- Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
- / ISBN・EAN: 9784894567825
感想・レビュー・書評
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単行本の出版が1993年。長年気になっていながら読む機会を逃し続けていたSFファンタジー、ようやく手にすることができた。
紫の砂漠に惹かれる7歳のシェプシ。この星の人間は尖った耳を持っているのに、丸耳ということで疎外感を抱くシェプシは、砂漠を心の拠り所にしている。「真実の恋」によって男女の性差が決まり、7歳になると生家を出て旅をし、「運命の子」として養子に出される。吟遊詩人と出会い、「運命の旅」に出たシェプシ。この旅が、思いがけない冒険となる。シェプシの愛する砂漠も、シェプシの行く末に大きく絡んでくる…。
壮大で、とても美しい物語。曖昧なジェンダー、ちょっと難解なSFファンタジー風味が萩尾望都に近いなと感じた。本作が単行本で刊行された20代そこそこの時に読んだら、あまり理解はできなかったかもしれない(勿論その年代だから感じられることもあるが、挫折してたかもな)。2000年に文庫化されていたことも知らず、今回苦労して手に入れたけれど、今読めてよかった!文庫化されて、しかも続篇も出されて、本当にありがとうございます!!という気持ちでいっぱい。
松村さんは寡作な方だが、透明感のある、美しい世界観がとても好き。過去作も是非とも復刊して頂きたい。再読したいものがいくつもある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本当に繊細な文章でつづられている。
読み終えたときに、少し名残り惜しいような気がするような本。 -
本屋さんに行ったとき、表紙とタイトルに一目ぼれして、購入した本です。
・・ええ、購入を決めたときには、中身をあんまり読んだ記憶はございませぬ・・。
しかしうちに帰ってじっくりと読んだところ、
読み終えた瞬間、涙がボロボロと出てきました。
けして難しい文ではなく、当時小学生であった私でも十分理解できる本だと思います。
世界観もとてもしっかりとしていて、物書きでもある私にとってはある意味バイブルです。
『真実の恋』と紫の砂漠、美しい詩人をめぐる、主人公シェプシの物語。
お勧めシーンは、詩人とシェプシの別れのシーン。
そのときの詩人の心情を考えると・・・自然と涙が出てきます。
ラストで再会するんですが、そのときにはもう・・・・
・・やばい涙出てきた・・
悲しくて神秘的な物語です。 -
冒頭からしてコンピューター用の議事録フォーマットとしかおもえない文面で記された創世神話、とがった耳の人々の中で異端とされる「丸耳」の主人公、「真実の恋」に出会うまで性別の決定しないこどもたち、アメジストの砂でできた水晶の砂漠、菫茶、素晴らしく美しいレトリック。
典型とも言える「往きて帰りし物語」だったかも。
一方的にボーイミーツガールの要素を期待して(だって「真実の恋」とジェンダーもメインテーマのひとつだし)そしてそれだけにラストで え ええ…?とはなったものの続編があるらしいのでそっちに期待しつつカプ厨のわたしが★一つ減点。 -
急に読みたくなって。あらすじだけを見ると、どうも胡散臭い気がして読めなかった。それに、工夫は凝らしたのだろうが、表紙にこの絵を採用したのは個人的にはいただけない。発言の仕方・口調、性別概念を慎重に配置しているからこそ、下手にイメージを固定化させてしまうからだ。
松村さんの作品はやっぱり短編よりも中・長編での方がとても味わえると感じた。
松村さんの思考実験を見ているような、今までの作品や人生の時間を通じて、松村さんが考え続けてきたことをそのまま実現したような、そんな気がした。よくジェンダーの話を松村さんの作品についていう人がいるが、そんなのを超えて、’ひと’であること、’ひと’として生まれてしまったことを見つめ、考え続ける松村さんの作品だからこそ、ひかれてやまないのだろう。そして何度もまた生まれなおすのだろう。
ファンタジーと言うけれど、歴史、性別、愛、神話、運命、誕生、鉱物的世界、科学…その世界観はとても地に足ついたもので、とても嫌悪したり、逃げたりできるものではなかった。
シェプシの後姿を見つめ、旅立っていったジェセルは散りゆく命の中で何を思ったのだろう。愛というものはいつも肝心なところがいつもうやむやで、失うその時まで存在に気付けない。一方は塩の村で、一方は幻の村で、なぜ運命は分かたれてしまったのだろうか。なぜふたりは出会ってしまったのだろうか。なぜ訪れるはずの至福の時に身を委ねられなかったのか。
それもまた運命だ、と抗えない運命がそこには横たわっているのかもしれない。あの時もしも…なんて後悔に溺れるかもしれない。そんな中にあっても自分を見つめる心だけは何よりも自由にその翼を広げている。
痛みを分かち合えた詩人はもうこの世にいない。たったひとりの愛するひともいない。孤独な眠りの中、一年の時を経て、シェプシはひととしての曙を迎え、再びこの世に生まれた。
誰よりも失うことを知っているから、誰よりも深く愛してしまったから、シェプシは誰よりも誇り高く、愛の詩を奏でることができる。 -
出てくる人間に執着できなかった。
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最も大好きなファンタジーの1つです。
最初からその世界観に圧倒され、次の瞬間には夢中になっていました。シェプシが岩に寝そべって風と同化する感覚や、紫の砂漠が吹く風を肌で感じる感覚などがまるで自分のもののように思えます。こういう余韻に浸れる作品は本当に大好き。
それに「真実の愛」のエピソードも素敵でした。
子供たちは中性で生まれ、運命の相手と出会えた時に初めて<守る性>と<生む性>に分かれて、生涯愛し合う。運命の相手は会えばおのずとわかるもの。子供たちはその時を夢見てドキドキする。どこか甘く幻想的な設定に惹き込まれました。
他にも「生みの親」と「運命の親」の制度についてや、3人の神の物語など、著者の作った世界がとても好きです。もしも私が運命の旅に出るのだったら、書記の町か巫祝の森あたりに行ってみたいなぁ。全体に切なさと寂しさ、そして優しさを感じる物語でした。 -
途中までは面白かったのに、詰め込みすぎのラストとエンディングが残念でした。あえてこの話でこのエンディングにする必然性があったのか……。芥川賞作家だけあって、文章力や描写は素敵です。他のお話も読んでみたい。
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わたしの一番好きな本。
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「真実の恋」によって男女の性差が決定する星の話