甘い漂流

  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894349858

作品紹介・あらすじ

ぼくは、仕方なくやってきた
亡命者ではない。観光客でもない。
この街で、生きていくのだ。

1976年、夏――。カナダ・モントリオールの街はオリンピックに沸き、少女コマネチが3個の金メダルを獲得した。そんな北の街に、母国ハイチの秘密警察に追われて到着した、23歳の黒人青年ジャーナリスト。熱帯で育まれた眼に映るのは、赤いミニスカート、恋人たちのキス、冬を経て迎える春の輝き。そしていきなりの身体検査と、移民センターの押し問答――。
公園の鳩をレモン味で食べ、故国の友人を忘れるための時間を数え、何人かの新しい女の子と出会い、新しい街で生きていく、とは? 「ぼくは観光客ではない、ここに留まるために来たのだ、好むと好まざるとにかかわらず――」。

感想・レビュー・書評

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  • ダニー・ラフェリエールの自伝的小説。
    自由詩と散文の形だけど、私の中には小説として入ってきた。
    ハイチからカナダに亡命した最初の一年の話。

    冬の染みついた街で、常夏の思い出を胸に納めて厳冬を生き抜く。
    これもまた『フレデリック』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4769020023を考える。
    あるいは室生犀星の『小景異情』。
    遠くで故郷を思いながら都に己をなじませていく。
    『血液と石鹸』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4152089571も読みたくなる。


    ことばの中に著者の別の作品でみたエッセンスがちらちら顔を出す。
    この辺は『我輩は日本作家である』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4894349825だなとか、こっちは『ニグロと疲れないでセックスする方法』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4894348888だなとか、話の萌芽が見えておもしろい。
    小説家前夜の、小説ができる課程。でもこれも小説。

    ラフェリエールの文章は、こちらの調子が良くても悪くても気軽にだらだら読める。
    鋭い目や、メモしたい言葉や、考えるきっかけがつまっている本は普通重い。
    重たい本はなかなか入ってこないし、消化するのに時間がかかるから一気に読めない。
    でもこの人の本は「入れる」というより「かえってきた」みたいにすっと収まる。
    みんな本気なのに、まじめに取り組まなくていいような、中身のある軽さが好きだ。


    冬をアイデンティティの中心にすえるケベックの人たちに、やたらと四季を強調したがる日本人を重ねて思い浮かべた。
    「固有」やら「個性」やらを強調する姿はたいてい似通ってありふれている。

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著者プロフィール

1953年,ポルトープランス(ハイチ)生。『プチ・サムディ・ソワール』紙の文化欄を担当していた76年,モントリオール(カナダ)に移住。85年,『ニグロと疲れないでセックスする方法』(邦訳藤原書店)で作家デビュー(89年カナダで映画化。邦題『間違いだらけの恋愛講座』)。90年代にはマイアミに居を移し,『コーヒーの香り』(91年)『甘い漂流』(94年,邦訳藤原書店)『終わりなき午後の魅惑』(97年)などを発表。2002年よりモントリオールに戻り,『吾輩は日本作家である』(08年,邦訳藤原書店)の後,『帰還の謎』(09年,邦訳藤原書店)をケベックとフランスで同時刊行し,モントリオールで書籍大賞,フランスでメディシス賞受賞。2010年のハイチ地震に遭遇した体験を綴る『ハイチ震災日記』(邦訳藤原書店)を発表。2013年アカデミー・フランセーズ会員に選出される。

「2019年 『書くこと 生きること』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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