東直子集 (セレクション歌人 26)

著者 :
  • 邑書林
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (161ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784897094489

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    ・「春原さんのリコーダー」という歌集を以前から読みたいと思っておりこの作品集の中に入っていると気付いたので読んでみた。
    ・激しさはなくどことなくあいまいに色っぽい。
    ・独特の言葉の使い方で刺激を受ける。前半部と後半部に特に繋がりがなく、逆にそれゆえおもしろい効果になることが多い。
    ・ときおり科学っぽい言葉が出てくる。短詩と科学って相性いいのかも。
    ・気になった歌はいつでも読み返せるようメモしておいた。

    【最初の歌】おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする

    ▼メモ(個人的に気になったものをいつでも読み返せるように書きとめておく。外に出してしまっていいものかどうかわからないがとりあえず置いておく。誤字脱字あったらスンマヘン)

    ・夕ぐれに夢をみました処女だったころのわたしと彼女のけんか p.8
    ・冬の陽のそれも朝焼け階段にあたしたちってやさぐれていた p.8
    ・ひまわりの種を数えきれなくて資料室には子供が九人 p.10
    ・おいやんの魚の化石のホルダーに世界をつなぐ金属がある p.12
    ・毒舌のおとろえ知らぬ妹のすっとんきょうな寝姿よ 楡 p.13
    ・切れかけの螢光灯のまばたきの蕎麦屋しんかん真夏真夜中 p.13
    ・「そら豆」っていいかけたままそのまんまさよならしたの さよならしたの p.14
    ・ええそうよそうそうそうよそうなのよ炭素のような祈りの美学 p.17
    ・引き出しの奥の小箱にひんやりと汗ばんでいる球根がある p.17
    ・初春や夢に眠りて夢を見る空にタオルをたたみ続ける p.22
    ・目を閉じて見えるゆがんだ空間にのわんのわんと灯る狐火 p.23
    ・転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー p.24
    ・あの時は待っていましたきっちりと合わせた膝に花を咲かせて p.25
    ・おばさんのようなたましい取り出してしいんと夏をはじめる男 p.28
    ・ぴとぴととミルクをたらす夏の床 狐みたいに髪を結んで p.31
    ・いつも会いに来て下さいな通るたびそこだけきしむ長い長い廊下 p.35
    ・少し遅れてきた人の汗ひくまでのちんちろりんな時間が好きよ p.37
    ・ばくぜんとおまえが好きだ僕がまだ針葉樹林だったころから p.42
    ・辻に建つ快楽荘は木造のアパートである 台湾ビール p.48
    ・そうですかきれいでしたかわたくしは小鳥を売ってくらしています p.49
    ・特急券を落としたのです(お荷物は?)ブリキで焼いたカステイラです p.52
    ・繊月にママ盗まれた路地裏をしりーんしゃれーんと風ふきぬける p.58
    ・地平線と水平線の接点に折れた小枝をさしに行きたし p.65
    ・この部屋はこわれかけの物ばかり飾ってあるとある日気付いて p.65
    ・その人はプラットホームの向こうで笑う 白いタオルのようなうそつき p.65
    ・ひまわりぐみの電話連絡網ですが・・・密葬の場所たんたんと聞く p.69
    ・ぼくは遠い場所から来たがあなたから離れてもっと遠くへゆくよ p.73
    ・鈴の音の激しい夜に一つずつ解かれ私はあいまいになる p.77

    ・つぶしたらきゅっとないたあたりから世界は縦に流れはじめる p.82
    ・電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよ p.86
    ・ブラジルはほんとに遠い国やけど、うん、そうやねん、や、まあ、そうやねん p.86
    ・ときにあなた、砂とは美しいものね さくりさくりと沈んでゆきぬ p.90
    ・靴下はさびしいかたち片方がなくなりそうなさびしいかたち p.90
    ・秋の陽に先生のはげやさしくて楽譜にト音記号を入れる p.93
    ・朝あわく発熱をする少女いてまいまいつぶり生まれたと言う p.95
    ・雨が降りさうでねとても降りさうであたしぼんやりしやがんでゐたの p.97
    ・喧嘩喧嘩セックス喧嘩それだけど好きだったんだこのボロい椅子 p.99
    ・自分を愛する夜昼朝わた詰めて縫いとじてゆく少女の裸体 p.101
    ・蝶の産卵するしずけさに出血の止まらぬような空を思った p.104
    ・蛇の骨に小鳥の骨がつつまれたまま少しずつ愛されている p.105
    ・あつくなりましたねえと声かけて咽喉の奥から透けてゆくひと p.107
    ・ビル風に飛ばされそうなマネキンが「どうぞ」と光さしだしている p.107

    ・その靴の持ち主のためカナリアも非カナリアも笑わなかった p.112
    ・立ったままねむれるわたし指先がねじの涙にふれていました p.112
    ・あの川にとびこんでゆく少年の身体の中のしくみになりたい p.113
    ・死にかけの鰺と目があう鯵はいまおぼえただろうわたしの顔を p.114

  • 2018.5.29

    あまりすきではない、生活、リネンの布、季節でいちばんいい時間の陽の光、こどもの肌、水彩絵の具、お母さんの手のひらのにおい、そういうものを連想させる歌だと思う

  • 「ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよね」
    (「青卵」より)

    卓越した言語センスと浮遊感溢れるリズムを持つ作品を得意とする女性歌人、東直子の作品集。

    東直子の存在は親交の厚い穂村弘の作品で知り、まとまった短歌を読みたいと思ったので、この作品集は最適。デビュー作「春原さんのリコーダー」と第二歌集「青卵」を収録。

    こうして一連の作品を読んでいると、短歌という極めて古典的なフォーマットであれ、十分に斬新な世界を作り出すことは可能であることに、強い感動を覚える(この点は穂村弘にも共通して言えることだが)。小説ほど読むのに苦労するわけではないし、適当にページをめくりながら、それぞれの短歌から紡ぎ出される芳醇なイメージを楽しむこともでき、読み手に与える自由度が高いフォーマットかもしれない。

    最後にもう1つ気に入った歌を。

    「裏庭に金管楽器さびてゆく海はひかりを招きつづける」

    光を失っていく朽ち果てそうな金管楽器と、反射光で輝く海との対比になっているが、前者のイメージが後者に対して強く、寄る辺ない寂寥感が表現されている。

  • ひとまず通読。
    ほこほこ、きらきらしていてすきです。とても感覚的で、女性っぽい文体をしているところが心地よかった。

  • 復興書店で購入。

  • (復興書店からパンダの栞とともに。)

  • 東さんの言葉は水のようだ。自然に出てきた言葉。
    現代歌人にありがちな変に言葉をこねくりまわして偏屈な短歌に仕上げない。
    ぽっと口をついた言葉をそのまま歌にしたような真っ直ぐな短歌。

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著者プロフィール

歌人、作家。第7回歌壇賞、第31回坪田譲治文学賞(『いとの森の家』)を受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』、小説に『とりつくしま』『ひとっこひとり』、エッセイ集に『一緒に生きる』『レモン石鹼泡立てる』、歌書に『短歌の時間』『現代短歌版百人一首』、絵本に『わたしのマントはぼうしつき』(絵・町田尚子)などがある。「東京新聞」などの選歌欄担当。近刊にくどうれいんとの共著『水歌通信』がある。鳥好き。

「2023年 『朝、空が見えます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

東直子の作品

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