- Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
- / ISBN・EAN: 9784892401763
感想・レビュー・書評
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川崎市に住む明石洋子さんは、知的障害がある自閉症の息子さんが、「地域で自立する」ことを目標に、全力をあげて行動し、人を動かし、社会を変えてきたお母さんです。
長男の徹之さんは、二歳のときに自閉症と診断されました。
幼い頃の彼はものへのこだわりが強く、人間関係にはまったく関心を示しませんでした。
洋子さんは粘り強く、徹之さんに学習意欲を持たせ、少しずつコミュニケーションができるように育てていきます。
洋子さんのルールは、
「本人が選ぶ」「本人が決める」です。
徹之さんが「普通高校に行きたい」と言えば、市内の高校を何度も回り、断わられ続けながらも、受け入れてくれる学校を探します。
やっと高校に入った徹之さんが、「清掃局で働きたい」と言えば、川崎市の公務員になるために、あらゆる人たちに訴え、市を動かし、公務員試験の受験資格を獲得します。
「自立」が親の自己満足ではないか。自閉症の子どもを働かせるのが無理なのではないかという批判は幾度となく受けました。
徹之さんを公務員にするために奔走する洋子さんに、友人からも批判がありました。
「公務員は市民の税金を給料としてもらって市民にサービスするのが仕事なのだから、給料分働けないと、納税者の市民から『税金泥棒』と言われるオチだ。
それは徹之くんにとってきびしすぎはしないか。かわいそうだよ」
それに対する洋子さんの反論には迷いがありません。
「もし徹之が入所施設に入ったら、施設では徹之がもらう給料の三倍から五倍の税金が使われるのよ。
入所施設で幸せな生活が送れるのならいいけど、徹之は保護されたり管理されたりする生活は嫌で、その何分の一のお金でもいいから自分で働いて稼いで、自分の意志で選べる主体的な生き方がしたいと願っているの。
だから徹之に働いてもらって。給料を払って、そこから税金を払ってもらうほうが有効なお金の使い方だと思わない?」
人を動かすために発揮する洋子さんの行動力には圧倒されます。
高校生のとき、働くことを体験するために、文房具店の店員としてアルバイトをしたときのことです。
商店街お店探検をしましたが、そのとき他のお店の人たちをびっくりさせてしまいました。
洋子さんは、地域の人たちに徹之さんのことを理解してもらう必要があると考え、病気のこと、対応の仕方を書いたチラシ「徹ちゃんだより」をつくり、一軒一軒に配って、親子であいさつしてまわりました。
そこには、徹之さんが自分で書いた文章もありました。
こんにちは。明石徹之です。太陽堂で働いています。
17歳で、川崎市立川崎高校定時制の3年生です。夜高校で勉強をしています。
上手にお話ができないけれど、一生懸命上手に話せるように努力しています。
勉強もお仕事もがんばっています。
太陽堂はとても楽しいです。
ずーっと岩瀬さん(太陽堂のご主人)のところで働きたいです。ぼくも努力しますので、みなさんよろしく、お願いします。
どうぞ、お店にきてください。道であったら声をかけてください。
なかなかことばがわからないときもあるけど、笑顔でこたえます。
みなさん応援してください。どうぞ、よろしく。
いま、徹之さんは川崎市の公務員として働いています。
洋子さんと徹之さんの生き方を見ると、がんばる前から「無理」と諦めるのは、絶対ないなあと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示