作短編。スペイン入植時代に遡るかつての貴族、現代の富裕層、アメリカに流入する労働者、北米対中米左派の闘争、アメリカとメキシコの文化風習の違い。いずれの作品もとりどりに、強烈に、容赦ない筆致でメキシコを描いているのに魅せられた。レオナルド・バロソを軸に各短編が緩やかに結びついて、「リオ・グランデ、リオ・ブラーボ」で一堂に会し、コーラスを背負って終幕となるのがまたとても劇的。
    「女友達」「ガラスの国境」が特に端正で美しい。隠微な妖しさのあった「首都の娘」「痛み」から続いての異色の抱腹絶倒悲喜劇「略奪」もお気に入り。食と物とサブカルと古典の奔流を泳ぎ切ったと思いきや、アメリカ社会とメキシコ社会の歪みを体現ないし告発するような女性たちに苛まれ、最後には(Eメールが飛び交う時代に?)マネキンで稼いでいた男を道連れに(セルバンテスか何かのパロディ?)、ハリウッド映画のごとく爆発炎上する車(抜かりなくアメ車)を背景に砂漠を歩いてメキシコへ帰っていく。いやあ可笑しい。著者やホセ・ドノソの名前がしれっと出ていたりするあたりハチャメチャに遊んでる。

  • アメリカとメキシコの間のリアルな軋轢・痛みがさまざまな角度から描かれている、ゴシックホラー風味でない、モダンなフエンテス。つい最近まで存命の作家だったのだなあと改めて思った。フエンテスは自国にこだわり続けた人でどの本にも「俺のメキシコ」をごりごりと書いているけれど、この短編集はとても生々しく巧みで、成功している一冊だと思った。ときどきみられる頭でっかち感がない。

    個人的な小さな話が好きなので、「痛み」、「女友達」、「ガラスの国境」が特によかった。グランド・フィナーレ的な「リオ・グランデ、リオ・ブラーボ」の多声感もかっこいい。日本語だとゴシック体で表記される部分に、いつものことながらテンションが上がった。

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著者プロフィール

外交官の息子としてパナマに生まれた後、キト、モンテビデオ、リオ・デ・ジャネイロ、ワシントンDC、サンティアゴ(チリ)、ブエノス・アイレスなど、アメリカ大陸の諸都市を転々としながら幼少時代を過ごし、文学的素養とコスモポリタン的視点を培う。1952年にメキシコに落ち着いて以来、『オイ』、『メディオ・シグロ』、『ウニベルシダッド・デ・メヒコ』といった文学雑誌に協力しながら創作を始め、1955年短編集『仮面の日々』で文壇にデビュー。『澄みわたる大地』(1958)と『アルテミオ・クルスの死』(1962)の世界的成功で「ラテンアメリカ文学のブーム」の先頭に立ち、1963年にフリオ・コルタサルとマリオ・バルガス・ジョサ、1964年にガブリエル・ガルシア・マルケスと相次いで知り合うと、彼らとともに精力的にメキシコ・ラテンアメリカ小説を世界に広めた。1975年発表の『テラ・ノストラ』でハビエル・ビジャウルティア文学賞とロムロ・ガジェゴス賞、1988年にはセルバンテス賞を受賞。創作のかたわら、英米の諸大学で教鞭を取るのみならず、様々な外交職からメキシコ外交を支えた。フィデル・カストロ、ジャック・シラク、ビル・クリントンなど、多くの政治家と個人的親交がある。旺盛な創作意欲は現在まで衰えを知らず、長編小説『クリストバル・ノナト』(1987)、『ラウラ・ディアスとの年月』(1999)、『意志と運』(2008)、短編集『オレンジの木』(1994)、『ガラスの国境』(1995)、評論集『新しいイスパノアメリカの小説』(1969)、『セルバンテス、または読みの批判』(1976)、『勇敢な新世界』(1990)、『これを信じる』(2002)など、膨大な数の作品を残している。

「2012年 『澄みわたる大地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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