ジュリアとバズーカ

制作 : 青山南 
  • 文遊社
4.00
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本棚登録 : 219
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784892570834

作品紹介・あらすじ

夢見るは、自分自身も含めた人間すべての消えた、清潔な世界だ。珠玉の短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • この人の基本姿勢は、孤独、幽囚、憂い、さらには車への偏愛などに帰せられるが、
    二カ所、大変美しいところがあった。

    「英雄たちの世界」わたしは星を見ない、愛し愛されていたことを思い出してしまうから。
    「山の上高く」山の持つどこかよそよそしい完全さがわたしを死にたい気持ちにさせる。人間は憎むべきものだ。かわいそうな月。

    しかしやはり、集中随一なのは「ジュリアとバズーカ」。この雰囲気を出せる文章は、他にない。

  • アンナ・カヴァンの世界は雪や氷に閉ざされ風の吹きすさぶ凍てつく世界か、熱さに肌や喉の奥をジリジリと焼かれるような灼熱の世界に分かれる。極端だ。その2つの世界が同時に出現するのが表題の「ジュリアとバズーカ」。これは面白かった(と言っていいのかどうか)「炸裂する世界はなんて寒いのだろう」寒さと熱をくぐり抜けてたどり着いた先には何もない。まったき虚無の世界。寒くなったらまた「氷」を読もう。次は「愛の渇き」!

  •  『アサイラム・ピース』が発売されて話題となったのが後押しになったのか、突如再刊。早速購入。幸福が失われ世界から見放された孤独感みたいなカヴァン的なモチーフは本書でもほとんどの作品に登場するが、『氷』や『アサイラム・ピース』絶望的でありながら美しい緊密な世界とはまた別な一面が感じられ、非常に面白かった。(特に面白かったものに○を入れてみた)


    「以前の住所」 一般にカヴァンの作品では本人の経歴が反映された<どこかの閉塞されたところ(病院など)に収容されている>という話が頻繁に登場するが、これもまた退院の話から始まる。基本的には「退院しても開放されたわけではない」という話なのだが、妄想が炸裂し(これが読みどころ!)暴れまわるのを楽しみ、そうした閉塞した世界から何らかの脱走の道を見出すという話でもある。
    「ある時間」○ 夜、一匹の豹が突然やってきて自分のかたわらに横たわるという話。いわゆる奇妙な味系で好み。この人が動物を描くときは不思議と静謐な安らぎみたいなものが感じられる。
    「霧」 不穏な霧の中に現れる主人公を襲う影を自動車でスピードを出し振り切る、というような話。車でスピードを出すのは好きだったのではないかと思われ、表現として何度も出てくる。
    「実験」 いわゆる不倫関係の空虚感が離人的に描かれているのが面白い。
    「英雄たちの世界」 ここでもスピードレーサーの世界への憧れが中心となっていて、その接点が失われしまった悲しみが描かれている。
    「メルセデス」これも不倫関係と思われる男女が登場するがタイトル通り車の話になって、短いのに急に話が転調する、ある意味実にカヴァンらしい小説。
    「クラリータ」 吹き出物に対する恐怖が現れているが、他はこれまた妄想を車で振り切るみたいな要素もある。大蛇に車に襲われるのだが、なぜか「かまやしないわ」と言い放つところが大変素晴らしい。モチーフとしては世界に対する違和感・孤独・閉塞といったカヴァンらしいテーマがどの作品にも見られるのだが、本書では全体的に威勢の良いところが見られるのが印象的。
    「はるか離れて」 何らかの施設(収容所?刑務所?精神病院?)の中でスポーツが行われるという描写もよく見られる。意外とスポーツをやるのは好きだったのかな。終盤の双子の話が出て来てのアイデンティティ・クライシスみたいな部分はちょっとディックっぽいかもしれない。
    「今と昔」 リアルな離婚後の話が描かれている。働かない画家の夫は2番目の夫スチュアート・エドモンズがモデルだろうか。ラストの粉々に砕くイメージはこの人らしい。
    「山の上高く」 これまた不快な男から逃れようとするような話だが、解説でドラッグを使用する主人公の潔癖症ぶりが取り上げられ大変興味深かった。さらには(これまた)車で加速していき、ついには「氷」のような白い世界へたどりつく。
    「失われたものの間で」○ とある星が誕生し、人間の世界の運命を決めてしまうというが、(いつもの<抑圧的で不愉快な男性>と共に)主人公の生活に影響を及ぼしていくという話で、スケールの大き過ぎる落差が変で面白い。ジェンダー的な要素も出て来る。確かだった世界が現実感を失い書割のように感じられてしまう、というような描写がありその辺は鈴木いづみを連想した。
    「縞馬」 幸福だった恋人同士の関係が次第に崩壊していくといった話だが、その二人を結びつけたのが宇宙線の影響だったという宇宙スケールのアイディアがなぜか繰り返し語られる。でも結局医者である彼に注射を打たれちゃうんだよね。これも変。
    「タウン・ガーデン」 自分専用の庭があるので妬まれている主人公、なんだけど終盤奇妙な味系に進んでいく。小品だがこれも味がある。
    「取り憑かれて」 唯一の理解者である彼を失った主人公。まあいってみれば脳内彼氏の話でなかなか切ない。
    「ジュリアとバズーカ」○ 主人公がドラッグを注射する注射器をバズーカと呼んでいる、という内容が知られている作品。これまで書いた様なスポーツ大会、レーシングカー、寒冷化する世界と破滅、といった特徴的な要素が圧倒的なスピード感と高揚感の中で活写され、加速の果てに現れるラストが素晴らしい傑作。これがやはり集中ベスト。
     本人の死後1970年の発売ということでいろいろな時代の作品が並んでいるのだろうか(再刊されたのは嬉しくあまり文句はいいたくないのだが、サンリオ版そのままでいつ書かれたものなのかの情報は入れて欲しかったなあ。割とお値段もイイので)。『氷』『アサイラム・ピース』、特に『アサイラム・ピース』での硬さが感じられるほどの張り詰めた世界とはひと味違う多様で時にリラックスした表現(例えば薬物中毒の注射の場面も度々登場するが、『アサイラム・ピース』にはほとんどない)すら感じさせるが、死後の発表だけに果たしてそれが本の製作者のセンスによるものかは気になるところである。それはさておいても、他の作家にはない独特のセンスが感じられ、上記3冊の中では一番好み。

  • かつてサンリオSF文庫から出ていたものの復刊。国書刊行会の『アサイラム・ピース』に続き、立て続けにカヴァンが入手可能になろうとは……(しかしこの状況下でバジリコの〝氷〟は品切れだとか。何故……?)。
    カヴァンの清潔に対する拘りは解説でも言及されているが、車に対する拘りも強く感じた。
    『以前の住所』『メルセデス』『クラリータ』、そして表題作『ジュリアとバズーカ』が好きだ。

  • カヴァンが見ているのは自身の願望と恐れだろうか。
    閉じ込められた狭い場所から世界中へ、果ては宇宙までと空間を広げ、またもとの場所に戻ってしまう。その繰り返しだ。

    先日読み終えた『氷』と重なる箇所がいくつも見られるが『氷』という作品への感じ方が少し変わったというか広げられた。

    カヴァンはヘロインで仮に自分を消滅させることで生に留まっていたように思える。車とスピードという凝縮された時間も一種の麻薬のようではあるが、それは唯一肯定的な生であったのかな。

    彩りが違って好きなのは「ある訪問」
    登場する豹に安心感があるから。

  •  距離のとり方がとても難しい作品集だと思った。それは、カヴァンがもつ精神の不安定さと自分のなかにある精神の不安定さとが、妙に乖離するからではないかと感じた。安易に共感もしきれないし、まったくの他人事であるフィクションとして楽しみきることもできない。たぶん、何か一本、自分のなかの線がずれていれば、まるで自分ごとのように胸に染みてくる文章なのだろうと思う。けれども、少しずれる。そのズレが、妙な不協和音を自分のなかに生じさせる。

     もっとも印象に残ったのは「霧」。ここまでの大ごとではなくても、似たような「逃亡」は自分も何度も繰り返しているような気がする。ここまでの大ごとでないのであれば、逃げることは人生には必要だと自分に言い聞かせたくもなる。そして、語り手が疾走に爽快感を覚えれば覚えるほど、恐怖が強くなる。

  • 悪夢なのに目が離せない作品群。著者の経歴と切っても切り離せない作品群。普通に暮らしていると思っていても、いつこちらの世界に引き込まれているかと思うと怖い。

  • 生涯精神を病んでいたカヴァンの短編集。

    「クラリータ」は、目覚めると体中にニキビができていた「私」が美しく意地の悪い「クラリータ」と対面するというものだが、その異様さが第3者の視点からでなく、精神を患う語り手カヴァン自身の視点から読むことができ、おもしろい。


    【神戸市外国語大学 図書館蔵書検索システム(所蔵詳細)へ】
    https://www.lib.city.kobe.jp/opac/opacs/find_detailbook?kobeid=CT%3A7200183225&mode=one_line&pvolid=PV%3A7200320365&type=CtlgBook

  • 2014/2/9購入

  • 疲れている時にはいり込んで読むと何かを超越した癒やしを感じるか、精神が崩壊するかもしれない。とりわけ「英雄たちの世界」がすごかった。「メルセデス」も大概です。どのお話もこれといったあらすじはなく、あまりに率直なさびしいや寄る辺の無い不安や、虚無的な感情を共有することを余儀なくされる。その感触が色濃く残る。でも不思議と嫌な気はしない。本を閉じたいま、他作品がどうなっているのかとても気になる。

    本物の気配に満ちていて、そうとしか生きられない人間の切実さを感じるところがかなり好き。

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著者プロフィール

1901年フランス生まれ。不安と幻想に満ちた作品を数多く遺した英語作家。邦訳に、『氷』(ちくま文庫)、『アサイラム・ピース』(国書刊行会)などがある。

「2015年 『居心地の悪い部屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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