ノスタルギガンテス

著者 :
  • エフ企画
3.88
  • (42)
  • (41)
  • (54)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 309
感想 : 45
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894191068

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 友達から社会から、夢見がちな少年の心が踏みにじられるお話。
    淡々と表現された弱さが苦々しくも美しい。最終的に得したのはビジネスを割り切った芸術家だけなのかと思うとやるせないが、少年の心細さや世界に対する疑念というのはそんなこと関係なく存在するものなんだろう。
    実際に読んで、読みきってこそ価値のわかる本。

    かったるい感じに解説ぶってしまったが、内容自体は誰にでも経験のあるもの。
    特に、小中学生くらいの人に読んでほしい。

  • 良い意味でも悪い意味でも重いです。表現や考え方が普通じゃないので、芸術性に関心の無い人には分からないかもしれませんが、わたしは 何てひとだ…とおもいました。比喩的すぎるくらいの言語感覚がまた惹き付けるものがあります。

  • 初著者。別板で『星兎』が面白いと言ってたのを見て気になっていた人で、何故か職場にこれだけあったので借りてみました。
    筋だけ言えば、小学生の主人公が、宝物の手作りの恐竜を公園の木のてっぺんにくくりつけたら、そのうち子供も大人も、客観的にみるとくだらないけど何かが詰まったものをぶらさげる空間になってしまい、市やマスコミに巻き込まれて大事になってしまう、ということなのですが。
    かなり表現が独特で、美術系な人、かじった人には堪らないですが、そうでない人にはさっぱりなんじゃないでしょうか。
    廃墟系が好きな人にも評価が高いようです。
    その場にあって輝いていたもの、力を持っていたものが、場から引き離され美術館に収められたとたんつまらなくなっている場面や、現代アートとして売り込まれたものの空々しさなどを短い文章で切り取って読者に体感させる筆力はすごいと思います。

    ブックデザイン / Yusuke Matsuoka
    カバーフォトグラフ / Yoshihiko UEDA

  • ものすごい本を読んだと思う。
    この本がどうして世の本棚から姿を消し埋もれているのか。
    ノスタルギガンテスは芸術家と写真家によって閉じ込められながら生き続ける木と人の積み上げたものを融合した芸術怪物となった。永遠に生成し流転しノスタルギガンテス運動を飲み込む生きるオブジェ。でも主人公の少年にとっては、名前を与えられた時点で力を失い飼い慣らされた神殿の木であったもの。琥珀の中に閉じ込められた羽虫。恐ろしいもの。
    一方の視点では自然と融合し生き続け
    一方では無惨に閉じ込められた死骸

    この本は私の住む地域の図書館や書店から姿を消し、強く望まねば手元に来なかった。
    世には無数の本があふれていてほとんどは本でなくてもいい中身を含んで積まれ一読して忘れ去られる。大きくなり続ける巨大な図書館蔵書オブジェ。一方でこの本は多くの人が行き交う場から姿を消したけれども、ひっそりと光と命を失わず生き続けているように思えた。

  • 主人公の少年が木のてっぺんに怪獣のおもちゃを括り付けるところから始まる、幻想小説。
    少年のイノセントな憧憬を丁寧に描写される。
    それは消費社会=現実という巨大な壁に無残にも破壊されるという道程を辿ることによりある意味で輝く。
    しかし、真の絶望は完膚なきまでの破壊ではなく、取り込まれていくことなのかもしれない。
    どうしてもこの感想を書く時に私たちは少年のイノセントな憧憬を奪う写真家側の人間にならざるを得ないのだから。

  • 再読。個人的にはこれが寮美千子の最高傑作だと今も思う。「名前をつける」という行為をここまで児童文学として昇華した例を私は他に知りません。

    古来、日本でも諱(いみな)というものがあり、本当の名前は隠しておかないと呪われたりするから要注意だったし(※今でいう個人情報的な)、孫悟空だって名前を呼ばれて返事したばっかりに瓢箪の中に吸い込まれちゃうし、現代においても流行や現象、新種の病気でも昆虫でも、名前をつけられた瞬間にそれは「発見」され、可視化する傾向があるわけで。

    うさんくさい「命名芸術家」の言うことも、必要なのは鏡だというカメラマンの言うことも、どれもムカツクけれど頷ける。少年カイだけが、透明な瞳ですべてを理解している。子供発信の奇妙な儀式が社会現象にまで広がるあたりは『ノーライフキング』に近い感触かも。

  • 読み始めると面白かったけれども、導入するまでがきつかった。

  • たぶんこの語り手は作者に近く、作者はいつも退廃の美を世界に探し出そうとしているのだろう、そのような視点が想像できる。

    この作中で起きる現象はいろいろな社会現象の寓意にもとれる。
    しかし単純に役に立たないものが漂流する木と、それへの名づけ、という観点から不気味な物語として把握したほうがおもしろそうだ。

    世の理の変容と定着。

  • 同作者の星兎を読んでから十余年、ふと他の作品も読みたくなり手に取ったのがノスタルギガンテスでした。
    ああ、そうだった。こんな感覚があった、と思い出させてくれる本。
    もっと幼い時に出会っていたら違う見方ができた気がすると思うと、惜しい。

    博物館の琥珀の表現が大好きです。

  • 大好きだった本。

全45件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

東京生まれ。
2005年、泉鏡花文学賞受賞を機に、翌年奈良に転居。
2007年より、奈良少年刑務所で「物語の教室」を担当。その成果を『空が青いから白をえらんだのです』(新潮文庫)と、続編『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』(ロクリン社)として上梓。
『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』(小社刊)ほか著書多数。

「2021年 『なっちゃんの花園』 で使われていた紹介文から引用しています。」

寮美千子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×