神狩り (ハルキ文庫 や 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 132
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894564411

感想・レビュー・書評

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  • 〇 総合評価 ★★★☆☆
     山田正紀のデビュー作に当たるSF。論理記号を2つしかもたず,関係代名詞が13重に重なるという謎の「古代文字」が神の文字であると考え,神の存在を意識し,神と戦おうとする話。神狩りは,主人公である情報工学者の島津圭助が,神と人間が戦うことを阻止しようとする霊能力者ジャクスンを殺害し,神との闘いを決意するところで終わる。
     物語全体の雰囲気は悪くない。まさに古典というべき作品なのだが,あまり古くささを感じない。出てくるキャラクターは,少し青臭いところはあるが,それなりに魅力的である。何より「古代文字」の存在が非常に魅力的である。
     とはいえ,古代文字という魅力的な謎について,ある程度の仮説は示されるが解明はされない。そもそも,人類の想像を超えたものという設定なので,作品内で謎が解明されることがないのは致し方ないのだが。神の存在も謎のまま。「神狩り」の最初に現れたジャクスンという謎の男の正体は明らかになり,ジャクスンを殺害するところで物語は終わる。よって,一応,神狩りとして,ジャクスンと島津についての物語は完結するのだが,神と人間の戦い,「神狩り」は,「神狩り」が始まったという段階で終わる。
     今後の展開次第で評価は変わるのかもしれないが,この作品だけを見る限り,不思議な魅力がある作品である。1975年の作品であり,SFの歴史的名作として後発の作品にも影響を与えているのだろう。
     評価としては★3。この作品としてはそれなりに面白い作品で,熱中して読めた。

    メモ
    〇 プロローグ
     ヴィトゲンシュタインがバートランド・ラッセルからの手紙を受け取るシーン

    〇 第1部
     情報工学者である主人公「島津圭助」が神戸市で調査中の遺跡で「ある文字」を見せられる。その遺跡内での事故で,島津を誘った竹村という作家は死亡する。洞窟内での事故がスキャンダルとなり島津は謹慎することになる。謹慎中,島津は遺跡で見つけた「古代文字」を研究する。島津は「論理記号が2つしかない」という特徴を知る。古代文字の関係で「及川」という男に監禁される。監禁された場所でコンピュータを用い,「古代文字」の研究を進める。監禁場所で神戸市の遺跡で見た謎の男が「ジャクスン」であることを知る。島津の監禁は突如終える。島津は,及川と一緒にいた「宗」という人物から改めて仕事の依頼を受ける。「理亜」というクラブで芳村という老人,理亜という女性に出会い芳村から「古代文字」についての話を聞く。古代文字は神の文字であり,吉村達は神と戦おうとしている。及川達は神と手を結ぼうとしている。ジャクスンは人間が神に手を出すのを止めようとしている。島津が芳村の仲間に誘われたところで,第1部は終わる。
    〇 第2部
     島津はカリフォルニア大学の客員講師という安定した道を捨て,芳村の仲間に入る。神が介入したのかは定かではないが,アメリカ兵士の暴動事件により及川達の秘密基地は壊滅する。島津は,「古代文字」は2つしか論理記号を持たず,関係代名詞が13重以上に組み合わさっているというという特徴のほかに,全ての単語が一義的であると推理する。その後,芳村,宗,島津はジャクスンに会う。芳村はジャクスンの手を借り,神と会って戦い,死ぬ。芳村を追うように理亜も死ぬ。宗と島津は,島津がいたS大の学生を焚き付け,S大を占拠させる。島津はコンピュータを利用して古代文字を解析し,何らかの手掛かりをつかめそうな段階で学生運動が機動隊の手で壊滅。宗まで命を落とす。

    〇 第3部
     島津はS大の学生を焚き付けた首謀者として警察に指名手配される。バースワンの如月啓子という霊能力者に出会う。理亜の名を騙る霊能力者がクラブ理亜にいる。島津は理亜に行き,霊能力者を集めていた人物,アルバート脇田に出会う。アルバート脇田はNASAの関係者だった。NASAは火星の運河が古代文字だと考え解析をしていた。島津はNASAと手を組み,アメリカでジャクソンに出会う。そして,ジャクソンを殺害する。島津は死んでいった者たちの死を無駄にしないために神と戦うことを決意する。

  •  若き天才情報工学者、島津圭助は「十三重に入り組んだ関係代名詞と、二つの論理記号のみの文字」で構成される『文字』を見せられる。論理では解くことのできないこの文字は、やがて「神の存在」へと繋がって行く。この世に神は存在するのだろうか? SF小説の名作。

     この作品は、昭和51(1976)年に書かれているので、コンピューターを使用する場面の描写はいささか古めかしく感じられますが、読者を作品に引き付ける魅力はいつまでも色褪せないはず。

  • 全ては妬む神の御業である…幸も不幸も。
    その軛から解放されるためには

    [非論理的なる世界については、それがどのようなものであるか語ることさえできないない。/byヴィトゲンシュタイン]

    と説くヴィトゲンシュタインを超えなければならない。

    この世に示現し、神に触れ得ようとした聖人達を神の犠牲者と語る本作にストンと何かが落ちた気分。

  • 面白かった。最後はあっけなかったが一気読めた

  • 若き天才情報工学者、島津圭助は、神戸市で調査中の遺跡、花崗岩石室内壁に、ある『文字』を見せられる。十三重に入り組んだ関係代名詞と、二つの論理記号のみの文字。論理では解くことのできないその世界の言葉を執拗に追うある組織は、島津の卓越した頭脳に、この文字を通じて『神』の実在を証明することを強要する。―語りえぬことについては、沈黙しなくてはならない。ヴィトゲンシュタインの哲学に反く行いに幕を開ける、SF小説の金字塔。

    神に対するアイディアがまず面白い。70年代のSFだが時代をあまり感じさせない。 学生運動が描写されているシーンではじめて古い作品だと気が付いた。

  • 限られた環境の中で信仰されている神々は、信仰している人間が滅んでしまったらどこにいくのか?

    すなわち神がいる場所は…

    なかなか超次元的で面白かった。

  • 13の関係代名詞と2つの論理記号から、神の存在を…というあおりに期待しすぎて拍子抜け。
    なぜ関係代名詞と論理記号であるのかの理由付けとか、なぜ人間がそれを理解できないのかの描き込みをしているのかと思っていたが…
    行く手をはばむ超自然の力に挑むというのがいいのかな?
    霊能者がでてきたり、キリストも超自然の力にねじ曲げられた犠牲者のひとり…というくだりでは、CLAMPのXとか「百億の昼と千億の夜」を思い出した

  • およそ40年前に・・・デビュー作で・・・この内容!?

    凄すぎる\(◎o◎)/

    でもクリスチャンの母が読んだらひっくり返りそうな話だわ(笑)

    すご~く盛り上がったのに、ここから!ってとこで話が終わってしまうのが非常に残念。

  • 山田正紀という人は、とにかくうまい。

  • 《神》を狩るというとんでもない主題の小説。短い小説のためか登場人物も少なく、無駄な描写のない、筆者のイメージをズンズンと記していったのかな、と思わせる構成。死体をどう処理したかとか、機動隊に囲まれてどうやって脱出したかなどという疑問はあえてすまい。
    核となるなぜ《神》を狩るのか、の部分は歴史・宗教的な側面を踏まえ、説得力あるロジックが構築されており、中盤以降はどうやって狩るのかをまんまと期待させられてしまった。

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著者プロフィール

1950年生まれ。74年『神狩り』でデビュー。『地球・精神分析記録』『宝石泥棒』などで星雲賞、『最後の敵』で日本SF大賞、『ミステリ・オペラ』で本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞を受賞。SF、本格ミステリ、時代小説など、多ジャンルで活躍。

「2023年 『山田正紀・超絶ミステリコレクション#7 神曲法廷』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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