- Amazon.co.jp ・本 (791ページ)
- / ISBN・EAN: 9784894536210
作品紹介・あらすじ
単なる「ローカル線紀行」や「鉄道もの」ではなく丹念な取材と深い省察から浮き彫りになる北海道と、この国の「地方」が抱える困難な現実-。新たな紀行ノンフィクションの地平を切り拓く意欲作。
感想・レビュー・書評
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北海道の過疎地を訪ね、そこで暮らす人々にじっくりと話しを聞き、その地域の現実や課題を深く掘り下げていく本。タイトルがなんか軽いんで、ありがちな、過疎って大変だよね〜でも自然っていいよね〜こんなとこにも面白い人がいたよ〜みたいな適当な本かと思ったらそんなことはありませんでした。過疎・農業・漁業・自然保護・観光・地方自治、そして人・家族の歴史。筆者はフェアな態度と誠実かつ愚直な重量感のある取材力で課題を深堀りしていきます。多くの課題は北海道に限らない課題でしょう。それらの課題について、ぼくは何も知らなかったんだな、、、、と思いました。とても勉強になったのと、筆者のこの本に賭けた熱い思いが伝わってきたので五つ星です。
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北海道の、それも限界集落に近いところについて丹念に調べて著した本。よくここまで調べ上げたな、というのが率直な感想です。数冊に分けて出版しても良いような内容の濃さです。
6つの無人駅の周辺から様々なことを描き出していますが、鉄道や駅が中心というよりも、そこに住んで生活している人が中心の話です。
個人的には唯一無人駅ではない、雄冬の話しが良かったです。
それと、これほど、補足というか、脚注が充実している書籍は今まで見たことがないです。
第1章:室蘭本線小幌駅
親子二代で駅に勤めた国鉄マンの話しが記載されているとは知らずに驚きました。活気があった頃の話しも出ており、興味深かったです。また、両脚を切断された漁師の話がとても印象的でした。
また、ホタテが昭和40年代に養殖に成功してから、これほど食卓に上るようになったと、初めて知りました。
第2章:釧網線茅沼駅とタンチョウの保護について。タンチョウは保護してエゾシカは殺すのか。自然保護と人間の生活はどう折り合いをつけていくべきか、様々な人の意見を交えながら、明らかにしていっており、読み応えがありました
第3章:札沼線新十津川駅
もはやこの章では、鉄道も無人駅もどうでもよくなり、現在の米生産の現場と問題点をあらわすにすることに主眼が置かれています。
一方で、農業や米生産に関して知らないことが多かったのも事実で、新たに知ったことも多かったです。特に、おいしさと安全・安心は反比例し、おいしさを追求しようとするとある程度の化学肥料の使用は通常のことだ、とか、農薬散布と化学肥料をごっちゃにして考えていて、そもそも化学だろうが有機だろうが肥料をあげすぎると環境に悪いとか、言われてみればそうかと思うことを丹念に描いていました。
また、新十津川は奈良県の十津川村の人達が入植した土地ですが、新十津川の人が十津川に行く話は感慨深かったです
第4章:釧網線北浜駅
打って変わって、この章は鉄道と駅が匂いたってくるような章でした。というか、この章のテーマは「旅」。北海道における旅の位置付けの変化を、まずは北浜駅の観光化という点から描いています。昔は、釧路湿原も、富良野も、美瑛も、そして流氷と冬の北海道観光も、全くメジャーではなかったという事実に、ただ驚きます。
第5章:留萌本線増毛駅
今では廃線になってしまいましたが、増毛を描いています。この駅は高倉健の映画」「駅 Station」で有名なので、当然その映画のことと、この街を語る上で欠かせないニシン漁。往時の繁栄のことが描かれています。さながら、記憶に埋もれた街。という印象を受けました。ちなみに、ニシンが綿花の肥料として重要だったとは知りませんでした。
第6章:増毛町雄冬
鉄道も走っていない雄冬の話。当然のことながら漁をするしか産業のないところなので漁の話と、この集落自体が「陸の孤島」であった時期が長かったのでその話。加えて、高齢化が進む中で、濃密な人間関係があるところでの高齢化がどのようなものなのかが記されています。漁師町だけに、とっつきにくい人が多いんだな。というのが感想です。
第7章:石北線奥白滝駅
すでに誰も住んでおらず、廃駅になった集落の話し。当然のことながら、開拓から繁栄、集落の終わりまでを描いていますが、それに加えて旧白滝村の合併話しに紙数を割いています。小さすぎる自治体と住民との関係。箱物に頼り、その結果嵩んだ借入金。そして、村の行く末を決める際の怨恨や権力闘争。こうしたものが如実に描かれています。 -
自分が興味ある北海道開拓の話や、現代の北海道産業の問題点などが、実にリアルに書かれていてとてもいい本でした。図書館で借りた本だけど、これは手元においておきたいので買いますw
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北海道に住みながら、なんと私はこの土地のことをしらなかったのかと思わされる。いわゆる手垢のついた北海道のイメージではないこの土地の姿を教えてもらった。
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図書館。素晴らしい力作。とにかく面白い。手元に置いて再読したい。
内容にはまったく文句がないが、章末の詳細な注について。これだけでもたいへん読み応えがあり面白い。グレイの紙に小さな字で四段組。びっしり書かれていて読みにくい。造本も(厚すぎて)バラバラになりそう。
全七章で分厚い一巻になっているが、一章を一冊ずつ出してもよかったんじゃないのか。せめて三冊くらいで。
カラー写真も素晴らしい。
タイトルでノスタルジックな鉄道の話と誤解していた。勿体無いと思う。 -
読み終わって「面白かった」、「感動した」、「人にも勧めたい」と思わせてくれる本はこれまでにも読んだことがある。しかし、読み終わって、「この本の値段では安すぎる、この倍は払っても良い」と思わせてくれた本は初めてだった。
フリーライター渡辺一史が8年間にも及び全力を賭けて取材した結果が800ページ弱の圧巻のボリュームにまとめられている本書は、2,500円という対価では余りに安すぎる。
本書はタイトルにあるように北海道の6つの無人駅を巡るルポルタージュであるが、無人駅はあくまで触媒としての役割に過ぎない。あとがきで著者はこのように独白する。
「最後に白状してしまえば、私は無人駅にも鉄道にも、じつは大して興味はなかったのだ。興味があるのは人だった。無人駅をテーマにしながらも、私は人を求めて旅をしていた。」(本書p779)
6つの無人駅が触媒となり、そこから紡ぎ出されるのは、今の北海道が抱える様々な問題である。タンチョウヅル等の自然環境保護と観光のバランス、北海道における稲作と政府保護の問題、漁業の衰退に伴う街の過疎化、市町村合併の流れにおける地方自治の有り方等・・・。その多くは北海道特有の問題というわけではなく、他の地方自治体にも通じているわけで、本書を通じて、今の地方自治体が抱える課題を極めて生々しく理解することができる。
そして、何よりも著者が独白するように、6つの無人駅付近にある自治体で生き抜く人々の姿が、その人となりや生活様式がよく伝わってくるように描かれている点に感動を覚える。8年間という歳月をかけたのは、こうした人々とのコミュニケーションに著者なりの誠意で持って、”時間”を媒介にして、付き合ってきたからに他ならない。そうした”時間”がなければ、ここまで生々しい情報は得られなかったはずであり、そこにこそ本書の最大の魅力がある。
また、膨大な量の注釈(恐らく注釈だけで50ページほどはある)には、上述の課題に関する基礎的なファクトが極めて丁寧にまとめられている。これも膨大なリファレンスから著者がまとめあげたということを考えると、やはり本書に2,500円以上の対価を払うべきだという思いが強くなるのである。 -
寡作だが誠実な作品を出す北海道在住のノンフィクション作家。北海道の小さな開拓史を丁寧にすくい取る。こんな作品が書けたらいいなあと素直に思う。 (松村 教員)