英語教育、迫り来る破綻

  • ひつじ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894766631

作品紹介・あらすじ

大学の入試や卒業要件にTOEFL等の外部検定試験を導入する案が、自民党教育再生実行本部や政府の教育再生実行会議によって提案された。しかし、もしそれが現実となれば、学校英語教育が破綻するのは火を見るよりも明らか。危機感を持った4人が、反論と逆提案に立ち上がった…。小学校英語教科化の問題点、白熱した座談会、関連年表なども収録。

感想・レビュー・書評

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  •  最近ひつじ書房から出た『史上最悪の英語教育』は2020年の「四技能化」を主に批判したものだったが、まさにこの本の序章となるもの。直接的には2013年に自民党が安倍首相に出した「英語教育の抜本的改革」の提言と、政府の教育再生実行会議が同じく首相に出した「これからの大学教育等の在り方について」の提言を受けて出版されたもの。英語学や英語教育を勉強した人で知らない人は絶対いないだろうという「地に足のついた」研究者4人が論客として登場し、それぞれの専門や今の職の立場から、英語教育政策の問題点を指摘し、軌道修正するためには何が必要か発言したもの。
     まず巻末に1970年代以降の「英語教育政策年表」があって、実は「20年前にコミュニケーション志向に変えてしまって、学習指導要領も、ぱっぱっと変えて」(p.121)ということも確認できる。そして、教養や論理、国語力を身に着けるのにも役立つ訳読や英文法は悪者にされ、そして「長所を捨てて、短所のところも伸びない」(p.145)、結局何もできないという状態が続いている、ということらしい。
     でもやっぱり教科書はどうあれ授業は「文法ばっかりやってた」という印象を世間一般のおじさんや、あるいは30代のおれですらもそう思ってしまうのはなぜなんだろう。結局学習指導要領は変わっても、おれは大阪の中堅の私立進学校出身、というのもあるのかもしれないが、現場の先生には訳読と英文法を教えられたと思う。でもそのおじさんたちとおれが違うところがあるとすれば、別にそういう英語教育を悪者にする気は全くなく、結局英語できるようになるには自分がどれだけやるかでしょ、と思うし、そういう意味では斎藤先生が皮肉で言っている「斎藤の根性仮説」(p.157)っていうのは、結構真理を突くのではないかと思うのだけれど。
     ただ同時に、この本では述べられていないが、予備校の教員セミナーなんかに行くと「ここ数年の生徒の英語力の落ち方は激しい」という話を本当によく聞く。つい昨日行ったセミナーでも「昔の中級の生徒と今の中級の生徒は違う。昔の中級はもうちょっと頑張れ、で伸びるけど、今の中級は基礎からやり直したらどうですか、という生徒だ」と講師の先生は言っていた。おれは教員としての経験が浅いので何とも言えないが、ただおれが中高生だった時と比べると、なんでそんな出来ないの、と正直思ってしまうことも多い。ということで、コミュニケーション路線へ転向してからの「20年」と、さらに英語力の激しい落ち方を見せる「ここ数年」は、何の差があるのだろうと思う。コミュニケーション路線で英語力が落ちた人たちが教員になったから、ということだろうか。それともいよいよ中学校教員に対する締め付けが厳しくなって、とにかくガンガン話しましょう的な教育する先生が急に増えたからなのか、それとも小学校での外国語活動が始まった結果、中1での英語嫌いが増えたからなのか、そのどれもなのか、よく分からないけど、とても不思議な現象だ。「現場感」としてこういう現象はあるのだけれども、ついに小学校英語教科化まで行ってしまい、この4人の先生たちは本当に「抵抗勢力で、保守反動勢力とみなされ」(p.136)て終わったのだろうか、と思うと悲しい。
     この本で個人的に印象に残ったところは「グローバル企業活動を展開する『日本の』超国家企業の経営者・投資家・利害関係者(グローバリスト)たち」(p.19)という部分で、英語教育の文脈で「グローバリスト」という用語がこういう形で出てきて、「いるよなあ、グローバリスト、(うちの学校にも…)」と思ってしまった。ちょっと前の雑誌「英語教育」でグローバルの意味を考えろ、という記事があったが、グローバルの意味の分かってない「グローバリスト」というのがいたとすれば、本当に面倒くさい人たちだなあと思う。あとおれが勉強になった部分は、鳥飼先生の「CEFRは、言語を学習し教育するうえで参照する『(ある言語で何がどの程度できるかという)評価の枠組み』であって、『到達目標』ではありません」(p.95)という部分、同じようにCEFR-Jのお披露目シンポジウムでのイギリスからの研究者の懸念、「CEFRを到達目標に使っちゃいけない。CEFRは、ある一つの外国語を学んでいるときに、何がどのくらいできるようになったかということを検証するための評価の枠組みにすぎない。教育目標は別にあるべきだ、CEFRを到達目標にしたら教育がゆがむ」(p.147)という部分だった。CAN-DOリストが独り歩きしかねない今、おれも含めて、検証するための枠組み「であると同時に」当然、到達目標であって、それを達成するための授業を展開することが必要だ、と考える先生は多いのではないかと思う。とにかくやれやれと言われて、その勢いに乗せられている時には見えない(見せてもらえない?)けれども、そこをちゃんと勉強、検証する機会を自分で見つけないといけない、と思った。最後に、英語教育界で有名な「平泉・渡部論争」は、「教養」対「実用」の「単純な二項対立じゃない」(p.131)し、「平泉さんって、今のレベルの人たちより少しはましなんです。外交官もやっていたし…。あの論争ってものすごく網羅的で、実はものすごくいいことが書いてある」(同)らしい。こういう論争、色んな理由で、正直ヤだなと思っていたけれど、この時代の英語教師はやっぱりちゃんと読まないといけない、と思った。(18/03/21)

  • 英語
    教育

  • 【版元】
     大学の入試や卒業要件にTOEFL等の外部検定試験を導入する案が、自民党教育再生実行本部や政府の教育再生実行会議によって提案された。しかし、もしそれが現実となれば、学校英語教育が破綻するのは火を見るよりも明らか。危機感を持った4人が、反論と逆提案に立ち上がった……。
    ☆小学校英語教科化の問題点、白熱した座談会、関連年表なども収録。
    http://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-89476-663-1.htm

    【感想】
     本書の基本的な論(改革案への批判)には賛成。ただし著者たちが学校英語教育の専門家というわけではないので、認識不足もいくつかある。

     些細な点だが、≪グローバル企業の英語教育要求≫の内、「超国家企業の教育とその背景」(p.19-24)の後半部分は、熱が入り過ぎているのか、根拠が弱く表現も荒い。あまり編集の手が加わってないということだ。
     あと二重山括弧を使うときは、《 》でお願いしたい。≪ ≫は数学記号の濫用なので。


    【目次】
    まえがき iii

    「大学入試にTOEFL等」という人災から子どもを守るために 001
     江利川春雄 

    もう一度英語教育の原点に立ち返る 029
     斎藤兆史 

    英語教育政策はなぜ間違うのか —認知科学・学習科学の視点から— 051
     大津由紀雄 

    【補論】小学校英語の教科化 073

    英語コミュニケーション能力は測れるか 083
     鳥飼玖美子 

    座談会「英語教育、迫り来る破綻」 117

    英語教育政策年表 [160-163]
    4人組獅子奮迅録 [164-166]
    あとがき [167-169]
    著者紹介 [171]

  • 若干感情的なところもあるが,それが緊急出版の体をなしている。
    英語が使えて世界で活躍できたらなぁとイメージで国の教育政策を決めるな!大多数の日本人にとって英語を使うとはどういうことなのか,英語を使えるために今のカリキュラムでは学習時間が圧倒的に少ない,英語をマスターできる環境の提供を優先すべきでは,ババを英語教師に引かせて何の解決になるのか,等々,イメージで語りがちな英語教育についてalternativeな視点と考えを提供してくれる。

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著者プロフィール

慶應義塾大学名誉教授。関西大学・中京大学客員教授。日本学術会議連携会員。Ph.D.(MIT、1981、言語学)。東京言語研究所運営委員長、日本認知科学会会長、言語科学会会長などを歴任。専門は言語の認知科学および言語教育。言語教育関係の著作として、『日本語からはじめる小学校英語――ことばの力を育むためのマニュアル』(開拓社、2019年、浦谷淳子・齋藤菊枝と共編著)、『学習英文法を見直したい』(研究社、2012年、編著)、『ことばの力を育む』(慶應義塾大学出版会、2008年、窪園晴夫との共編著)など。

「2021年 『どうする、小学校英語?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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