銀河鉄道の夜

  • リトル・モア
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  • Amazon.co.jp ・本 (111ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898152782

感想・レビュー・書評

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  • 『銀河鉄道の夜』をゆっくり読むならこの本と決めていて、やっと購入。
    美しい!!
    清川さんのアートが本書の世界観にぴったりで、奥行きを増していた。
    既に所持している『幸せな王子』より、こちらの方がもっとずっと綺麗だった。
    本当に素敵。
    作品ページも数が多くて、大人も子供も楽しめる。

    作中、「天気輪の柱」とは賢治の造語とのこと。
    私は太陽柱のようなものを想像した。
    ただ、このシーンは夜。
    月に虹色の暈が(太陽で見られるように)かかって、そこから柱のように光が降りてきているのかしら?
    不思議な光景だ。
    その「天気輪の柱」が、ジョバンニを「銀河ステーション」へと導く。
    体調が思わしくない母を思う気持ち、戻ってこない父親、学校に通いながらこなす仕事、同級生の意地悪…それらの言いようもない悲しみや、
    「ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たい」
    という願いが、ジョバンニをこのような世界に引き込んだのかもしれない。
    あるいは、ジョバンニを気にしていたカンパネルラも。
    双方の思いが、銀河鉄道を引き寄せたのかもしれない。

    北十字(はくちょう座)のシーンのあと、然り気無く挿入されている「鳥を捕る人」のシーン。
    銀河鉄道に乗車してくるということは、この人もまた命を落としているのだろう。
    だが、なんだか唐突だ。
    「茶色の少しぼろぼろの外套を着て、……赤髭の背中の屈んだ人でした。」
    「わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥を捕まえる商売でね」
    ネットで星座図鑑を画像検索した。
    夏の大三角形(はくちょう座・わし座・こと座)を横切るように、小ぎつね座があった。
    星座絵図では、狐が鳥(ガチョウ)を咥えている。
    このことから、鳥を捕る人=小ぎつね座を擬人化したのでは?という説があるようだ。
    こんな文章がある。
    「鳥捕りは二十匹ばかり、袋に入れてしまうと、急に両手をあげて、兵隊が鉄砲玉に当たって、死ぬときのような形をしました。と思ったら、もうそこに鳥捕りの形はなくなって、かえって、「ああせいせいした。どうも体に丁度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。」」
    そして、見るともう銀河鉄道の車両内に戻ってきている。
    そのことから、"鳥を捕る人=小ぎつね座の擬人化"と考えるなら、この場面もしっくりくると思えてきた。
    小ぎつねが川で鳥を捕っている時に、猟銃で打たれて命を落としたように思えたからだ。
    そして「ああせいせいした。どうも体に……」の台詞。
    地球上の生態系を守るのなら、むやみに捕りすぎることなく、体に合う分(食べる分)だけ捕るのが良いと説いているように思える。

    次に現れる車掌のシーン。
    カンパネルラとジョバンニはそれぞれ違う切符を持っている。
    カンパネルラは「小さな鼠色の切符」。
    ジョバンニは「はがきぐらいの大きさの緑色の紙」。
    ジョバンニの持つ緑色の紙は、"三次元からやってきた者が持っている切符"であるらしいこと、
    "不完全な幻想第四次の銀河鉄道では、どこにでも行ける切符"であることが分かる。
    ジョバンニだけはどこまでも行くことができ、また三次元へと戻ることが出来る、との暗示だろうか。

    "鳥を捕る人"が言っていた"幻想第四次"。
    ジョバンニも、これが幻想であることを薄々感づいているように思える。
    と言うよりは、いつかお別れすること、或いは別れが近いことを感じ取っていたのかもしれない。
    急に悲しくなったり、ここからは降りて遊んでいこうと言いたくなったりしている。
    ジョバンニは、川へ落ちてしまったカンパネルラとの最後のひとときを銀河鉄道で過ごすのだ。

    作中に登場する、鶴や孔雀、インディアンも皆、天の川を取り囲むように位置している星座だ。
    蠍が赤く燃えているのは、きっと、蠍座の一等星アンタレスが赤く輝いている星だからだろう。
    銀河ステーションを出発した銀河鉄道は、はくちょう座を通り、わし座(鷲の停車場)を通り、インディアン座や蠍座を抜けてサウザンクロス(南十字星)へと向かっている。
    ちなみに双子座の隣にケンタウルス座があり、そばにはクリスマスツリー星団も実在していた。

    旅の途中、「本当の幸い」「一番の幸い」という言葉が何度も登場する。
    賢治の思う本当の幸いとは何だろうか。。。
    タイタニック号の沈没事故で命を落としたと思われる青年と姉弟が登場するシーン。
    燈台守は言う。
    「何が幸せか分からないです。本当にどんな辛いことでもそれが正しい道を進む中での出来事なら峠の上りも下りもみんな本当の幸福に近付く一足ずつですから。」
    すると青年も答える。
    「ああそうです。ただ一番の幸いに至るために色々の悲しみもみんな思し召しです。」
    "賢治の本当の幸い"とは、たとえ命を落とそうと、誰かのためになるのなら…という自己犠牲の心こそが「本当の幸い」であり、それを貫いたものは救われるのだという意味なのだろうか。
    彼らの裸足だった足には、いつしか白い柔らかな靴が履かされている。
    では、現代を生きる私達にとっての「本当の幸い」とは何だろう。
    自己犠牲であるとは言い切れない。
    けれど世の中が変わっても、各々の立場や年齢によって、普遍に問われ続けることだろう。
    もしかしたら賢治も、読者それぞれがずっと考え続け、ひいては作品自体が普遍的なものへとなってゆくのを望んだのかもしれない。

    「……僕はもうあのさそりのように本当にみんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」

    「けれども本当の幸いは一体何だろう。」

    「僕もうあんな大きな暗の中だって怖くない。きっとみんな本当の幸いを探しに行く。どこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」

    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      kuma0504さん、
      ✩Merry Xmas•*¨*•.¸¸☆

      『ミルクのような銀河』 
      を実感されたんですね…!!

      …それはもう、感...
      kuma0504さん、
      ✩Merry Xmas•*¨*•.¸¸☆

      『ミルクのような銀河』 
      を実感されたんですね…!!

      …それはもう、感動します!!

      30年前にkumaさんが宿泊されたSLホテルの画像検索してみましたよ。ブルートレインの宿舎の周りに金網らしきものが、見えていますからイルミネーションのようにきっと光るのでは…⁉とそう思えたりしましたし…まさに銀河鉄道の夜の世界観があるように想像しました…。
      もう廃業されてしまっていてもう宿泊できない訳で…それだけでもう、めちゃくちゃレアな体験をされてますよ…。
      そこで、思わず、ミルクのような満天の星空。しかも240度ぐらいの大展望で…迫ってくるようだなんて、忘れられないですよね!!
      そんな息をのむような瞬間に、
      であえたのは、何か奇跡的にも感じますね。
      だって、kumaさんが、夜にかなり寒いのに…なぜかふと思いたって外に出てみなければね…。旅行の疲れですぐに眠ってしまっても不思議ではないのですから…ね。

      しかも、みぞれがびちょびちょ降ってくるとkumaさん表現されてますように、まさに「永訣の朝」の、みぞれの空模様でしょうかね…。多いんですね、岩手の冬って。
      だからこそちょうどその日、素晴らしい満天の星空が見れたなんて凄い奇跡だと思わずにはいられませんね、私。

      kumaさん30年前に素晴らしい旅をされたんですね〜
      感動してしまいました…
      ありがとうございます。
      2023/12/25
    • kuma0504さん
      チーニャ、ピーナッツが好きさん、
      こちらこそ、もうすっかり記憶の底にしまっていた旅のことを思い出させてくれてありがとうございます♪

      あの頃...
      チーニャ、ピーナッツが好きさん、
      こちらこそ、もうすっかり記憶の底にしまっていた旅のことを思い出させてくれてありがとうございます♪

      あの頃は、デジタルカメラもないし、旅レポートも書いてなかったので、旅の全貌は未だに曖昧なんです。それに、弟の宮沢清六さんにあったんだよ、と言っても「ふーん」と言って返されるだけだし、あの賢治のお父さんが仏教講演会をよく催し、賢治も泊まっていた大沢温泉に泊まったんだよ、と言っても興味なさそうなので、混浴露天風呂に入ったら若い女性が入ってきてね、とかいうような話でなんとか興味を繋いでいたような覚えしかない。

      SLホテルに着いたのは、確か8時過ぎごろで、私が最後の食事でちょっと迷惑かけたような記憶が‥‥。食堂車は独立していて、確かそこに行くまでには外に出なくちゃいけなかったと思う。その時に夜空を見たのです。

      かえすがえすも、「春と修羅」にあるような、小岩井農場の散策ができなかったことが心残りでした。宿舎のことは他には全然覚えていないけど、朝食の牛乳、バター、ヨーグルト、チーズは、全部人生で1番美味しかった乳製品だったということだけ覚えています。記憶というのは、取り出せばまだまだ取り出せるものがあるんですね。
      2023/12/25
    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      kuma0504さん、
      わかります。そうですよねぇ、30年前ですものねぇ…。今の旅の仕方とはもう、いろいろと、まるで全然違いますよね…(笑)...
      kuma0504さん、
      わかります。そうですよねぇ、30年前ですものねぇ…。今の旅の仕方とはもう、いろいろと、まるで全然違いますよね…(笑)いろいろ忘れてしまって当然ですよね…。私は無理です、覚えていられないです…ハイ!

      傍らに珈琲を。さんの『銀河鉄道の夜』の素晴らしいレビューのコメント欄でコメントしてよかったです☆
      kumaさんからも貴重な旅のお話を伺えました!
      傍らに珈琲を。さんもkumaさんと同じように「春と修羅」がお好きだと、このコメント欄で教えていただきました。
      私は難しそうなのでなかなか挑戦できてないのですが…私もいつか…、いつの日か…と思います!

      ありがとうございました。
      2023/12/25
  • 久しぶりに読んだ名作。あれっこんな悲しい話だったんだと改めて感動、考えさせられる話でした。

  • 美しく繊細なビーズ刺繍の挿絵が、銀河鉄道の夜の世界観によく合っていると思います。
    ひとつひとつポストカードにして飾っておきたいくらい(*^^*)

  • 良かった。文章だけで読むよりも数倍良かった。刺繍だから想像の助けにはなるけど、決定的な画にはならず、でもここぞというところでしっかり衝撃を与えてくれる。素敵でした

  • 痛い。切ない。
    永訣の朝を読んで、宮沢賢治さんを知って、
    もっと痛い。痛いけど……

    人間が人間を考えるってこういうことで、
    大事なこと。たぶん、何より大事なこと。

  • ページをめくるたびに美しい、深い世界が広がる。
    本当に素敵です。(宮﨑あおい)

    ページをめくるたび、新しい意味付けが
    ぼくの中で築かれていく

    振り返ったところで、もとに戻ることが
    永遠にないことに気づく

    未来へ想いを馳せるたび、無意味な抱擁が
    いきることを問う

    そのとおりの一冊。宮沢賢治の世界がまた一つ深まりました。

  • 眼福系

  • 宇宙の星を見ただけで

    そこには草原があって 川があって 町があって
    その一つ一つが駅で 場所で 思い出で
    鳥がいて 光があって 歌があって

    音楽がある

    それはそれは 美しい世界で
    こんな素敵な世界を 言葉にしてくれて
    ありがとうって 思った

    出会いがあって 別れがあって
    次から次へと風景が変わって行って
    まるで星の王子さまみたいだなって 思った

    冒険って 楽しいことだけではなくて
    知ったらもう 知る前には戻れない
    いつだって 戻れないものを引き換えにして
    進んでいる

    繋いだ手と 繋がらない思いに橋をかけよう
    一緒に渡れるように 同じ景色を 見られるように

    生きていることと 死んでいくことと
    生きてしまうことと 死んでしまうことと

    夢を見ることと 星を見ることと
    何が違うだろう どこで 交わるのだろう

    色んな風景を見てきた 夢だったかもしれない
    ここに一緒にいた人は 本当はいなかったから

    こんなに孤独な世界で どう生きればいいだろう
    見上げた空は 突き放すくらいきれいで
    そんな思いを飲み込んでいくようで
    ここが そんな場所だったと思い出した

    https://www.youtube.com/watch?v=bEbs3rlecrQ

  • >ビーズや布、クリスタル、糸で織りなす宇宙。
    『幸せな王子』『人魚姫』につづく、清川あさみ絵本シリーズ待望の第三弾は、宮沢賢治による永遠の名作『銀河鉄道の夜』決定版――。

    『銀河鉄道の夜』は何度か読んでいるものの私にはなかなか難しい。
    秋の夜長・・・ずっと前に一目惚れして購入していた清川あさみさんバージョンをゆっくりゆっくり読みました。
    色々な夜の表情が描かれていてとても素敵!
    うっとりしてしまうほどの美しさ・・・だけど、いつも悲しい気持ちになってしまう物語です。

    「ほんとうのさいわい」って何だろう?
    人それぞれ答えは違うのかもしれません。
    私自身の「ほんとうのさいわい」を探しながらこれからも何度でも読み返すことになりそうです。

  • 涙が出そうになるほどきれい。

著者プロフィール

1896年(明治29年)岩手県生まれの詩人、童話作家。花巻農学校の教師をするかたわら、1924年(大正13年)詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を出版するが、生前は理解されることがなかった。また、生涯を通して熱心な仏教の信者でもあった。他に『オツベルと象』『グスグープドリの伝記』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『セロ弾きのゴーシュ』など、たくさんの童話を書いた。

「2021年 『版画絵本 宮沢賢治 全6巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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