戦略的コールセンターのすすめ

著者 :
  • リックテレコム
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784897979632

作品紹介・あらすじ

本書は、コールセンターをこれから構築する方にも、既に運営に関与されている方にも、マネージャーやスーパーバイザー、そして企画などのサポートスタッフも含めて、センタースタッフすべての方に、素晴らしいコールセンターを構築・運用するための思考力を養っていただくために書かれたものです。コールセンターが、お客様にとっても企業にとっても役に立つ組織となるための戦略指南書として読んでいただくことを期待しています。
 本書にあるコールセンター・マネジメントの4つの資質『PDCA』を一章ごとにとりまとめて解説することで、センター構築の基礎から実際の運営と改善へのチャレンジに至るまで、一連の流れを理解できるはずです。また、ここで取り上げた要素は、規模も業界も歴史も異なるコールセンターに共通して持つべき知識として必要のある内容をとりまとめているため、どの業界の方でも参考にしていただけます。

感想・レビュー・書評

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  • ☆5(付箋20枚/P232→割合8.62%)

    これは、マニアックなので(笑)。

    分析的な部分が多いのですが、私には真っ当な理論です。実例が書かれていないので、畑違いの人にはちょっと参考にならないかも?

    ただ、接客というものは共通する特徴があるので、見方によっては、得る者があると思います(^^

    ***以下抜き書き**

    ・例えば、お客さまのロイヤルティを測定する指標にNPS(Net Promoter Score)があります。「当社の商品・サービスを誰か他の人へも勧めますか?」という究極の質問に対する答えを測定する、業績や成長の先行指標と言われているものです。このNPSを上げるための改善努力には、どのようなものがあるでしょうか?
    応対品質を上げなければならないので、QAとトレーニングの強化が有効かもしれません。しかし、品質強化の先行指標があるのです。著者の経験では、コールセンターのオペレータに対する究極の質問「月曜日の朝、会社に行きたいと思いますか?」の答えが高い数値を示していれば、NPSも比例して上がるという傾向があります。よく言われている、従業員満足(ES)は顧客満足(CS)に大いに影響があるということです。

    ・お客様がコールセンターにコンタクトするには、さまざまな動機がある。
     〇商品を注文したい
     〇キャンセル、解約したい
     〇注文内容を変更、交換したい
     〇届け先を変更したい
     〇商品、サービスの内容を知りたい
     〇修理してほしい
     〇すぐに代替品を用意してもらいたい
     〇人を派遣してほしい
     〇相談できる場所を教えてほしい
     〇店舗のサービスが気に入らない
     〇特別な対応をしてもらいた

    コンタクトの動機、いわゆるコンタクトリーズンを把握することがコールセンター運営に大きな影響を与える。企業の商品やサービスの内容によってコンタクトリーズンに違いがあるが、お客様の電話やメールの内容から本質的な意味を分類すると、千差万別ではなく、著者の経験上、どの業界でもほぼ例外なく20~30のリーズンに整理できる。
    コンタクトリーズンを知ることに意味があるのは、これがコールセンター運営改善の万能選手だからである。コンタクトリーズンを基にして、コンタクトの扱い優先度を設定することが可能となる。また、リーズン自体がオペレータのスキルと容易に結び付けられることに伴って、コール予測から人員計画の一連の予測・計画が連携することになる。また、他の組織との関連においてもVOC展開に不可欠な要素となり、コンタクトリーズンの傾向や原因分析によって社内各事業部のプロセス課題の特定や影響度などを明らかにできる。

    ・コンタクトリーズンは、コールセンター運営において万能選手だと前述したが、1件1件のコンタクトに対する応対品質を向上するには、お客様のセグメントごとにどのようなコンタクトリーズンが記録されているかを分析することが重要だ。セグメントごとにコンタクトリーズンが異なり、期待値も異なることが分かる。また、注文、返品、交換、住所変更、問い合わせ、苦情といったさまざまなコンタクトに対応する際に、オペレータが利用するシステムによって操作手順が異なったり、それぞれに教育が必要となったりすることから「業務種別」によるコンタクト分類をしがちだ。しかし、本質的にはコンタクトリーズンはセグメントごとのお客様の要望に基づく分類体系である必要がある。

    ・特定のコンタクトリーズンに対応できる資質を「スキル」と呼ぶ。最初は単純な手順どおりのコンタクトリーズン対応に始まり、段階的な能力開発と指導によって、複数のリーズン対応をこなせるようにスキルパスを用意する。顧客視点のコンタクトリーズン体系と、業務に必要なスキルの整合性を検証し、再整理することによって、コンタクトリーズンに適合するスキル体系を構築する。この体系に呼応して必要となる教育体系・資格制度などをフレームワークとして規定することが設計の要諦だ。
    前述のように、20~30種類に分類・整理できるコンタクトリーズンに対して、実際にはその3~5分の1程度のスキル分類で十分だと考えられる。あまり多すぎるスキル設定は、コールセンターを小規模グループに細分化してしまうことになり、要員計画の作りにくさと少人数でのパフォーマンス目標維持を困難にさせ、日々の運営にストレスとなる可能性が高い。

    ・オペレータのスキルと知識が平準化してくると、同じコンタクトリーズンであれば処理時間は見事に近似になることが一般的に観測される。このことから、リーズンの体系化とコンタクト数量が明らかであれば、その対応に要するオペレータの必要応対時間を計算できる。これを「ワークロード」というが、センター全体のリソース計画を策定するうえで必須の数字となる。
    コールセンターの物理的な規模を示すモノサシは「時間」である。業種業界の異なるセンターでも使える単位は唯一「時間」をおいて他にない。
    例えば、月間10万件を処理するセンターだ、座席数200席のセンターだ、という数字はセンター間の共通尺度として使うには不適切だ。なぜなら、処理内容の難易度によって処理時間が異なり、同じ処理件数でも1件あたり処理時間が2分のセンターと6分のセンターでは、単純に考えても3倍の業務量の違いがある。座席数も同様に、オペレータの雇用形態と勤務時間、センターの稼働時間が各々で異なるため、同じ席数でも雇用人数に大きな差がつく。
    例えば、月間10万コールに対応し平均処理時間6分のセンターのワークロードは、10万件×6分/60分=1時間、すなわち顧客応対のために稼働するオペレータの総時間は月間1万時間となる。

    ・コールセンターの運営能力を左右する7人のスペシャリスト。
    ①トレーニング・マネージャー
    集合教育やeラーニングなど、どれが運営組織に最適な提供方法かを考え、教育内容コンテンツの設計・制作の全体管理を行う専任要員。教育体系のフレームワーク設計や、計画的な提供の仕組みの構築、教育効果の測定による機動的な内容変更などの日常業務は、一過性の業務ではなく片手間の仕事でもない。顧客応対の品質を重視するセンターであればあるほど、複数のトレーニング・スペシャリストの育成と運用が不可欠だ。トレーニングの体系を構築することが重要な役目となるトレーニング・マネージャーなので、実際のトレーニングはSVに委ねることも可能だ。常に学べる環境を作り、自発的に能力開発に勤しむ文化を作りあげる。
    ②IT/テレフォニーマネージャー
    お客様に周知されるコールセンターの電話番号の取得とネットワーク敷設、電話交換機やIVRの設定・変更・運用保守などの電話系システムのスペシャリスト。CRMシステム基盤とCTI連携の設計・運用、情報系ナレッジシステムやVOCメカニズムの設計・構築、顧客DBに代表されるデータベースを上手く使いこなすノウハウも必要となる。お客様へのセルフサービス環境の提供などは、コールセンター側からの提案が必要となるため、そこにも専門性が求められる。
    ③コミュニケーションエディター
    お客様とのコミュニケーションが目的のコールセンターにおいて、企業らしさを表現する対話の進め方や、メールに書く文章表現には細心の注意を払う必要がある。例えば、企業広報のプレスリリースに使われている文章は、オペレータがお客様と会話する際には口語表現に翻訳されていなければならず、さまざまな解釈をするお客様に合わせた、多様な言い回しを網羅したスクリプトやテンプレートが用意されてしかるべきである。そこで、お客様とのやりとりで使用される言葉や文章表現に常に気を配り、編集作業を行うスペシャリストとしてコミュニケーションエディター、いわゆる会話の翻訳・編集人の存在が欠かせない。
    ④ナレッジマネジャー
    コールセンターは基本的に、企業活動すべてに関してのお客様からの問合せを受ける場所であり、企業プロセスのすべてについての知識が集約されていなければならない。商品、サービス、マーケティング、研究開発、警吏、物流、修理、広報、法務など、企業内組織のナレッジと最新情報が揃っていなけれ、正しい情報をお客様に伝えることができない。それら全方位のナレッジの収集・構築と最新情報への更新作業を行う責任者がナレッジマネージャーだ。オペレータが参照しやすいように情報系システムのコンテンツ管理を行うと同時に、情報が必要なときにリアルタイムに提供できるようオペレーター。アシスタンスの機能を提供する。ITマネージャーとの連携でシステム構築を行い、コミュニケーションエディターによる知識や手順を網羅したコンテンツの翻訳を全員が共有できるナレッジデータベースとして提供・監修するポジションだ。本来オペレータの仕事はナレッジワーカーであり、彼らが習得すべきナレッジのオリジナルを提供する役割を負う。
    ⑤QA(クオリティ・アシュアランス)マネジャー
    QAマネージャーは、モニタリングとコーチング業務自体の目的を決め、実効性のある計画にするためのフレームワークの構築や管理基準の設計、現場とマネジメントをまたぐ品質管理のワークフローの構築、評価のカリブレーションなどを担う。
    ⑥メトリクスアナリスト
    指標管理は、レポートするだけではなく、計画未達成の場合に根本原因を究明して解決のアクションを取ることが重要だ。交換機のログ、メール対応のログ、webアクセスログ、QA評価、勤怠実績、顧客の購買履歴、その他点在するデータソースから生データを抽出し、それを加工し、それらのデータから見るべき指標と傾向をレポートする。
    ⑦ワークフォースプランナー
    コールセンターへのコンタクト量を予測することはセンター運営管理の最初の一歩だが、予測に従ってインターバル(単位時間、例えば30分)ごとのスキルグループ人数の配置計画を作る作業にはテクニックが必要だ。オペレータのシフトには多くのパターンがあり、コンタクトのきっかけとなるテレビCMの放映計画やメディア露出計画は、1ヶ月前に確定するものばかりではない。半期先や1年先の人員計画は、事業計画に基づいた人件費予算計画として立案するが、1ヶ月以内や翌週といった直近の要員配置は、運営目標であるサービスレベルやレスポンスタイムを達成するための精緻な修正計画となっている必要がある。

    ・インフルエンザで欠勤者が多い、繁忙期に差し掛かって研修時間が取れない、システムが動かないなど、コールセンターの現場は日々新たな課題への挑戦の連続だ。まるで“もぐらたたきゲーム”のように、次々と課題が勃発する。設計段階から分かっていたボトルネックが発覚することもあれば、周囲環境の突然の変化によって問題が降りかかることもある。刺激に満ちた運営現場では、次々に起こるトラブルや例外舎利に対応しているだけで仕事をした気持ちになるものだ。しかし、コールセンターのマネジメントは、リアルタイムの問題に対処する瞬発力だけを養えばよいものではない。ポジショニングや運用設計で養った思考力は、運用においても発揮する必要がある重要な能力だ。運営には定石が数多く存在する。

    ・コールセンターの役割は明らかで、センター構成要因は全員が同じ目標に向かって進んでおり、目標達成のためにやるべき義務を負っている。
    オペレータがやるべきことは次の二つだけだ。
    〇時間どおりに仕事をすること(スケジュール順守)
    〇すべての応対に期待通りの品質を提供すること(品質保証)

    これ以外のことは、オペレータが自分でコントロールできないため、義務を負わせない。例えば、生産性の目標として、1時間あたり6件の電話に対応すべしと目標設定できそうなものだが、残念ながら単位時間に処理できる件数はコンタクト量そのものに依存しており、オペレータが努力してコントロールできないため使ってはならない。
    オペレータは、複雑な内容のコールと単純なコールをより分けて応対することはできないし、難しいお客様と優しいお客様を選ぶこともできない。着信したコールに誠心誠意に対応するしかない。どういうコールを誰につなぐかを決めるのはマネジメントであってオペレータではない。つながったコールの応対で、オペレータはお客様に満足いただく品質を提供することに集中するのだ。
    スケジュールを順守できていることを示すには、予定出勤時間前のログインが重要であり、離席時の離席理由の入力が不可欠であり、後処理でのミスのない記録が要求される。
    品質を保証するということは、すなわち一期一会のコンタクトに対して、お客様の期待に応える対応をするということだ。対応後の後処理時間ではコンタクトコードの入力と併せて自分自身の主観で、お客様に十分満足いただけたに違いないという「手応え」を記録する。これらを迅速にミスなく行うことで、期待通りの仕事をしていることが証明できる。業務としてやらねばならないことを正確に行い、期待に応える。
    マネジメントはオペレータに対して、いかにこの二つの義務を果たすことがコールセンターの、ひいては企業やお客様のためになるかを常々語り続けなければならない。

    ・コールセンターで働くオペレータが、全員何でもこなすスーパーオペレータなら、SVは不要だ。全員が深い知識とスキルを会得して、リーダーシップを持ってあらゆるコンタクトに対応できる場合には、オペレーション上の管理者は要らない。しかし、現実はそうではない。知識とスキルの習得に終わりはなく、周囲環境は常に変化するので新たな配慮が求められ、適切に指導するマネジメントが必要となる。
    SVの職務として、品質を保証するモニタリングとコーチングに加えて、体調管理とモチベーション維持のためのオペレータとのコミュニケーションは欠かせない。本質的なSVの仕事は、オペレータの品質指導と自律性の確立の支援だ。その前提に立つと、1人のSVが何人のオペレータを管理するかの比率は、オペレータの能力向上に伴って経年変化するはずだ。
    SVはマネジメント職であって、上級オペレータではない。プレイングマネージャーではないのだ。従って、応対のエスカレーションを受けるためにいる必要はない。それならむしろ、専門のエスカレーションチームを置くほうが効率的だ。

    ・とりえあえず一度はお客様の申し出を聞き届けて、後日調査のうえで回答申し上げるといった時間のかかる対応では、お客様のアフターサービスに対する期待値を超えることはできない。相当数の同じ問題の表出を受けてから、初めて報告を上げるようなVOC活動のメカニズムは、後手後手の対応しか望めない。
    コールセンターとしては、オペレータへの権限移譲を積極的に進めて、その時その時での最善の対応を行うと同時に、できるだけ早く予兆を摘み取ることができるメカニズムを構築して運営を行うべきだ。こういう種類の問合せは初めてだ、というコンタクトは何かの予兆と考えて、根本原因の追究を行えるようにオペレータの感度を磨いておく。それを支えるチームワークと、毎日のコミュニケーションが重要だ。

    ・例えば、つながり易さの指標として「応答率」が使えるかどうかを見てみよう。
    指標として正確か「YES」、分かり易いか「YES」、使い易いか「YES」、一貫性があるか「NO」。何故か?
    応答率は即時応答したコールも、1分待って応答したコールも同じ1コールであり、顧客視点のつながり易さを表現していない。従って、一貫性はない。また応答率を1%上げるためには何をすればよいかの方程式は存在せず、数値としての統計価値はない。つまり「応答率」は状況把握の参考値として使うのみであり、KPIにはなり得ない。

    ・「つながり易さ」を示す指標としては、電話に代表される即時性が要求されるコンタクトには「サービスレベル」があり、メールやFAXに代表される時間差をもって応対するコンタクトには「レスポンスタイム」がある。電話のつながり易さ、メールの回答時間に課題があるセンターでは、この2大指標がKPIとして使える。オペレータにとってサービスレベルは縁遠い指標と思われるかもしれないが、この達成は、個々のオペレータが遅刻や欠勤すると、それだけで何%もサービスレベルが低下することを理解させ、その重要性を浸透させるセンター・マネジメントが必要になる。
    「品質」に対しては、個々の通話あるいはコンタクトの「モニタリング評価スコア」が重要だ。この主観指標に加えて、客観指標であるお客様満足度を併せて評価する。また、「一次解決率」も応対品質に及ぼす影響が大きい。ただし、いずれの指標も汎用的な定義が存在しないので、他社とのベンチマークはできない。

    ・「コールセンターに電話してよかった」「オペレータさんと話せて解決できた」「いつでもこういうオペレータさんに助けてもらえるのだったら安心だ」―このようにお客様の期待に応えたいものだ。だが、モニタリング評価では完璧だと品質管理者が評価したとしても、お客様の印象が悪ければ、やはりセンター品質は悪いと判断しなくてはならない。品質はお客様が決めるのだ。モニタリング評価とお客様評価の乖離がある場合は、モニタリング評価の軸をお客様視点に変えて、評価項目や基準を見直さないといけない。

    ・CC1.0(レベル1)
    コールセンターの開設当初は、スーパーオペレータは存在せず、スペシャリストの育成も途上のはずだ。また、過去のコンタクト実績が蓄積されていないため、それを基にした正確な将来予測もあり得ない。そのような状況では、「CC1.0」の初期段階、すなわち「インバウンドコールに対応する」ことに主眼をおいたセンター運用を実践することになる。コンタクトチャンネルは電話だけといったシングルチャンネルで、入電パターンを把握することに注力する。オペレータの育成は、全員がマニュアルどおりの均質な対応を志向している時代だ。
    CC2.0(レベル2)
    コールセンター開設から半年、1年と運営すると、例えば契約者セグメント別の入電パターンが把握でき、コンタクトリーズンの分類も可能になってくる。過去実績を前提とする定量予測と、企業の事業計画に則った定性予測を加味したコンタクトリーズン別にコンタクト予測を行って、要員計画の精度を上げていくこともできるようになる。
    CC3.0(レベル3)
    CC1.0で品質に拠り所を置くセンターの文化が醸成され、CC2.0でつながり易さを保証することができれば、次の「CC3.0」段階ではオムニチャネルの実現を目指す。お客様の行動サイクルを念頭に置いて、個々のお客様に目を向けた個客対応(パーソナライズ)を追求する。分析を戦略的に行い、対応結果の追跡によるロイヤルティ強化の施策を展開する。
    CC4.0(レベル4)
    テクノロジーの支援によって、従来は有人で行ってきた手続き系コンタクトや、質問回答などを自動化する段階に入る。お客様のリテラシーが高くなり、PC、スマートフォン、タブレット端末などを利用してもいつでも・どこからでもコールセンターにアクセスしてくる時代になると、わざわざオペレータと話さなくても構わないという心理が一般的となることから、セルフサービスが大いに進展する。とはいえ、センターのオペレータは不要になるわけではない。単純な仕事が減る一方で、1件1件の対応はますます複雑化・高度化することになり、オペレータのナレッジワーカー化が進む。自動化で対応できないコンタクトはいよいよ難しくなり、より優秀なオペレータを必要とすることになる。ソーシャル対応も進み、お客様の行動を先読みすることで、コンタクトがある前にコールセンターからお客様に連絡するといったことが日常的な運用になる段階だ。

    ・企業活動の結果として誘発されるお客様からのコンタクト、それを受けるための組織であるコールセンターが作られたわけだが、ベスト・サービスはノー・サービスのコンセプトに従えば、実は逆に顧客から学んで企業のプロセスと品質を良くして、ベスト・サービスな状態を生み出すこともできる。これを実行することがコールセンターの価値なのだ。

    ・コンタクトリーズン分類の中には、すぐに対応する必要のないコンタクトや、企業のプロセスが素晴らしければコンタクトが発生しないものも多く存在する。例えば、通販受注センターで、配送日が注文後2~3週間となっている商品を注文した顧客が「いつ納品されるのか?」と問い合わせてくるような場合だ。幅のある配送予定日なので、不在がちなお客様が日にちを確認したいと思って連絡してくることは容易に想定できる。そこで、注文後1週間以内に納品日が確定していれば、その時点でメール案内すれば、お客様からの問合せの電話は不要となる。

    ・「先読みした対応」には二つの意味がある。
    一つは、インバウンドのお客様への適切な情報提供だ。お客様の行動サイクルを頭に思い描くことができるオペレータは、現在受けているコンタクトの近い未来に、このお客様がどのような行動をするか予見することができる。お客様からの問い合わせにきちんと回答したうえで、その先に何が待ち構えていて、どのように対処する必要があるのかを“転ばぬ先の杖”としてお客様に情報提供することが可能だ。
    もう一つは、お客様が知り得ない状況でのコールセンター側からのアウトバウンドの情報提供だ。企業のプロセスに何か問題が発生することは決してゼロではない。例えば、不具合のある商品を販売してしまった場合、それが企業の中で明らかになると同時に一斉にお客様に向けて修理・回収の連絡をする。ニュース報道の後で、お客様からの大量のインバウンドコンタクトに対応しきれず悲鳴を上げるのではなく、お客様からの申告を待たずに対象の商品購入者全員に事前にコンタクトする。

    ・いつ商品が届くのかというリーズンに分類されたコンタクトの根本原因は、特定の週では一部地域の降雪に起因するかもしれず、恒常的な問題なら特定の商品のサプライチェーン上の問題が存在しているかもしれない。根本原因の調査にはお客様の声以外に社内プロセスをよく知っているオペレータに聞くことも効果的だ。これはVOCに対して「オペレータの声(VOA:Voice of Agent)」と言う。

    ・コールセンターでは、お客様との会話中、ちょっと気を抜くと「まじめに聞いているのか?」と怒られることも、「時間がないんだから早くしてくれ!」と急かされて冷汗をかくことも度々経験します。1件1件のお客様との対話には本当に神経を使います。そうでなくても、聞かなければならないこと、言わなければならないことが山ほどあり、常に正確さを求められるオペレータには、余裕がなければなかなかお客様の個別の事情や要請に応えられないのが実情です。
    たまにフリーズしてしまうシステムや、ノイズの多い音声にも悩まされながら、一所懸命にお客様のことを理解しようと努めているのがオペレータの実態なのです。

    ・「当社にはシニアのお客様が多いので、IVRは使わずすべての電話をそのままオペレータに着信させている。その方がホスピタリティが高くお客様は満足だ」「お客様の本人確認は、単純な問い合わせも多いので要件を聞いた後で必用な方にのみ行うようにしている。その方がお客様も話しやすいはずだ」と決めてかかるのは間違いです。
    実際には24時間対応のIVRが、音声認識の精度も素晴らしく年齢に関係なく好まれるソリューションである可能性もあります。本人確認は、ロイヤルなお客様の心理からすれば、一見客と同様に扱われたくないため最初にあったほうが良いということもあり得ます。

  • 経営とコールセンターの運営がリンクしているかを常に確認する。
    KPIを達成するのも当然だが、一番の資産がオペレーターであり、そのオペレーターが気持ちよく働ける組織を作るのがセンター長の役割。
    まずは、コールセンターの定石を身につけて、瞬発力と思考力を駆使してセンター運営を行なっていく。

  • オムニチャネル対応が2010年代の前フェーズである2000年代の潮流として解説されてることが印象的。著者のクライアントは、先進的な企業が多いということでしょうか。

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著者プロフィール

イー・パートナーズ代表取締役。1990年代にはコールセンター向けIT/テレフォニーのシステムインテグレーション、CRMソリューションのマーケティングを担当した後、米国MCI(現Verizon)のコンサルタントと多国籍チームによるコールセンター/CRM専業コンサルタントとして活動。2000年にイー・パートナーズを創業し、amazon.co.jpのコールセンター構築・運営をはじめ、多くのコールセンターのコンサルティングを展開している。米国のセンター運営方法論、ICMIの研修展開や、2004年創設の「コンタクトセンター・アワード」表彰制度(コンピューターテレフォニー誌主催)によるコールセンターの相互研鑽と業界活性化にも注力している。

「2015年 『コールセンターの経営学 戦略拠点への進化を遂げる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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