曾根崎心中

  • リトル・モア
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レビュー : 193
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898153260

作品紹介・あらすじ

愛し方も死に方も、自分で決める。いま、男と女はどこへむかうのか、究極の恋のかたち。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代、元禄期の大阪で人々が狂喜した激烈な恋の物語が、角田光代さんの翻案で時代を超えて私たちの前に現れました。お初の目線で描かれた角田さんの言葉はシンプルでストレートなものでした。余計なものは何一つなく、だからこそ胸に真っ直ぐに突き刺さってきます。
    それは、哀しいほどの美しい恋。
    全てを焼き尽くすほどの狂おしい恋。
    遊女が恋することは命がけでした。恋した相手と結ばれることなど、ほとんど夢物語だったのでしょう。その実らなかったたくさんの恋。彼女たちは来世でこそ運命の人と出会うことを信じて、その手段に死を選ぶことさえ無上の喜びだったのかもしれません。
    これが、恋。
    残酷でありながらも儚く美しい恋。
    究極の恋愛物語だと思いました。

  • 「男なんて、惚れるもんやない」と常々言っていた姐さん。間夫に翻弄され、身体を壊して里に帰った姐さん。

    嫌いな男であろうと、床では惚れているように演じ、手練手管で相手をはまらせる遊女。なのに、同じ寂しさを知る徳兵衛に出会ってしまった。本当に愛しい男の前ではただの女になってしまう初。

    江戸時代、元禄期の大坂で実際に起きた、醤油屋の手代・徳兵衛と、堂島新地の遊女・初の心中事件をもとに書かれた人形浄瑠璃の古典演目『曾根崎心中』を角田光代が小説化。
    なんてせつない、なんてかなしい、なんておろかな…

  • 近松の心中芝居など、今の日本で誰が共感をもって読むだろうか。遊女と、金をだましとられた手代が心中に走る気持ちなど、ついた離れたがあたりまえの私たちに理解できようはずがない。ところが、角田光代の手にかかれば、できてしまうのだ。いや、共感も理解も必要ない、ただ、この生が初めてにして最後に放つ輝きを見よ、といわんばかりの迫力でもって、お初の言葉が差し出される。

    その日から、すべてがちがって見えた。太陽も、空も、新地の町も、着物も、川も、橋も、おはじきも、鞠も、雨も、自分の顔も。目に映るものすべて、何ひとつ、よぶんなものがなかった。
    これが恋か。初は思った。これが、恋か。ほほえみながら、泣きながら、高笑いしながら、物思いにふけりながら、不安に顔をゆがめながら、嫉妬に胸を焦がしながら、記憶に指先まで浸りながら、幾度も幾度も、思った。これが、これが、これが、恋。

    この気持ちを自分はたしかに知っていると言える者は少ないだろう。私などその片鱗すら感じたことはない。それでも、そうに違いない、人生を一瞬にして意味あるものにさせる出会いというものがありうるのだろうと納得させるだけの有無をいわせぬ力が、この文章にはある。
    わずか170ページ、ほぼ芝居通りの筋立てで、これほど鮮烈な世界を描いてみせるとは。小説の力を再確認させてくれる経験であった。

  • さすが角田さん。一気読み、面白かった!
    普段なら手に取ろうとは思わない人情ものを読む気にさせる彼女に脱帽。これを機に歌舞伎で一度是非見てみたい。

  • 御存知、近松門左衛門の「曽根崎心中」を角田光代さんがお初目線で語ります。
    よかった!とてもよかったです!



    私、近松の原典は読んだことがないのですが、この人形浄瑠璃は観ています。
    太棹の三味線の深い音と太夫の語りによって連れて行かれたお初・徳兵衛の世界は、ただただ哀しく、美しく・・。。
    人形遣いが繊細&大胆に動かす人形の表情や仕草もまた健気だったり、愛らしかったり。
    どっぷり感情移入してしまったのを覚えています。
    そして、時に、人間にはできない動きをしてくれる人形の所作や舞台使いには、あぁ、これは日本が生みだしたCGなんだなぁ、なんてまで。


    で、現代に書き記された角田さんの物語によって、お初が俄然、自分の意思と奥行きを持つ1人の女、感じられたことに感嘆しております。

    お初の生い立ち、親兄弟に対して思うこと、恋なんてするもんじゃないと言った姐さん方のその後、徳兵衛と突然恋に落ちてしまったとまどいとその止められない気持ち・・・。
    終始、お初の気持ちから語られる廓の日々や恋の狂おしさ・やるせなさは、心中以外に道がなかった2人の定めをある意味、とてもリーズナブルに読者に伝えてくれて、哀しくてたまらないのに、うんうん、これでいいんだよね、と思わされました。

    浄瑠璃の舞台でも、活字でも、徳兵衛の情けなさがなんとかならないか、とはもどかしいものを感じるのですが、角田さんは、お初がそんな徳兵衛を愛してしまったのだ、彼女を頼る徳兵衛の持つ煌めきには抗いようがなかったのだ、と教えてくれます。

    そして、なんか変だけど・・・、これは突っ込んじゃいけないんだろうな、と思っていた、徳兵衛の継母から“取り返した”お金にまつわるあれこれに、なんと、大胆な疑念を提示!!
    うん、そうかも、と感じつつ、それでもお初は徳兵衛を好きなんだ、と、あぁ、これはもう角田さん、名人芸ですよ!!!


    また、あの有名な床下に徳兵衛を隠すところ。
    舞台では、ぐいっと白い足で徳兵衛を押し、彼を宥める&自分の悔しさを示す大事な場面なのだけど、角田さんの描写により、徳兵衛の温かい掌と息遣いが急にそこだけ大きくアップされたような・・。視覚だけではなく、肌に感じる切なさが秀逸!!





    ネタばれ入ります。





    しかも・・・

    浄瑠璃の舞台では、2人とも確かに刃を身体にあてて命果てたのだけど、角田版は、あくまでお初目線だから、先に死んでいく彼女が見えるものだけが描かれて、もしかして、徳兵衛は死に切れないのでは?情けなくても生き残ってしまうのでは?とまで思わせられるのがとても怖いくらいでした。

  • 近松門左衛門の原作は読んでいないし、浄瑠璃も歌舞伎も観ていない。
    かろうじてあらすじを知るのみだった。
    そんな私はぐいぐい引き込まれ、角田光代さん翻案のこの作品にとても感動した。
    一途に思いつめた恋。人ごとのように思っていたが、主人公「初」の気持ちに共感できてしまうのには驚いた。
    作者が思いをめぐらせ、魂を与えるほどの人物に書き切っているからなのだと思う。
    徳兵衛との逢瀬で尽きないほどの会話をし、どんどん近しくなり、とても大切な人になる。うれしくて切なくて恋しい。そんな感情を読む側に呼び起こさせるからすごい。
    「初」が心中を決心するまでの心の動きに不自然さが全くなかった。
    そして、いよいよ行動に移す終盤の揺らぎや思いが心にしみた。
    ラストも文句なしでしょう。

    遊郭の不自由な身と、せめて心だけは縛られないという女たち。
    集まってはぺちゃくちゃしゃべり、その間辛いことを考えずにいられたり、違う人生(自分で決めたり、選んだりする生き方)ができるようなつもりになる。
    そんな描写がとても切なくて心に残った。
    角田光代さんの小説にはよく、自由を前にしての気持ちのわくわくする描写があり個人的にとても好きな部分だ。
    それだけに今回自由のない身である遊女たちが描かれるのが、余計に哀しく切なく感じられた。
    「初」が食べるのに事欠いた貧しい生活から遊郭へ売られたことを振り返っての初の気持ちの引用〜

     やがて客をとるようになって、橋を渡った外の世界で暮らすことを焦がれるようになったが、初はどこかで安心もしていた。いやなことがあればあるだけ、おまんまを食べて布団で眠って立派な着物を着ていても許されるように思うのだった。村の父母もおさないきょうだいも、腹をすかせることもなく、みんなくっついて笑っているだろうと思えるのだった。

    本当にいやなことが沢山たくさんあったのだろうと思わせる。
    なんとかこう思うことで自分を保っていられるということに思い至らせてくれる。

    この作品のあちこちにしみじみと思いをはせるところがあり感慨深かった。
    翻案であるが、心理描写が絞り出された奥深い作品だと思う。

  • 心中話なので、母親が私に読ませたくなかったらしく、
    喧嘩した。
    でも勝手に買って読んだ。

  • 遊廓の女性の悲恋を描いた近松の世話物を、角田光代が小説化。

    自らの逆境をあきらめ受け入れつつも、儚い夢と希望にすがる廓の女性たち。その肝の据わった凛とした美しさに比べ、男たちはなんと浅はかで愚かなことか。男が嘘をついているかもしれないと思いつつも、すべてを受け入れるラストシーンは圧巻だった。
    角田光代の実力はさすが。角田版源氏物語もぜひ読んでみたい。

    余談だが、近松の世話物を原作としたシスカンパニーの舞台を観に行く。本作を手に取ったきっかけも、そのことがひとつ。主演は宮沢りえと堤真一、さらに池田成志と小池栄子というペア、実力派揃いなのでとても楽しみだ。

  • 浄瑠璃作者、近松門左衛門による曽根崎心中の小説化。
    角田光代さんらしく、とても入りやすい読み物に
    なっています。心中恋の大和路という名の宝塚の
    演目を汐風幸(仁左衛門さんの娘)で観て、
    良い作品だと思ったが、宝塚でも人気の
    作品となっています。追っ手に追われて雪山で
    心中するのが宝塚。徳兵衛は生まれの親の家
    まで行くし、ちょっと登場人物が多いのです。
    2人で暮らすことを夢見て、力尽きる展開。

    本作では、遊女・お初と徳兵衛が抜け出して
    2人が向かった曽根崎の森で
    その夜の内に剃刀で心中を決行。逃亡はわずかで
    死を覚悟して、来世で会おうと結末を決めての
    行動。

    浄瑠璃はどんな展開なんだろう・・ととても
    気になりました。敷居の高い浄瑠璃、観るなら
    この作品がいいな。

  • 前述した東野圭吾の小説の中で、曽根崎心中が出てきます。
    それでついつい読みたくなって・・こちらを借りてきました☆

    この本は言わずと知れた近松門左衛門原作人形浄瑠璃の古典演目「曾根崎心中」を、角田さんが小説化されたものです。

    閉ざされた世界に住むあの時代の遊女たち。
    彼女たちを現代の感覚の色恋と同じようにに考えてはいけなくて、夢も希望も外の世界にしかなく自分では選択出来ない人生を生きるとき、光は、「男性」だけなんでしょう。
    そんな切なさがリアルに表現されていました。
    それだけでも絶賛したい気持ちなのに、最後の瞬間にちらりとよぎる彼への疑念・・・

    単純な悲劇で終わらせないあたりも圧巻でした。

    以前読んだ源氏物語といい、角田さんは古典に特化すればいいのに。
    現代小説は全く私の好みじゃないのに、こっちのほうはすごいです。。

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著者プロフィール

角田光代(かくた みつよ)
1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
1990年、「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。受賞歴として、1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞を皮切りに、2005年『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』で第22回伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で第25回柴田錬三郎賞、同年『かなたの子』で第40回泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で第2回河合隼雄物語賞をそれぞれ受賞している。
現在、小説現代長編新人賞、すばる文学賞、山本周五郎賞、川端康成文学賞、松本清張賞の選考委員を務める。
代表作に『キッドナップ・ツアー』、『対岸の彼女』、『八日目の蝉』、『紙の月』がある。メディア化作も数多い。西原理恵子の自宅で生まれた猫、「トト」との日記ブログ、「トトほほ日記」が人気。

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