- Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
- / ISBN・EAN: 9784892200182
感想・レビュー・書評
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(「お前は此の頃よく眠る」のみ読了)
敗戦でやっと自分のもとに戻ってきた16歳の我が子を思う母の素直な気持ちが伝わってくる詩。
「戻ってくる」には2つの意味が込められていた。1つは戦争から生きて戻ってこれたこと、もう1つは敗戦となり「天皇様の子」から「自分の子」にやっと戻ってきたこと。
いつの時代も母が子を思う気持ちは変わらない、そう思った。
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思い返せば僕の母もそうだった。
僕は父の仕事の都合でアメリカで生まれた。そのためか日本に帰国してきからもアメリカに強い憧れがあり、学生時代には1年間アメリカに留学し歴史を学んだ。その時に将来は絶対に父のようにアメリカで働くんだと誓った。日本がアメリカに戦争で負けたという事実などは、気にならなかった。
日本で学業を終え、そのまま日本で就職し、アメリカで働く機会を模索した。すると、アメリカで生まれた者は生まれながらにしてアメリカ国籍保持者であるということを突き止めた。
アメリカへの道が開けそうだ、と喜び勇んで母のもとに駆けつけてこの朗報を伝えた。すると母は静かにこう言った。
「あなたの国籍は、あなたがアメリカに留学しているときに「日本」を選択して役所に提出しておいたわよ」
僕は耳を疑った。母は僕のアメリカへの思いを知っていて、僕がアメリカへの切符を持っていたことも知りながらそのことを一切教えてくれず、しかも僕に相談もなく勝手に日本国籍を選択し役所にまで提出していたのであった。僕は怒りに震え母に言った。
「何で勝手にそんなことしてくれたんだ!俺の人生じゃないか!」
母は静かに、しかしきっぱりとこう言った。
「大事な息子を戦争に取られるわけには行かないじゃないの。」
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戦争に取られる制度がないことは当時の僕でも知っていた。でも母曰く、そんなのはいつどうなるか分からないじゃないの、と。正直母の気持ちは当時微塵にも理解できなかった。
その数年後、僕は会社からアメリカ支社に転勤を命じられ、違う方法で夢を叶えることができた。母は成田空港までわざわざ見送りに来てくれた。来なくていいといったのに。
この詩に出会い、この出来事を思い出した。そして、いつの時代も母が子を思う気持ちは変わらないのだなと気付かされた。
母さん、ありがとう。
若くして病で永眠した亡き母へ。詳細をみるコメント0件をすべて表示