吉野弘詩集 (ハルキ文庫 よ 2-1)

著者 :
制作 : 清水 哲男 
  • 角川春樹事務所
4.01
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本棚登録 : 721
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894565173

作品紹介・あらすじ

社会のあり様や働き人の暮らし、家族の営みや自然の移り変わりを、日々を生きる者の飾らない眼差しでとらえ、深く柔らかくそしてユーモラスに練り上げた言葉でうたう詩人・吉野弘。名詩「I was born」や「祝婚歌」など、やさしく誠実な者たちの魂の重力を探った戦後五十年にわたる詩群のなかから代表作品を選び、季節・生活・言葉遊びなどテーマごとに配置する。

感想・レビュー・書評

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  • 「歌詞をSNSで紹介したら、著作権の侵害で法律に触れる可能性があるから、しない方がいいですよ」
    以前親しい友人から忠告されたことがある。
    「もしそうだとしても、ボクは断固として紹介するよ。それで法律に触れたら、そのときに考える」
    私はそう答えた。
    (法的には親告罪であって、訴えられた時は著作権侵害になるらしい)
    詩は、紹介され、引用され、繰り返し朗読されて初めて詩になるのだ。私はそう信じている。
    宮沢賢治の「雨ニモマケズ」は手帳のメモだった。詩になったのは、谷川徹三さんが紹介して、人々から引用され、私がこの40年の間に何百回も暗唱しているから、名詩なのだ。
    吉野弘の「祝婚歌」は、おそらく今まで何万回も祝いの席で朗読されているだろう。
    名詩は今頃になって丸善で売り上げ一位になったりするから名詩なのではない。今回初めてこの詩集で知った「初めての児に」「紹介」「夕焼け」「自分自身に」「冷蔵庫に」をこれからも私は紹介することもあるだろう。或いは前から大好きだった「生命は」を私は名詩にするのだ。

  • 祝婚歌と夕焼けが、好き。

  • 生活の中で、気持ちが塞ぎ込んだりある物事に対してどう振る舞えば良いか解決の糸口が見えず心が晴れない場面がある。そういった様々な考えや悩みを横に置いて、肩の力を抜いて目の前の靄を晴らしたい時に手にしたくなるのが吉野弘さんの詩。
    柔らかで優しく時に軽快な言葉の数々と、広々とした自然の豊かさをもって、気持ちをすっきりさせてくれます。
    個人的に好きな「生命は」「祝婚歌」が収録されていて購入したものの、他にも家族の温かなひと時を切り取った「一枚の写真」や京都・北野天満宮の祭神に思いを馳せる「菅公は超多忙」など、知らなかった魅力も知れる良い1冊でした。

    余談ですが、自分を鼓舞し背中を押されたい時には茨木のり子さんの詩を手に取ります。

  • 詩人は優れた感性の持ち主に違いない。
    ぼくの好きな作品を紹介したい。
    二月の小舟

    みずすまし
    I was born
    祝婚歌
    素直な疑問符
    夢焼け
    空の色が

  • 「雪の上に 雪が/その上から 雪が/たとえようのない 重さで/音もなく かさなってゆく/かさねられてゆく/かさなってゆく かさねられてゆく」(雪の日に)
    ---
    「花が咲いている/すぐ近くまで/虻の姿をした他者が/光をまとって飛んできている//私も あるとき/誰かのための虻だったろう//あなたも あるとき/私のための風だったかもしれない」(生命は)

  • 「祝婚歌」を知り興味を持った吉野弘。以前図書館で借りた『贈るうた』『二人が睦まじくいるためには』が良くて、祝婚歌、菜々子へ、が入った詩集を手元に置きたいと思っていた。Tポイントが貯まっていたのでYahooショッピングでポイント購入。文庫で手に取りやくす、沢山の詩が掲載されていて大満足。度々見返したい。2018/3/24

  • 疲れた時に最近詩集を開く。

    娘に送った「奈々子に」、昔一度読んだ「夕焼け」、
    命のつながりをうたった「生命は」と結婚についてよんだ「祝婚歌」
    そして「自分自身に」。

    “少しの気恥ずかしさに耐え少しの無理をしてでも、淡い賑やかさのなかに自分を遊ばせておくがいい”か。

  • 夜中に『ビーバップ!ハイヒール』という番組に遭遇して、「金子みすずじゃん」と見ていたら詩を取り上げた回だった。その中に吉野弘氏もあって「夕焼け」や「祝婚歌」を知った。番組では「日常を切り取る天才」とかって表現してた気がする。近々職場の先輩が結婚するし、前の職場の同期も結婚するし「祝婚歌」を改めて読んでおきたいと購入。
    結婚する職場の先輩に同じ本をプレゼントしようと思ったけど、なかなか本屋に詩の本が少なくて困った。人に本をプレゼントするときは自分が読んだものにしようと思ってるけど今回は別の『二人が睦まじくいるためには』(童話屋)をプレゼント用に購入。タイトルもわかりやすいし、ハードカバーだしこっちの方がプレゼントにはいいかもしれない。
    自分が結婚する時が来るのかまったくわからんけど、そのときは「祝婚歌」を思い浮かべたい。

    前に『ビーバップ!ハイヒール』を見たときはムーミンを特集してて、いつも文学を取り上げてるのかと思ったら毎週いろいろなテーマにしているみたいでたまたま文学のときだけ遭遇していた。

    初詩集。これからは時々詩集も読んでみようかな。

  • 映画「桜色の風が咲く」で吉野弘さんを知り、それを知らなかったことを恥じ、急いで入手した。その詩の世界感には、ちょっと適した言葉を見つけられない。ただ、家族や生命を想う視点に圧倒され、安心し、凛としたのは間違いない。

  • 『吉野弘詩集』 吉野弘 (ハルキ文庫)


    先日、吉野弘さんの「祝婚歌」の朗読を聞く機会があった。

    この詩は、吉野弘さんが姪っ子さん夫婦に書き送ったものだそうだ。


     「二人が睦まじくいるためには
     愚かでいるほうがいい
     立派すぎないほうがいい
     立派すぎることは
     長持ちしないことだと気付いているほうがいい」

     (中略)

     「互いに非難することがあっても
     非難できる資格が自分にあったかどうか
     あとで
     疑わしくなるほうがいい
     正しいことを言うときは
     少しひかえめにするほうがいい
     正しいことを言うときは
     相手を傷つけやすいものだと
     気付いているほうがいい」

    これが若い時にはなかなか気付けないことなのだと、この歳になって思うね。

    詩はこう結ばれている。

     「健康で 風に吹かれながら
     生きていることのなつかしさに
     ふと 胸が熱くなる
     そんな日があってもいい
     そして
     なぜ胸が熱くなるのか
     黙っていても
     二人にはわかるのであってほしい」

    いやあ。私もまだまだだなぁ。


    ところで、今回ちょっとびっくりする出会いがあった。
    「I was born」という詩だ。
    これが吉野弘さんの作品だったとは!

    昔、国語の教科書に載っていた。
    作者名を覚えていなかった。

    ただ、「I was born」というタイトルと、その訳である“生まれさせられた”という言葉に、当時ものすごい衝撃を受けたことを覚えている。

    とても怖くて、そして怖さと同じくらい、重荷から解き放たれた気持ちにもなって、心に楔を打ち込まれたように、忘れることができなかった。


    「確か 英語を習い始めて間もない頃だ。」

    でこの詩は始まる。


    「僕」が父と一緒に寺の境内を歩いていたとき、身重の女性とすれ違った。
    その腹の中の胎児のうごめきを想像したとき、少年は“生まれる”ということが受け身であることをふと諒解する。


    「I was bornさ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね。」

    それを聞いた父は、少年に蜉蝣(かげろう)の話をする。

    蜉蝣は生まれて二、三日で死ぬ。
    口が退化しているので物を食べない。
    なのに雌の腹の中にはぎっしりと卵が詰まっているという。

    「それはまるで、目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみ」

    「淋しい 光りの粒々」

    と、父はそれを形容した。
    実は少年の母は、少年を産み落としてすぐ亡くなっていたのだった。


    「父の話のそれからあとは もう覚えていない。ただひとつの痛みのように切なく 僕の脳裡に灼きついたものがあった。
    ―ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体―。」


    詩人の八木忠栄はこの散文詩を、吉野弘の最高傑作であり、現代詩が生んだ最高傑作のひとつであると言っている。


    初めて読んだときに感じた恐怖と安堵の感覚は、いま私の中で少し形を変えているが、それは常識に落とし込んで物事を考えることに慣れてしまったせいか。

    でも、やっぱり、と思う。

    解説にある、「『母』という人の苦しみを思いやる気持ちが自然と生まれてくる」作品であるという評価は果たして正しいのだろうか。

    もちろんそれが当たり前の感覚なのだろうけれど、最初にこれを読んだ時に私が感じた何とも言えない負のイメージは、今もこの作品の隠し扉の向こうに広がっているような気がしてならない。


    「人間は生まれてきた時点ですでに病んでいる」

    と、かつて臨床心理学者の河合隼雄さんは言った。


    「生き死にの悲しみ」
    「淋しい光りの粒々」
    「ただ一つの痛み」
    「息苦しくふさいでいた」

    と、詩人は書く。

    誕生日を“祝う”のだから、生まれてくることは素晴らしいことだしめでたいことだが、それだけではない何かを感じて心がざわざわする、そんな不安感がこの詩には確かにある。


    これからもきっとずっと忘れない、心に残る詩の一つである。

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著者プロフィール

1926-2014 詩人。山形県酒田市生まれ。代表作は「夕焼け」「祝婚歌」など多数。校歌・社歌も多く作詞。詩集に『贈るうた』『夢焼け』『吉野弘全詩集』など。読売文学賞詩歌俳句賞、詩歌文学館賞受賞。

「2015年 『吉野弘エッセイ集 詩の一歩手前で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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