時計坂の家

著者 :
  • リブリオ出版
4.21
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本棚登録 : 556
感想 : 77
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784897843193

感想・レビュー・書評

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  • そうだ、私はこのお話の舞台である「函館」に憧れて、北海道巡りを始めたのだった。
    ブルートレインで5回、その後は飛行機で5回も訪れた北の街。
    作品の中では「汀館(みぎわだて)」という名で登場する街だ。
    市電、坂、海、時計塔、修道院、アイスクリーム、洋館・・・そんなキーワードを自分の目で確認して、あとは新鮮なイカ刺しでお腹を満たしたものだった。
    「汀館」を「自分の住むところより小さくて田舎」と感じる小6のフー子は、夏休みを利用してたぶん札幌からやってきたのだろう。
    作者の高桜方子(たかどのほうこ)さんも、函館出身の方。
    思春期独特の神秘なものへの憧れと劣等感や嫉妬・危うさを丁寧に描いている。
    バーネットの『秘密の花園』や梨木香歩さんの『裏庭』にも似た、異世界への憧れと旅立ちは妖しく幻想的。
    そして現実への帰還のために配された親戚の少年・映介や祖父たちの脇役も的確で、339ページをあっという間に読み終えてしまう。
    古びた屋敷、頑固で威厳のある祖父、どことなく不思議なお手伝いさん、ロシア製の懐中時計、開かずの扉、早世した祖母、美しく奔放ないとこ、亡命中だったという魔術師。。。。お膳立ては完璧。
    少女のひと夏のファンタジーというにはもったいないほどの内容の濃さだ。

    思い切り昭和チックなモノクロの挿絵は、書き込みすぎて暗くさえ見える。。
    ところが読み進むにつれ、フー子の心模様にはこの挿絵以外はありえないと言う気持ちになってくる。
    不安と焦燥と羨望と、ここではない世界への強い憧れ。
    まだ携帯電話なんてものもなかった頃の話である。
    固定電話で、思う相手を呼び出せずにためらう場面など、じれったくも面映い。
    とりわけ、同い年のいとこ・マリカへの心惹かれる思いが繰り返し語られ、自分のことのように思い起こす人も多いことだろう。
    作品の終盤で映介が気づく場面がある。
    【惹きつけるものの方ではなく、どうしようもなく惹きつけられてしまう心の方・・・。
    そうだ、それが問題だったのだ、常に。】
    その年齢でしか抱きえないかのようなこの思いがお話の軸になっていて、振り回されてしまう危うさゆえに、フー子から目が離せない。

    初めて読んだときは「時計草」も「ジャスミン」も知らず、異国の物語を読むようにどきどきして読んだ。
    美しい庭を、この目で見たいとさえ思った。
    そして再読した今回は、結婚してもなお心の惹きつけられるままに生きた祖母と、それを救えなかった祖父への哀切がこみ上げる。

    ブクログのお仲間さんにおすすめした手前、忘れていたら恥なので読み返してみた。
    そして、思ったとおり「恥」だった(笑)。再読なのに細かな部分をだいぶ忘れていたのだ。
    でも、年齢によって受け止め方に違いがあり、この収穫は大きかった。
    かつては、異世界への憧れを共にして読んだのに、今は現実に戻ることの重要性を強く意識して読んだ。
    異世界への憧れは、異端への憧れにも似る。
    いわば諸刃の刃なのだと、私もどこかで学んだのだろうか。
    夢見がちな、かつては少女だったすべての方におすすめ。

    • HNGSKさん
      初めまして。あやこと申します。
      いいねをありがとうございました。
      児童書を購入したいなあと思っていたのですが、なかなかよくわからない中で...
      初めまして。あやこと申します。
      いいねをありがとうございました。
      児童書を購入したいなあと思っていたのですが、なかなかよくわからない中でもがいていましたので,nejidonさんの本棚を参考にさせてほしいです。
      フォローさせてください。
      2013/11/20
    • nejidonさん
      あやこさん、はじめまして♪
      コメントとお気に入りをくださって、ありがとうございます!
      児童書をお探しでしたか。
      「 高楼方子(たかど...
      あやこさん、はじめまして♪
      コメントとお気に入りをくださって、ありがとうございます!
      児童書をお探しでしたか。
      「 高楼方子(たかどのほうこ)さん」でしたら、はずれはないと思いますよ。
      あやこさんのお好みは分かりませんが、気に入って下さったら嬉しいです 。
      こちらこそ、楽しそうなそちらの本棚に、おおいにわくわくさせていただいてます。
      ワタクシからもフォローさせてくださいね。
      また面白い本に会われましたら、どうぞご紹介ください。
      2013/11/21
  • 今まで読んでいなかったことを激しく後悔。
    なんとすてきな物語なのか…!!

    小学6年生の夏休み、フー子は1人で汀館の祖父の家を訪れます。
    汀館は洋館や時計台の立つ町。
    日常から離れた雰囲気を持つこの町で、フー子の身に起きたのは、不思議で魅力的で、だけれども危険な気配も漂う冒険でした。

    錆びた懐中時計が時を刻み、白い花に姿を変える。
    閉ざされた扉の向こう側に立ち現れる迷路のような庭。
    祖父の秘密を抱えたような表情と、若くして亡くなったという祖母の影。
    次々に起こる不思議なことと過去の謎めいた出来事が絡まりあって、謎が深まっていきます。
    さらに、どうしようもなく惹かれてしまうものの魅力に抗えない登場人物たちの危うさにひやひや。
    休憩するのももどかしく、夢中になって読んでいました。

    高楼方子作品、今まで読んだことがなかったので、他のものも読んでみたいです。

    • nejidonさん
      すずめさん、こんばんは♪
      大好きな作品のレビューが読めて嬉しいです!
      すずめさんの感動がストレートに伝わってきました。
      出来れば小6の...
      すずめさん、こんばんは♪
      大好きな作品のレビューが読めて嬉しいです!
      すずめさんの感動がストレートに伝わってきました。
      出来れば小6の夏休みに出会いたかったと、どれほど思ったことか。
      ええ、もちろん全く間に合いませんが(笑)
      その頃の自分のものの見方・感じ方というものを思い出して、フー子と一緒になって危うい気持ちになって読みましたよ。
      挿絵も、物語にふさわしい不思議な感じをよく出していますよね。
      ちょっとクラシックでしたが。
      高楼さんは【十一月の扉】も面白いですよ。
      ぜひともおすすめです。
      2014/06/22
    • すずめさん
      nejidonさん、コメントありがとうございます!
      nejidonさんのレビューも拝見したのですが、年齢によって感じ方が変わる作品だろうな...
      nejidonさん、コメントありがとうございます!
      nejidonさんのレビューも拝見したのですが、年齢によって感じ方が変わる作品だろうなぁと思いました。
      私も小学生時代に一度読んでおきたかったです(>_<)
      挿絵もぴったりでしたね!読み終える頃には、この挿絵以外はありえないと思うくらい。

      全体的にクラシックな感じ、私はとても好きでしたよ!
      もし主人公が現代の子だったら、きっとケータイとかスマホとか持っていて、インターネットでひょいひょい調べちゃうのでは…?それじゃ味気ないなぁ…なんて思いながら読んでいました。

      おすすめ高楼作品を教えていただき、ありがとうございます(*^^*)
      『十一月の扉』、今度読んでみます!
      2014/06/24
  • 必要があって読んだ。
    児童向けとはいえ綺麗ごとだけが書かれているわけではない。けっして戻ってこない時間の残酷さをちゃんと直視して書いている。

    もはやあどけない子どもでもない、かといって大人の世界からもほど遠い、12、3歳の少年少女たちが、「亡くなった祖母」の秘密をさぐる物語。

    マリカという従姉妹からある日フー子のもとに手紙が届く。祖父(や従兄弟の映介)の暮らす汀舘に行くからフー子も来ないかという誘いの手紙。

    フー子の母は長い間なぜか汀館には帰省しておらず渋ったが、彼女は行くことに決めた。そして、祖父の時計坂の家に滞在することになる。

    そこには祖父と、お手伝いのリサさんが暮らしている。祖母は若い頃に亡くなっている。その家には開かずの扉があり、祖母はそこから転落死した、ということにされている。
    が、フー子はその扉のむこうに庭を幻視する。そこには祖父の家に飾られているマトリョーシカそっくりの小人が見え隠れし……扉には謎の錆びついた懐中時計がかかっていた。

    祖父の家の前には時計塔があり、マリカの従兄弟の映介に連れられて入ったその建物で、かつて汀舘に暮らしたロシア人時計師チェルヌイシェフと祖母に何か関係があるということがほのめかされるにつれ、しだいにさまざまな謎が浮かび上がってくる。おもにフー子と映介が、協力しあってその謎を解こうとするのだった。

    本作を読んでいて、「子どもにとって見えている大人の世界」を思い出した。いま思い返せば些細なことでも、子どもにとってはいちいち謎めいて見える。子どもはまだ大人よりもはるかに論理的だから、その謎について真剣に思い悩む。
    その心理がうまく描かれていて、胸がぎゅっとなった。

    例えばひとつの解釈として、祖母とチェルヌイシェフとの駆け落ちの話とも読めるのだが、フー子は祖母の不在をどうにか物語に落とし込もうとして格闘し、結論をひねりだそうとする。そのひたむきさが胸をうつ。

    そしてそこに明らかな過去の事実というものは存在しないのだという気づきを得るとともにフー子は危機を乗り越え、成長を遂げる。本書は時間論としても読める。

  • 函館への憧れが募ります。

  • こ、これは…!ここ数年の読書の中でもダントツの、面白さというか、衝撃というか、しっくりくる言葉が見つからないほどの、良さ。
    最初の1ページ目から好みの設定ではあったけど、まったく予測できない展開。
    日本にもこんなファンタジーがあったんだなあ。
    本って小さくて、開かなければ何が書かれているかわからないただの紙のかたまりなのに、
    繰っていくと別世界がしまい込まれている、不思議なものだって常々思っていたはずなのに、
    つくづくとそれを感じさせる物語でした。
    この本こそが、作中の庭みたい。
    ちょっと怖いところが、またいい。いや、実は結構怖い。いろんな意味で。
    子供向けらしいけど、わたしはこれ、大人になってから読めてよかったです。
    出会えて本当によかった!

  • 「12歳の夏休みがはじまる1週間前のこと、フー子は憧れの従姉妹マリカから1通の手紙を受け取った。夏休み、祖父の住む街に遊びにこないかという誘いだった。 初めてのひとり旅、そしてマリカと過ごす夏休みへのときめくような思いを抱えたフー子を待ち受けていたのは、思いもかけないできごとだった。 祖母の死に隠された秘密。踏み入れてはいけない蠱惑の園・・・・・・あらがえない魅惑に惹きつけられながら、フー子はその真相に近づいていく。」

  • 『ナルニア』シリーズの、タンスから別の世界へ。に少し触れていたところ、後半だったけどワクワクが止まらなくなった。

    時計が勝手に開いて花の形になるなんて、なんて素敵なんだろう!
    大好きな『十一月の扉』もそうだけど、両親の元を離れている時に何かが起きて、そのできごとがあまりにも素晴らしい経験で、高楼さんの作品にはいつもうらやましさも残る。

    ミステリー的なところもあり、大人の事情みたいなことにも少し触れて、こうして子どもは成長するのね、と思った。

    本当に、高楼さんの作品は好きすぎる。

  • -12歳のフー子は、疎遠だった従姉妹のマリカから手紙をもらい、母方の実家の汀館(ミギワダテ)で1人夏休みを過ごす事になる。母は実家には寄り付かない。実家は祖父とお手伝いのリサさんの二人暮らしで、二人とも感じは悪くないが気さくさに欠けた。
    祖父の家に着く時、フー子は祖父の家のすぐ側にある時計台から熾天使が現れるのをみる。

    祖父の閉じられたドアに掛けられた懐中時計が鳴り出して、フー子はドアを開けた。外には異世界が広がっていた。フー子はその世界に魅了されていく。マリカのいとこの映介とフー子は、祖母の失踪とその異世界からの秘密を探っていく。

  • やぁ!いい本だ。12歳真夏の大冒険ですよ!いろいろな人が良い本だと言って薦めるわけだ。階段先のパラレルワールドでドキドキしましょう。

  • 魅力に惹きつけられ、自身の欲望を思うがままに追いかけることの陶酔感と危うさが幻想的に描かれる。それを「善しとしない」厳しさと優しさにも、悲しみは影を落とす。何を求め、どの立場をとることが最悪や最善ということはない。
    でも、この世界に君がいること、この世界に君といることの代価となるものはない。

    憧れに耐えるというフー子の選択は、夏の終わりを予感させる。次に来る夏は、きっと、この夏とは違う季節なのだろう。

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著者プロフィール

高楼方子 函館市生まれ。絵本に『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)「つんつくせんせい」シリーズ(フレーベル館)など。幼年童話に『みどりいろのたね』(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、『ねこが見た話』『おーばあちゃんはきらきら』(以上福音館書店)『紳士とオバケ氏』(フレーベル館)『ルゥルゥおはなしして』(岩波書店)「へんてこもり」シリーズ(偕成社)など。高学年向きの作品に『時計坂の家』『十一月の扉』『ココの詩』『緑の模様画』(以上福音館書店)『リリコは眠れない』(あかね書房)『街角には物語が.....』(偕成社)など。翻訳に『小公女』(福音館書店)、エッセイに『記憶の小瓶』(クレヨンハウス)『老嬢物語』(偕成社)がある。『いたずらおばあさん』(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、『キロコちゃんとみどりのくつ』(あかね書房)で児童福祉文化賞、『十一月の扉』『おともださにナリマ小』(フレーベル館)で産経児童出版文化賞、『わたしたちの帽子』(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。札幌市在住。

「2021年 『黄色い夏の日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高楼方子の作品

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