脱デフレの歴史分析 〔「政策レジーム」転換でたどる近代日本〕

著者 :
  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894345164

作品紹介・あらすじ

明治維新から第二次世界大戦まで、経済・外交における失政の連続により戦争への道に追い込まれ、国家の崩壊を招いた日本の軌跡を綿密に分析、「平成大停滞」以後に向けた日本の針路を鮮やかに呈示する野心作!第1回「河上肇賞」受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • ‘…実は、松方財政に対する誤った評価こそが、近代日本における経済政策運営の失敗、ひいては、現在の平成大停滞を引き起こした政策思想的失敗の源流であると考えられるからである。松方財政の通説的な評価は、「意図的なデフレーション政策によって大隈財政期の負の遺産を清算し、近代日本が欧米資本主義列強にキャッチアップするための成長の基礎を築いた」というものだろう。しかし、松方財政を、デフレーションの時期(前期1881ー1886年)と高成長実現の時期(後期1887−1900年)とに分類するならば、前期におけるデフレーションの加速は、その本来の政策意図である財政再建と正貨流出阻止の実現過程を考えた場合、(国民経済に多くの犠牲を強いたという点で)過剰であったこと、後期における高成長の実現は、デフレーションの効果というよりも、銀本位制の選択と新平価(従来の平価水準よりも円安水準)で実施された金本位制移行のタイミングが「偶然」もたらした成功であったと考える(しかも、この制度変更について、松方は必ずしも積極的ではなかった)。しかし、この偶然の成功体験があたかも適切な政策レジーム選択の結果という「必然」であるかのように意訳されたことが、今日まで「清算主義」思想が経済政策において重要な位置を占めてきた理由であるならば、近代初の政策レジーム転換としての松方財政の再評価は、日本の将来のためにも重要であると思われる’


    ‘…濱口民政党は「金解禁断行」を選択した。井上らにとって、金解禁断行は、日本経済にとって、極めて大きなマイナス要因になるということはもはや規定路線であった。しかし、再建金本位制への参加は先進国クラブの一員としての必須条件になっていたことも、もはや否定しようがなかった。その意味では日本が再建金本位制へ参加することは、政策担当者にとっては悲願であったと考えられる。しかし、金解禁が具体性を帯びてくるに従って、それは先進国の仲間入りという国家の「目的」ではなく、中小企業等の整理・淘汰を実行するための「手段」となっていく。そもそも、金解禁によって再建金本位制採用国の仲間入りを果たすことが、濱口民政党の目的であり、それを実現するために、不採算企業等の淘汰等の産業合理化政策を進める必要があったはずであったが、いつの間にか、金解禁が、産業合理化を実現するための方策として「本末転倒」的に位置づけられるようになっていたのである’


    ‘また、石橋の「小日本主義」について、特筆すべき点は、大日本主義の適用は、その運営コストと比較して、経済的利益が上がらないことを、満州進出の経済効果を例にとることで、経済学的に実証したという点にあった。例えば、「大日本主義の幻想」では、朝鮮、台湾、関東州のさん植民地への輸出と米国、インド、英国向けの輸出を比較すると、前者の合計がわずか9億円強であるのに対し、後者の合計は23億5千万円にも上り、後者3国のほうが経済的にはるかに重要であること、また、そもそも3植民地獲得の根拠である鉄、石炭、石油、綿花等の生産も期待したほどではないこと、人口問題についても、当時の内地の人口6千万人以上に対し、外地(台湾、朝鮮、樺太、関東州)の日本人居住者数は80万人にも満たないことから、これらの地域への積極的な進出が「過剰人口」問題を解決するとは到底考えられないことについても言及している。さらには、対中国との関係では、「機会均等主義」の下、中国市場を他の先進国に開放し、積極的に外資を導入させたほうが、日本の対中国向け輸出を拡大させ、かえって日本の利益になるという分析を行なっている。
    …しかし、問題は、彼らの外交政策レジームが、石橋らの本来の意味での「小日本主義レジーム」とは全く異なるものであったということだった。そして、政策レジームを、本書の基本コンセプト通りに、経済政策と外交政策の組み合わせで考えた場合、犬飼・高橋の擬似的な「小日本主義レジーム」は経済政策と外交政策の「相性」が極めて悪く、これが後に、「大東亜共栄圏レジーム」に取って代わられることにつながる根本的な原因だったのではないかと思われる’

  • 藤原書店 安達誠司 「脱デフレの歴史分析」


    明治維新から第二次大戦までの通貨政策とデフレの関係性を中心に論じた本。明治時代からの通貨政策の誤りが 平成デフレに影響しているとするアプローチ。


    生きた政策論争史。失政批判や成功モデル分析などマクロ経済学の面白さが満載。著者の主張は アベノミクスのリフレーション政策(デフレ脱却して、インフレ未満に抑える政策)と類似しているように思うが、アベノミクスは成功モデルなのだろうか?


    アジア通貨統合ACUは魅力的だが、日本と中国では政治体制や文明観が全く異なるため困難とした点について、やはりそうかと思う。残念。たしかに大東亜共栄圏構想を想起させるかも。


    城山三郎の小説に 金解禁を行った 気骨の人として描かれる 濱口総理、井上蔵相だが、著者は 失政としている。逆に 政治家としては 理想家すぎて短命に終わった 石橋湛山の小日本主義レジームを リフレーション政策として評価している。




    平成デフレの原因を 松方財政からの政策レジーム転換に見出している
    1.由梨、大隈財政
    2.松方財政
    3.井上財政
    4.高橋財政(擬似小日本主義レジーム)
    5.大東亜共栄圏レジーム


    石橋湛山らの小日本主義レジーム
    *列強国の地位の放棄、変動相場制による自由貿易体制
    *新平価の為替レートによる金解禁

  • 名著でしょう。

  • 明治期の財政金融政策にまで遡ってデフレ思想の根元を見つめた労作。著者の主張はアベノミクスでほぼ具現化されたと考えるが、果たしてどうか?

  • 県立 歴史の見方として 画期的 またこれが現代に通じる

  • 近代日本の経済政策を考察は、現代のデフレ不況にある日本への処方箋を考えるうえで有益なものだろう。

    敗戦後、「奇跡」と呼ばれるほどの早さで復興し、経済大国となった日本。その政策担当者たちが、過去の歴史から何も学ばず、同じ過ちを繰り返している現実には、脱力感を覚えずにはいられない。

  • 政治経済の書物を初めて読んだ。非常に面白い。

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著者プロフィール

エコノミスト、丸三証券経済調査部長
1965年生まれ。東京大学経済学部卒業。大和総研経済調査部、富士投信投資顧問、クレディ・スイスファーストボストン証券会社経済調査部、ドイツ証券経済調査部シニアエコノミストを経て、丸三証券経済調査部長。『脱デフレの歴史分析』で第1回河上肇賞、『恐慌脱出』で第1回政策分析ネットワーク賞受賞。

「2018年 『デフレと戦う――金融政策の有効性』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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