父のトランク―ノーベル文学賞受賞講演

  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894345713

作品紹介・あらすじ

パムク自身が語るパムク文学のエッセンス。父と息子の関係から「書くとは何か」を思索する表題作のほか、作品と作者との邂逅の妙味を語る講演「内包された作者」、体験も踏まえて"政治と文学"を語る「カルスで、そしてフランクフルトで」、および作家・佐藤亜紀との来日特別対談とノーベル賞授賞式直前インタビューを収録。

感想・レビュー・書評

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  • パムクという作家に非常に好意を持った。トルコで文学するとはどういうことか。日本とはまた違う意味があると感じた。しかし、根本的には、深いところで文学がになっている役割は変わらないのだとも感じた。

    あとトルコ民への愛。深いな。懐が。

    虐げられた者への洞察も深い。

    p35,42,88,93

  • 作家であることは、人間の中に隠された第二の人格を、その人間を作る世界を、忍耐強く、何年もかかって、発見することです。
    文学が人類が自分を語るために作りだした最も価値あるものであることを信じています。人間社会や部族や国民は文学を大事にし、作家たちに耳を貸すに従って、賢くなり、豊かになり、高まる。
    作家が書くのは、書きたいから書く。
    良い読者には幸せが与えられるように、良い作家にも一日のうちのいつでもその中に逃げ込んで幸せになれる、完全で牽牛な新しい世界を差し伸べてくれる。
    小説を読むことによって、私たちが生きている世界が、あたかも、お話や物語のように、誰かが構成しているものだとい感じるようになり、家族、学校、社会によって覆われ、隠されていた言葉が表に出てくるのです。
    さらに重要なのは、その言葉を考えることが可能になる。
    ヨーロッパという問題はトルコ人にとって極めて傷つきやすい非常に繊細な問題。トルコ人は小説によってヨーロッパを知る。
    筆者が影響を受けた作家は、トルストイ、ドストエフスキー、トーマスマン、マルセルプルースト。

  • ふむ

  • ノーベル文学賞受賞講演「父のトランク」、講演2件、インタビュー2件。父との関係のほか、影響を受けた作家、「内包された読者」概念について、文学中毒症ゆえ書かずにはいられないこと、等々について。

  • トルコ初のノーベル文学賞作家、オルハン・パムクの受賞演説集。クルド人の人権やアルメニア虐殺問題などについて外国メディアを通して発言して、国内で大変な状況におかれていることは知っていたので、日本でいう大江健三郎のような確固とした意志を持った人なのかと思いきや、その本からは意外にもやわらかい「人間」といった感じがした。それにしても、彼の小説に対する思いの強さのようなものには感動さえ覚えたものがあった。かなり長編が多いので敬遠してきたが、来週はパムクを読もう。

  • パムクの本に対する、書くことに対する情熱。

  •  トルコ人作家オルハン・パムクのノーベル文学受賞講演である。講演録なのだが、本当に難解である。
     ノーベル賞を受賞するような作家の作品って、どうしてこうも難解なのか、思わず考えさせられた。
     
     大江健三郎が同じノーベル文学賞を獲ったのはパムクの12年前だ。大江文学といえば難解で高尚という印象だが、このごろは私にとってさえも「わかり易くなった」気がする。「話が通じる」お爺さんになった感じだ。
     自分の読解力のなさを棚に上げてあえて言えば、かつての「わかり難い」表現は無意味な批判をかわすためのバリアだったのではないかと思う。70年代の左翼系の思想家同士の宗旨争いは、あたかもカトリック内の宗派争い同様に、敵対勢力からの攻撃よりも激烈で執拗だった。しかも殆んど全て揚げ足取りや重箱の隅的な無意味な批判ばかりだった。若い方にはわかり難いことでしょうが、例えばソ連と中国は同じ社会主義なのに仲が悪く、中国とベトナムは戦争までした。それぞれの国は敵である米国相手にはむしろ話が通じていた。近親憎悪とでもいうべき滑稽な状況だったんです。
     よほど読み込まないと理解できない「難解さ」の鎧をまとっていたのは、うっとおしい批判をかわす意味合いもあったと思う。だから、当時の私などには正しい意味に行き着くことができなかった。
     
     さて本書だが、やはり正直言ってわかりにくい。
     読むときに本の中に入り込んで読むことを、著者は「内包的読者」になると言った。難しい表現だ。同じように執筆中の作品にのめり込んで書いていくことを「内包的作者」になるという。ますますわかり難い。そういう内包的作者としての努力を根気よく忍耐強くつづけることが、小説を書くということなのだ、と著者は言う。
     それは、「書く」ことの真髄を突いていて納得させられる。夏目漱石も「人は才能の前に頭は下げない。根気の前に頭を下げる」と同じことを言っている。
     だが、パムクの言葉に入り込んで理解するにはかなりの根気が必要である。

     そもそもノーベル賞ってなんだろう。
     私ごときが僭越この上ないが、言ってしまえばダイナマイトという近代殺人兵器を発明してしまい富を成したアルフレッド・ノーベルが、後ろめたさと罪ほろぼしの意図で遺言したのが始まりでしょう。だから、反戦、反核にこだわるのではないだろうか。
     佐藤栄作元首相が非核三原則を評価され、大江健三郎が反戦・非核の主張も含むいわゆる「進歩的知識人」だったことが受賞の大きな理由だったはず。ただ当時の国内の雰囲気としては、非核三原則は有名無実だし、大江健三郎はただ難しい物語を書く作家だった。少なくとも私レベルの庶民の実感ではそうだ。
     ノルウェーはヨーロッパの中心たる英独仏(うち英仏は核保有国)から隔たった北辺の国だ。世界の中心たる米とヨーロッパの中心たる英独仏とは、ひと味違う価値観で、中心から外れたところで闘う平和主義者を、彼らなりに支援する。それがノーベル賞ってもんじゃないかというのが私の独断的解釈だ。
     大江健三郎も、少数派の論客だった頃はノーベル賞の援護も必要だったかもしれないが、大御所たる現在は敵も居なくなって、安心してわかり易く語ってくれるようになった、とあくまで個人的には思う。

     一方トルコのパルム氏はどうか。
     トルコがEU加盟を渋られている理由の一つが、トルコ政府がパルム氏を弾圧しているからだ。彼はアルメニア問題で政府を批判したかどで国家侮辱罪に問われている。それ以前には「クルド人問題」を問題にしていた。かの国では問題にするだけで国辱行為になるテーマだ(政府は国内にクルド人問題は存在しないという主張なのだ。北朝鮮の拉致問題に対するスタンスと一緒)。実のお母さんからまでたしなめられているという。文学者としての栄誉だけが援護射撃で、他の面では孤立無援の状態なのかもしれない。
     ノーベル賞の選考委員が彼を選んだ必然性のひとつがここにある。だが同時に、周りに「敵」が大勢居る間は、彼も「難解さ」の鎧を容易には脱げないだろう。

     蛇足だが、読みにくさの一因は翻訳にもあると見た。
     無作為に一文をあげてみよう。
     「娘はその日いい仕事ができなかったことを、その晩の私の不幸せな表情から直ちに見抜きます」
     って、すんなり意味がとれますか。文字を追う目はすすむけれど、頭は逆戻りしながらじゃないと理解できない訳し方になっている。

     どうしてこう書けないのかな。
     「ある晩私が不幸そうな顔をしていると、娘はそれを見て、今日は仕事が上手くいかなかったんだな、とすぐに見抜きます」

     栄誉は与えられたけれど、批判勢力が未だ多すぎるし、平易な訳をしてくれる味方もまだ居ない状況なのかな。
     読みやすいパムク作品には、いつ出会えることだろうか。

  • 文学者であるということについて書いてあった。
    とてもおもしろかった。

  • 本屋で現物を見て、オルハン・パムクと佐藤亜紀が対談してることを確認。
    購入してきますたー。
    + + +
    オルハン・パムクは作品を購入して読書待ちなんだけど、この本は、「佐藤亜紀」で検索してヒットした。
    ‥なぜだ??‥気になるのでメモ 2008.06.17.

  • まだ作品を読んでいないトルコの作家だけど、オルハン・パムクのノーベル文学賞受賞講演とインタビュー、対談集。『人類の最大の能力である想像力ー他者を理解する能力を(中略)いまだに小説がもっともよく表現します』という箇所にぶつかり、そうか自分は他者を理解するためにも小説を読んでいたのか、と思いました。著者と対談の相手の佐藤亜紀の本をぜひ読まなくては。

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著者プロフィール

オルハン・パムク(Orhan Pamuk, 1952-)1952年イスタンブール生。3年間のニューヨーク滞在を除いてイスタンブールに住む。処女作『ジェヴデット氏と息子たち』(1982)でトルコで最も権威のあるオルハン・ケマル小説賞を受賞。以後,『静かな家』(1983)『白い城』(1985,邦訳藤原書店)『黒い本』(1990,本書)『新しい人生』(1994,邦訳藤原書店)等の話題作を発表し,国内外で高い評価を獲得する。1998年刊の『わたしの名は紅(あか)』(邦訳藤原書店)は,国際IMPACダブリン文学賞,フランスの最優秀海外文学賞,イタリアのグリンザーネ・カヴール市外国語文学賞等を受賞,世界32か国で版権が取得され,すでに23か国で出版された。2002年刊の『雪』(邦訳藤原書店)は「9.11」事件後のイスラームをめぐる状況を予見した作品として世界的ベストセラーとなっている。また,自身の記憶と歴史とを織り合わせて描いた2003年刊『イスタンブール』(邦訳藤原書店)は都市論としても文学作品としても高い評価を得ている。2006年度ノーベル文学賞受賞。ノーベル文学賞としては何十年ぶりかという

「2016年 『黒い本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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