アラブ革命はなぜ起きたか 〔デモグラフィーとデモクラシー〕

  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894348202

作品紹介・あらすじ

9・11以降、喧伝されてきた「イスラームvs西洋近代」という虚像を覆す!ソ連崩壊、米国衰退を予言したトッドは、「イスラームと近代は相容れない」という欧米の通念に抗し、識字率・出生率・内婚率など人口動態(デモグラフィー)からアラブ革命の根底にあったイスラーム圏で着実に進む近代化・民主化の動きを捉えていた。

感想・レビュー・書評

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  •  文藝春秋の推薦本で、購入。

     フランスの人口分析とか歴史分析が専門の人らしい。たくさん邦訳もでているが、自分は初見。

     トッドの説は非常に単純。

    ①男性識字率があがる→女性識字率があがる→出生率が下がる、とそこが抜けて、革命のような動きが起こるという。

     チュニジア、エジプト、リビア、パレスチナ、バーレーンなど、この基準を満たしているという。

     本当は、サウジアラビアとか首長国も満たしているのだが、ここは石油収入で食べていて税金をたらないので、革命が起きにくいという。

    ②共産主義は、結婚しても家庭に残り、遺産も均等に配分する「外婚制共同体家族」で起こるという。ロシア、中国、インド北部、ユーゴ、ハンガリーなど。

     ヨーロッパでもフィンランドやイタリア中部はその傾向があるので、昔から共産党が強いという。

    ③直径家族、長男が家を相続していく家族体は、ドイツと日本。ここはなぜか、車が通っていなくても赤信号で止まるという。

     フランス人はドイツ人がきらいなんだね。日本人もそれに巻き込まれている。

     なんとなく、識字率があがらないと情報も伝わらないし、出生率が下がるというのも女性の権利が尊重されるような環境になるというのは、革命が起こるのと関係ありそうな気がする。

     なんでもイスラム原理主義のしわざと考える傾向のあるフランス人への逆説的、強調としてよめば理解できる。

     内容は、最後のp161のトッド人類学入門をちらっとよむだけで十分理解できる。

  • 「今日の世界は、経済という強迫観念に取り憑かれた世界で、経済がすべてを為すと考える、裏返しのマルクス主義者たちの世界です(私が念頭に置くのは、ネオ・リベラリストたちのことで、彼らは基本的に裏返しのマルクス主義者であって、しかもマルクス主義者より頭が良いわけではありません)。」(p29)と語るエマニュエル・トッドが、人口統計学(デモグラフィー)のデータを基にイスラム世界の分析を行ったのが「文明の接近」。

    本書は、同書の内容をめぐって制作されたテレビ・インタビュー番組を基にした対談本。

    対談本だから読みやすい。字もあまり多くない。巻末にトッドに理論的基盤となる家族類型の要約もあり、トッドを知るための格好の入門書となっている。

    それでも2,100円は高いので、本屋で立ち読みするか、図書館で借りて読むことをオススメ。

    トッドの説を強引に要約すれば、女性の識字率が50%を超えると出生率の低下が起こり、それとともに社会の近代化が進む。それはキリスト教やイスラム教などの宗教の如何や、経済状況などとは関係なく進む。それを過去の歴史や世界各国の人口統計から示してみせる。

    イスラム世界で今起こっていることは、イギリス革命、フランス革命、ロシア革命と同様のパラメーターの基で、起こるべくして起こった事象であり、西欧諸国が動乱から安定した社会に落ち着くまで数十年以上を要したように、今後イスラムでもさまざまな混乱や逸脱、宗教的専制や女性に対する厳しい抑圧のような近代化に逆行する現象が見られようとも、人口統計学的が示すところでは、避けがたく近代化の道を歩んでいる。

    また同じ民主主義国家でも、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本では、それぞれ異なった姿を取っているが、その違いは、基本的にその地域特有の家族類例が規定している。

    一見すると唐突な感じがするトッドの理論は、不思議な説得力を持っており、アメリカ風の世界観に染まった頭をクリアにしてくれる。
    それがトッドの魅力だ。

  • 2020/03/12:読了
     対談が、断片的な情報のつながりで、読みにくいが、内容は「なるほど」と思えるものだった。

     出生率・識字率などからみた、社会の変容。
     それは西欧がイギリス・フランスの革命の時に、発生していた社会的な変化であり、その変化により、民主化が起きたと言うこと。
     それと同じ事が、イスラーム社会で発生し、ロシアも中国も同じ道をたどっている。イランのイスラム革命は、過去に戻る確定でなく、出生率が下がり識字率があがっていた中で、必然的に起こったこと。その後の、西欧の圧迫がなければ、もしかすれば、さらに進んだ社会になっていた可能性がある。

  • アラブ圏についてのトッドさんの分析を知りたくて読んでみた。インタビューを構成したものなので、ざっとしたことしかわからないが、それでもいくつかの発見があった。

    アラブ圏といってもそれぞれなのである。チュニジア、アルジェリア、モロッコ。マグレブとひとまとまりにされている三国でも事情が異なる。
    エジプトもまた特異的でイシス信仰があるのだから女性のステイタスが比較的高い。サウジアラビア、バーレーン、リビアもそれぞれ。そして、イランはずっと民主化が進んでいる。チュニジア、エジプトで2010年に始まった革命と同種のものが1979年に起こっていたのだ。

    一般的に民主化とは、市民なるもの、自由な個人が、公的空間に出現することなのだということを知った。「民主化」ってよく聞く言葉だったけどその意味をあまり深く考えずに使っていたなぁと…

    そうそう、肝心のアラブ圏の家族制度は、父系の内婚制共同体家族である。子供の社会的ステイタスの定義において、両親ではなく、父親だけが重要である場合に、そのシステムは父系と呼ばれ、アラブの父系の平行いとこ同士を優先させる婚姻は、内婚制であり、内側に閉ざされた家族集団を産み出すから、公的空間に市民というものが出現しにくい家族制度である。
    そんなこともあって、アラブ圏では民主化が多少進行しにくいのだけれども、識字率の上昇や内婚率、出生率の低下などの人口統計学からみると、確実に民主化してきているというのがトッドさんの結論である。

    そして、アラブ圏の家族制度が重要視する価値は、権威と平等。平等を求めるので、ある種の普遍性は追求される。さらに内婚制から生じる穏やかさを含み持つ父親像が投影されるイスラムの神の慈悲深さという分析は驚きだった。
    いろいろとまだまだ、未消化で、もうちょっと頭を整理したいが、余裕ができたら今度はもっと詳しい「文明の接近」を読みたい。

    それにしても、トッドさんの多様性の尊重と普遍性への志向のバランスの素晴らしさが感じられる。たぶん、それらが存在する次元ってのは異なるのだろうけど、自分も「多様性の尊重と普遍性への志向」を持ち続けたいなと思った。

    Mahalo

  • ブログに掲載しました。
    http://boketen.seesaa.net/article/414461099.html
    言ってることは、ある意味、ものすごく単純です。
    世界で起きていることは、すべて家族システムと、識字率・出生率で説明できる(それこそ、「ホントかよ!」です)。

  • インタビュー形式なので、最初は独特なフランス人特有の言い回しに慣れずにわかりづらかった。
    トッドの著書が始めてだったので、巻末の<トッド人類学入門>から読めばもっとわかり易かったと思う。
    家族形態と出生率及び識字率から導き出す、各国の特徴は大変興味深く勉強になった。特に日本・ドイツ・スウェーデンの共通項には頷けた。

  • 《補章 人口動態から見たアラブ革命》p147
    Cf. 『文明の接近』

    《附録 トッド人類学入門》p160

    【世界の家族型】p161 Cf. 『第三惑星』
    ①外婚制共同体家族
    ②内婚制共同体家族
    ③非対称形共同体家族
    ④権威主義家族(直系家族)
    ⑤平等主義核家族
    ⑥絶対核家族
    ⑦アノミー家族
    ⑧アフリカ・システム

  • 識字率、出生率、内婚率を変数に民主化への動きを説明。でも、中国、ドイツに関する叙述も興味深い。

  • ソ連の崩壊とアメリカ帝国の没落、さらにアラブ革命を言い当てた上に、ユーロの消滅さえ予言したとまで疑われてしまったトッド。彼の予見の基礎に横たわる、識字化と出生率の低下、及び家族システムの問題に即しながら、アラブ革命を検証する。ウェブテレビのインタビューをベースにしているのでかなりざっくりとした内容ではあるが、トッドの言説のおさらいには好適な一冊。

  • エマニュエル・トッドは
    『最後の転落』(1976年)でソビエト連邦の崩壊を予測し、
    『帝国以後』(2003年)でアメリカの凋落を予測し、
    『文明の接近』(2007年)で「アラブの春」を予測した、
    と言われる。  

    識字率・出生率・内婚率など人口動態から、アラブ革命の根底にある近代化民主化まで予見できた・・・・・と説明されても、予言者じゃあるまいし、だからどうした?という気がする。

    彼は、『文明の接近』というタイトルから分かる通り、アメリカのWASPの保守的な政治学者サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』という見方に反論してる。
    ハンチントンのようなグダグダした記述とは違い、統計的数値の裏づけをもって「イスラームと近代化は相容れない」という通俗的な見方に反し、欧米世界とイスラム世界の接近がすでに始まっている、と分析している。
    これは、最近読んだエコノミスト誌の2500年の未来予測図と、近いものがあり、もしかしたら本当のことなのかもしれない。
    これに対して親イスラエル派で、フランスの反イスラムの空気を煽っているフィンケルクロートとかいう野郎がやたらとトッドに噛み付いてるそうだ。

    トッドはアナール派から影響を受けてるらしい。
    でも、彼のことを、単純に「歴史学者」などとは呼べない。

    むしろ、彼は人口統計学者であり、人類学者であり、社会学者であり、政治学者であり、お総菜屋であり、肉屋である・・・・・という説明が、いちばんシックリきた。
    つまり、何でもアリなんだけど、ハンチントンみたいな保守的な政治学者や、ウォーラーステインみたいな時代錯誤のイデオローグとは違って、文学的な言葉をダラダラ述べてゆくダメな社会学者なのではなく、科学的な手法を使って計量・分析できる専門的な研究者なのだ。
    彼は、自分は何と呼ばれても良いけど、哲学者と呼ばれるのだけはイヤだ、と言ってる。
    そうだな。少なくとも彼には、哲学はない。

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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