ざしき童子のはなし (ミキハウスの絵本)

  • 三起商行 (2017年10月17日発売)
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本 ・本 (40ページ) / ISBN・EAN: 9784895881388

作品紹介・あらすじ

夢だかなんだかわからない。
けれどもきっと本当だ。
…こんなのがざしき童子です。
語り部が語り伝えるように書かれた、4つのざしき童子のお話。不思議でどこか淋しい雰囲気が画面から伝わってきます。

光と影の表現が美しく、繊細なタッチで描かれた子どものかわいらしい表情や情景。すうっと、物語の世界へ引きこまれていきます。

感想・レビュー・書評

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  •  以前から、ふと思っていたことなのだが、岡田千晶さんの色鉛筆による紗がかかったような美しくも幻想的な絵は、こうしたお話との相性が抜群であることを改めて実感させてくれて、それはまるでかつての思い出を閉じ込めたフィルムを再生しているかのようでありながら、そこには懐かしさだけではなく、どこか声なき声が潜んでいるような、過去の話なのに、その時の思いが色濃く漂っている雰囲気に満たされているようで、そこまで思いを抱き続けながら訴えたいものとはいったい何なのか、知りたくなる。

     例えば、裏表紙と繋がった表紙には、当然文章は無いものの、絵が既に何かを語っているようで、その視線の先にある物に向けた、女の子の何とも言えない表情から窺える気持ちとは何なのか? そんなことを読み始める前も、読み終えた後も考えてしまう。

     宮沢賢治の書く「ざしき童子」の『童子』は、「わらし」ではなく『ぼっこ』と読ませる点に、その地域特有のものを感じられたことから、他の「ざしき童子」とは一線を画すような印象を抱き、それは岡田さんの絵とも相俟って、とても人間らしい細やかで繊細な感情の機微を、時間と共に移り変わる原色の自然の美しさと併せて描くことで、賢治は素朴で雄大な自然に抱かれながら生きる人の喜びも感じていたのであろうことを、おそらく岡田さん自身が感じ取り、目で見るだけではなく、耳で聞くような想像力を促してくれるような描写をされたのではないかと思う。

     それは最初のエピソードである、誰もいない大きな家のどこかの座敷から、『ざわっざわっと箒の音がした』後で、それが箒では無かったことを知った二人の子どもが、『とおくの百舌の声なのか、北上川の瀬の音か、どこかで豆を箕にかけるのか』と、あれこれ考えを巡らす様を書いた賢治の文章に併せて描いた岡田さんの絵は、下から斜め上方の空を見上げる視点で、そこには大らかな森と山に取り囲まれたような雲のかかった青空に、鳥が二羽飛んでいるだけの描写ではあるものの、不安を過らせるような少し灰色がかった雲の存在もあって、まるでそれらの音が聞こえてくるような感覚をもたらしくれる、それはきっと岡田さんだからできるのであろう、賢治の話に更なる臨場感を与える効果が、彼女の絵にはあるという証明なのかもしれない。

     そうした効果は、その次の見開きの絵の、誰もいない空っぽの座敷の光景を二人の子どもが見ていることを、右隅に描かれている二人の影から実感しながらも、賢治の文章の『ただお日さまの光ばかり、そこらいちめん、あかるく降って居りました』が、より寂しさを際立たせてくれるようで、誰もいない日の暖かさだけを感じる座敷を見つめている、影だけの子どもたちの存在は、いったい何を考えているのだろうか?

     一転して二つ目のエピソードは、岡田さんお得意の子どもがたくさん登場する「大道めぐり」の話で、その誰もが無邪気に楽しんでいた中で突然発生した不可思議な出来事は、子どもたちに戸惑いを与えながらも、その後の健気な姿には、どこまでも子どもらしくて胸に迫るものがあった、それぞれの目が訴える眼差しの強さであった。

     更に三つ目に至っては、もうざしき童子なのか人間の子どもなのか、全く区別がつかないような共通した悲しみが迸る様に、その後の見開きの、美しくもどこか切なさではち切れそうな夕暮れ時の自然の描写に、きっと、その子もこの風景を眺めているのだろうなと思わず感じてしまった、それは岡田さんなりのその子への慰めなのか、冷たい仕打ちをした人間への嘆きなのか?

     しかし、その夕暮れ時の見開きから、今度は眩しいばかりに降り注ぐ、たくさんの星たちが光り輝く夜空の優しい風景へと変わることで、北上川から見上げる夜空はこんなにも美しいのだろうかと感慨に耽ってしまう、そんな穏やかな中にも、どこか凜としたものを感じられたのは、こちらも凜とした佇まいの、これから渡し舟でどこかへ旅立とうとする少年の姿があったからだが、その渡し守とのやり取りの中の、どこか達観したような冷めた雰囲気を感じ取ると、「ざしき童子」というのが、単なるお話の中だけの存在だろうとか、人間ではない怖くて不思議なものだからといった観念を超え、その先にあったのは、ただ皆と仲良く一緒にいたかっただけなのではないかと私には感じられて、それは、ただ見つめているだけで愛しさが込み上げてくる、岡田さんの何気ない風景を描いた見返しの絵にハッとさせられたように、自然と心の奥底から湧き上がってくる、そんな分け隔ての無い気持ちを大切にすることを教えてくれたようでもあり、それは本書の賢治の文章の中にある、『こんなのがざしき童子です』の『こんなのが』にも、どこか寂しくてやるせないものを感じ取ってしまう(意味合いとしては違うのかもしれないが)、宮沢賢治の中に於いては、そんな繊細さを秘めた、どこまでも人間らしい存在こそが「ざしき童子」ということなのかもしれない。

  • 〝ぼくらの方の、ざしき童子のはなしです〟


    ここから始まるちょっと不思議な四つのお話。
    宮沢賢治の物語が絵本になっています。


    〝「大道めぐり、大道めぐり」
    一生懸命、こう叫びながら、
    ちょうど十人の子供らが、両手をつないで円くなり、ぐるぐるぐるぐる、座敷のなかをまわっていました。
         〜中略〜

    そしたらいつか、十一人になりました。
    ひとりも知らない顔がなく、
    ひとりもおんなじ顔がなく、
    それでもやっぱり、
    どう数えても十一人だけ居りました。〟


    この場面の十一人の子供たちの絵が印象的です。
    自分だけはざしき童子ではないと、一生懸命眼を張って、きちんと座っている姿が何とも可愛らしくて…
    一人ひとり、確かに違う顔ですね。


    北上川の渡し守が、夜中にひとりの子どもを舟に乗せました。

    〝紋付を着て刀をさし、袴をはいたきれいな子供だ〟
    〝きちんと膝に手を置いて、
    そらを見ながら座っていた〟

    この場面の男の子の絵もすごく好き。
    丸みのある幼い姿ながら、キリッと空を見上げる様子は頼もしく感じます。

    北上川と満天の星空は美しく、昼間はお日様の光が溢れる温かい風景…
    優しい色使いの絵は本当に美しくて、リズミカルな文章と共に何度でも見返してしまいます。
    自分は知らない時代のはずなのに、懐かしく思うのはなぜでしょうか。



    この本は、たださんのレビューで知りました。
    とっても素敵な絵本に出会えました。
    ありがとうございます。⁠◕⁠‿⁠◕⁠。

    • bmakiさん
      宮沢賢治さんの絵本なんてあるんですね〜。
      宮沢賢治さんはほとんど読んだことがないので、またいつか、もっと頭が大人になったらチャレンジしてみ...
      宮沢賢治さんの絵本なんてあるんですね〜。
      宮沢賢治さんはほとんど読んだことがないので、またいつか、もっと頭が大人になったらチャレンジしてみたいです♪

      頭だけまだ子供で(-。-;
      2025/03/09
    • aoi-soraさん
      たださん
      確かに舟の少年の表情から、色んなものが読み取れるかもしれませんね。
      「ざしきぼっこ」は、東北地方の読み方なのでしょうか。温かみがあ...
      たださん
      確かに舟の少年の表情から、色んなものが読み取れるかもしれませんね。
      「ざしきぼっこ」は、東北地方の読み方なのでしょうか。温かみがあって好きです。
      この話に出てくる童子も、愛おしい子どものように思います。
      きっと、ちょっと切ない感じがするからかな?

      この絵本は宮沢賢治の作品に触れるきっかけになりました。
      ありがとうございます(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)⁠✧⁠*⁠。
      2025/03/10
    • aoi-soraさん
      まきさん
      私も宮沢賢治は少し難しいと感じていて、教科書に出てくる作品くらいしか知らないの。
      この絵本、「ミキハウスの宮沢賢治の絵本シリーズ」...
      まきさん
      私も宮沢賢治は少し難しいと感じていて、教科書に出てくる作品くらいしか知らないの。
      この絵本、「ミキハウスの宮沢賢治の絵本シリーズ」らしくて、50冊近く出版されているみたいなの。
      びっくり!(゚∀゚)
      2025/03/10
  • 〝ぼくらの方の、ざしき童子(ぼっこ)の はなしです・・・夢だか なんだか わからない。 けれども本当だ。...こんなのが ざしき童子(ぼっこ)です・・・〟。子どもの愛らしい表情や情景を光と影の効果で繊細な絵で表現された、宮沢賢治の東北地方に伝わる不思議な「座敷わらし」のお話絵本です。

  • この本は、少し怖いお話です。でも、ざしき童子がとっても可愛かったです。
    わたしはとても気に入りました。

  • 物語と絵がとてもよい雰囲気で、
    特に
    渡し守が見たざしき童子は
    凛としていて、よいですね!

    ただ。。
    こわいのが苦手なので、
    じっくり見られず、すみません。

  • 座敷童子のお話。実際に存在するのか架空のものか…。岩手県では、「妖怪、精霊的」存在だとか。四つのお話は有名らしく、「幸福の象徴」とか。色々調べると、1.口減らしされた子供の幽霊説2.大工の呪い説3.奴隷にされた子供説4.河童説と何だか怖い印象。だけど、賢治のお話は何だろう…やんわりとした不思議な感覚に陥ります。「こんなのが座敷童子(ぼっこ)です。」の繰り返しがなんとも言えない響きです。

  • 不思議な座敷童のはなし。子どもたちの表情が豊かですばらしい。

  • 宮沢賢治の作品を絵本化。岡田千晶さんの絵に惹かれて読了。表紙を含め岡田さんの絵はおはなしに合っています。ざしき童子の姿はもちろん、背景との調和が素敵です。文中の言葉の補足は巻末に掲載あります。唯一残念なことは表紙左下にある出版社ロゴ、表紙のざしき童子と同じ赤で目立っている。

  • 素敵なタッチの絵がお話を興味深いものにしているなぁ。

    朗妙寺の淵の渡し守が出会った「更木の斎藤」へ行った凛とした座敷童子がお気に入りに!

  • 座敷童が棲みつく家は繁栄するっていう、わりと分かりやすいお話。
    子どもたちが愛らしくて、方言とあいまってほっこりするね。

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著者プロフィール

1896年(明治29年)岩手県生まれの詩人、童話作家。花巻農学校の教師をするかたわら、1924年(大正13年)詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を出版するが、生前は理解されることがなかった。また、生涯を通して熱心な仏教の信者でもあった。他に『オツベルと象』『グスグープドリの伝記』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『セロ弾きのゴーシュ』など、たくさんの童話を書いた。

「2021年 『版画絵本 宮沢賢治 全6巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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