漱石のデザイン論―建築家を夢見た文豪からのメッセージ

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  • 六耀社
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784897377308

作品紹介・あらすじ

東大本科進学目前の二十三歳の時、漱石は建築家になることを決心していた。しかし、その夢は、あっさりと友人に打ち砕かれてしまうのだが、建築、美術、デザインなど、日本文化への、厳しくも深い愛を、その後も漱石は持ち続けていた。「皮相上滑り」という言葉に代表されるように、文明開化を期に大きく変容した日本文化を危惧し、晩年、学生たちに向かって、お節介とも思われるほど、熱く語り続けた漱石…。『デザイン』という言葉がまだ日本にない時代、漱石の語った内容は、まさに『デザイン』そのものだった。長年、編集者として、デザインの最前線を見続けてきた著者が読み解く、漱石先生の『デザイン論』。

感想・レビュー・書評

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  • 夏目漱石はもともと建築家志望だった! 知らなかった。でも彼は、明治の日本ではセコいものしか作れない、文学のほうが世界とタメを張れるぞと言われて建築家を断念したんだけれど、ひょっとしたら辰野金吾のライバルになっていたかもしれない。

    明治時代の漱石の和洋の狭間での葛藤は本物 和文化に徹することもできたかもしれない

    -引用


    米田という学友の意見
    http://tsuruichi.blog.fc2.com/blog-entry-842.html

  •  19世紀の建物が蒸気船だとするならば、いまの建物は何でしょう。永久に航海することができるだけの、多量のエネルギーを使い続けている新型のものですね。空調設備もそうですし、人工衛星とも更新できる設備もある。コンピューターもたっぷりはいっている。(中略)いまの建物は、世界に向けて人間の脳のように働きかける、そういう能力を収める場所になろうとしています。
    いまは一つの機械をつくるようになったともいえます。しかし、それだけでは人間は死んでしまいますね。文明は死んでしまい、変な汚らしい建物ばかりできて、その街を毎日毎日見なくてはならなくなる。気の弱い人はだんだん寿命がなくなってしまいますね(司馬遼太郎「建築について」)(p.43)

    西欧と肩を並べる先進国といわれるその根底には、百年前に自国の文化をなりふりかまわず投げ捨てたという「遺伝子の変異」が記憶され続けていることを、僕たちはもう少し意識化すべきではないかと思うのです。そして、「内発的」という漱石の言葉を、今こそ真剣に考え抜くべきではないでしょうか。それが、この国のデザインを新たな地平へと導く大きな鍵になるに違いないと僕は確信しています。(p.72)

    文学、美術、音楽、演劇などは、なくてもすむものですが、ありたいものなのです。(ン爪漱石「無題」)(p.77)

    ここで漱石が本当に言いたかったことは、デザイナーの人格なんて感じることすらできない、ましてやこんなモノは要らないと言いたくなるようなモノで溢れた社会で、これから皆さんはいかにして人々にクリエイターの才能や人格を感じさせるようなデザインをしていくことができるのか、それを真剣に考えていって欲しい、ということだったのだと僕は思います。(p.84)

    講演であれ授業であれ、人の話を聴くには、その目的に応じた集中力が必要ですね。話し手の持っている問題意識を注意深く聞き取って、それが自分自身の抱えている課題や問題意識とどう関係しているのか、あるいは自分の考え方に対してどんな新しい問題を喚起してくれているのか、そしてそれに対する自分の反論はどうなのか、といった相方向的なやりとりが大切です。そして、そのポイントをしっかり記憶しておくことが、後々「感化の痕跡」として役立つように思います。つまり人の話を聴くのは知的財産の収集で、じつはこれは編集者の基礎的な業務であり、また醍醐味でもあります。おそらく皆さんも、無意識のうちに編集者的な意識で、情報の収集・分析・加工の作業をされているにちがいないと思いますが。(pp.108-9)

    我々は開化の潮流に押し流されて日に日に不具になりつつあるということだけは確かでしょう。それをほかの言葉でいうと自分一人ではとても生きていられない人間になりつつあるのである。自分のs年門にしていることにかけては、不具的に非常に深いかも知れぬが、その代り一般的の事物については、大変に知識が欠乏した妙な変人ばかりできつつあるという意味です。(夏目漱石「道楽と職業」)(p.172)

    創造力を有するデザイナーと言えども、やはり美術家ではないことを本質とすべきである。根源的な意味でのデザイナーの創造力とは、個性を発揮する能力ではなく、ものの機能への理解力と、よきデザインとは何かということに関する洞察力と、過去の美しきデザインに対しての鋭敏な感受力のことであり、よきデザイナーとはそれらの能力をそなえた高度な技術者のことだ。これは工業、商業、工芸、芸能、建築、グラフィック、その他のあらゆるデザイナーに共通する性格であって、新民衆工芸文化に大きな貢献を期待し得る技術者が必要である。(水尾比呂志『美の終焉』)(p.176)

    原題の青年に理想なし。過去に理想なく、現在に理想なし。家庭にあつては父母を理想とする能わず。学校にあつては教師を理想とする能わず。社会にあつては紳士を理想とする能わず。事実上彼らは理想なきなり。父母を軽蔑し、教師を軽蔑し、先輩を軽蔑し、紳士を軽蔑す。これらを軽蔑し得るは立派なことなり。但し軽蔑し得る者には自己に自己の理想なかるべからず。自己に何らの理想なくしてこれらを軽蔑するは、堕落なり。現代の青年は滔々として日に堕落しつつあるなり。(夏目漱石「断片「漱石文明論集」所収」)(p.231)

  • 漱石の仕事に対する考え方と、自分の仕事に対する考え方がリンクするところがあった。時間が経ってからもう一度読みたい一冊。

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