曾根崎心中

  • リトル・モア
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898153260

感想・レビュー・書評

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  • 御存知、近松門左衛門の「曽根崎心中」を角田光代さんがお初目線で語ります。
    よかった!とてもよかったです!



    私、近松の原典は読んだことがないのですが、この人形浄瑠璃は観ています。
    太棹の三味線の深い音と太夫の語りによって連れて行かれたお初・徳兵衛の世界は、ただただ哀しく、美しく・・。。
    人形遣いが繊細&大胆に動かす人形の表情や仕草もまた健気だったり、愛らしかったり。
    どっぷり感情移入してしまったのを覚えています。
    そして、時に、人間にはできない動きをしてくれる人形の所作や舞台使いには、あぁ、これは日本が生みだしたCGなんだなぁ、なんてまで。


    で、現代に書き記された角田さんの物語によって、お初が俄然、自分の意思と奥行きを持つ1人の女、感じられたことに感嘆しております。

    お初の生い立ち、親兄弟に対して思うこと、恋なんてするもんじゃないと言った姐さん方のその後、徳兵衛と突然恋に落ちてしまったとまどいとその止められない気持ち・・・。
    終始、お初の気持ちから語られる廓の日々や恋の狂おしさ・やるせなさは、心中以外に道がなかった2人の定めをある意味、とてもリーズナブルに読者に伝えてくれて、哀しくてたまらないのに、うんうん、これでいいんだよね、と思わされました。

    浄瑠璃の舞台でも、活字でも、徳兵衛の情けなさがなんとかならないか、とはもどかしいものを感じるのですが、角田さんは、お初がそんな徳兵衛を愛してしまったのだ、彼女を頼る徳兵衛の持つ煌めきには抗いようがなかったのだ、と教えてくれます。

    そして、なんか変だけど・・・、これは突っ込んじゃいけないんだろうな、と思っていた、徳兵衛の継母から“取り返した”お金にまつわるあれこれに、なんと、大胆な疑念を提示!!
    うん、そうかも、と感じつつ、それでもお初は徳兵衛を好きなんだ、と、あぁ、これはもう角田さん、名人芸ですよ!!!


    また、あの有名な床下に徳兵衛を隠すところ。
    舞台では、ぐいっと白い足で徳兵衛を押し、彼を宥める&自分の悔しさを示す大事な場面なのだけど、角田さんの描写により、徳兵衛の温かい掌と息遣いが急にそこだけ大きくアップされたような・・。視覚だけではなく、肌に感じる切なさが秀逸!!





    ネタばれ入ります。





    しかも・・・

    浄瑠璃の舞台では、2人とも確かに刃を身体にあてて命果てたのだけど、角田版は、あくまでお初目線だから、先に死んでいく彼女が見えるものだけが描かれて、もしかして、徳兵衛は死に切れないのでは?情けなくても生き残ってしまうのでは?とまで思わせられるのがとても怖いくらいでした。

  • 近松門左衛門の原作は読んでいないし、浄瑠璃も歌舞伎も観ていない。
    かろうじてあらすじを知るのみだった。
    そんな私はぐいぐい引き込まれ、角田光代さん翻案のこの作品にとても感動した。
    一途に思いつめた恋。人ごとのように思っていたが、主人公「初」の気持ちに共感できてしまうのには驚いた。
    作者が思いをめぐらせ、魂を与えるほどの人物に書き切っているからなのだと思う。
    徳兵衛との逢瀬で尽きないほどの会話をし、どんどん近しくなり、とても大切な人になる。うれしくて切なくて恋しい。そんな感情を読む側に呼び起こさせるからすごい。
    「初」が心中を決心するまでの心の動きに不自然さが全くなかった。
    そして、いよいよ行動に移す終盤の揺らぎや思いが心にしみた。
    ラストも文句なしでしょう。

    遊郭の不自由な身と、せめて心だけは縛られないという女たち。
    集まってはぺちゃくちゃしゃべり、その間辛いことを考えずにいられたり、違う人生(自分で決めたり、選んだりする生き方)ができるようなつもりになる。
    そんな描写がとても切なくて心に残った。
    角田光代さんの小説にはよく、自由を前にしての気持ちのわくわくする描写があり個人的にとても好きな部分だ。
    それだけに今回自由のない身である遊女たちが描かれるのが、余計に哀しく切なく感じられた。
    「初」が食べるのに事欠いた貧しい生活から遊郭へ売られたことを振り返っての初の気持ちの引用〜

     やがて客をとるようになって、橋を渡った外の世界で暮らすことを焦がれるようになったが、初はどこかで安心もしていた。いやなことがあればあるだけ、おまんまを食べて布団で眠って立派な着物を着ていても許されるように思うのだった。村の父母もおさないきょうだいも、腹をすかせることもなく、みんなくっついて笑っているだろうと思えるのだった。

    本当にいやなことが沢山たくさんあったのだろうと思わせる。
    なんとかこう思うことで自分を保っていられるということに思い至らせてくれる。

    この作品のあちこちにしみじみと思いをはせるところがあり感慨深かった。
    翻案であるが、心理描写が絞り出された奥深い作品だと思う。

  • お初目線で進む物語。
    お初の人生を追っていくかのような内容で、苦界で生きる女達の姿と心を強く描いていて引き込まれる。
    なので、心中へ転がっていく展開は、唐突でちょっと違和感を感じるぐらいだ。
    最後の最後に、徳兵衛を疑ってしまう冷静な心がありながら、それはどちらでも同じだと納得してしまうお初の情にぞっとする。心中するとはこういうことなのか。
    恋は美しいが、業が深い。

    原作は戯曲だから、心情は見る者が想像するもののはず。つまりこれは、著者が創造したお初の心なのだろう。
    徳兵衛側からの物語も読んでみたい。

  • 心中話なので、母親が私に読ませたくなかったらしく、
    喧嘩した。
    でも勝手に買って読んだ。

  • 江戸時代に近松門左衛門が描いた物語を角田光代が現代に甦らせた作品。
    まず表紙のインパクトがかなり大きい。凄まじい。

    遊女である初と、その初と恋に落ちる徳兵衛との
    狂わしい恋の物語。
    恋に狂う二人を物哀しく、そしてどこか冷めたような熱量で描いている。
    初の最後の葛藤が何とも言えず切ない。

  • 近松門左衛門作の人形浄瑠璃。
    超絶有名ですが、遊郭での恋愛劇だったなんて今の今までしらなかった!
    角田光代の手にかかるとこんな風にして現代に甦るんですね。

    遊女が恋に落ちてしまったらやっぱり究極の選択は心中しかない。
    それでもいい、それしかない、と思わせるほど身を焦がす恋ってなんて美しいんだろう。
    「運命の人まちがえるゆうことも、あんの」という初の質問にどきっとした。
    そして「まちごうたときはすぐわかる」と答えたお玉姐さんの言葉で、靄がかっていた視界がすうっと晴れたような気がしました。
    ちゃんとわかるんだ。運命の相手って。
    たとえその相手と今世でうまくいかなかったとしても、来世でまた会える。
    くりかえしくりかえし、いつか添い遂げられるまで。
    仮にこの世が一度きりでも、くりかえし生まれたとしても、どっちだってかまわない、おんなじことだと思う初の決意と命がまぶしかった。

    逃げよう、逃げよう、とにかくはやく二人で、と闇夜を疾走する初と徳兵衛のラストシーンは圧巻。
    角田光代は極限まで追い込まれた人間の描写がうますぎる。

  • 浄瑠璃作者、近松門左衛門による曽根崎心中の小説化。
    角田光代さんらしく、とても入りやすい読み物に
    なっています。心中恋の大和路という名の宝塚の
    演目を汐風幸(仁左衛門さんの娘)で観て、
    良い作品だと思ったが、宝塚でも人気の
    作品となっています。追っ手に追われて雪山で
    心中するのが宝塚。徳兵衛は生まれの親の家
    まで行くし、ちょっと登場人物が多いのです。
    2人で暮らすことを夢見て、力尽きる展開。

    本作では、遊女・お初と徳兵衛が抜け出して
    2人が向かった曽根崎の森で
    その夜の内に剃刀で心中を決行。逃亡はわずかで
    死を覚悟して、来世で会おうと結末を決めての
    行動。

    浄瑠璃はどんな展開なんだろう・・ととても
    気になりました。敷居の高い浄瑠璃、観るなら
    この作品がいいな。

  • 前述した東野圭吾の小説の中で、曽根崎心中が出てきます。
    それでついつい読みたくなって・・こちらを借りてきました☆

    この本は言わずと知れた近松門左衛門原作人形浄瑠璃の古典演目「曾根崎心中」を、角田さんが小説化されたものです。

    閉ざされた世界に住むあの時代の遊女たち。
    彼女たちを現代の感覚の色恋と同じようにに考えてはいけなくて、夢も希望も外の世界にしかなく自分では選択出来ない人生を生きるとき、光は、「男性」だけなんでしょう。
    そんな切なさがリアルに表現されていました。
    それだけでも絶賛したい気持ちなのに、最後の瞬間にちらりとよぎる彼への疑念・・・

    単純な悲劇で終わらせないあたりも圧巻でした。

    以前読んだ源氏物語といい、角田さんは古典に特化すればいいのに。
    現代小説は全く私の好みじゃないのに、こっちのほうはすごいです。。

  • ぐいぐい引き込まれてあっという間に読み終わりました。
    昨日までは何気なく通っていた大阪市内。この本を読んでしまったから、もう今までと同じ景色には見えない気がする。濃厚な情念の気配を感じて。

    ほんとうに面白かったです。
    ラジオで勧めてくれた小島慶子さんに大感謝!

  • 「心中」を理解するには当時の社会構造や文化的背景を知らねばならぬ。
    当時売れっ子となった、著者・近松門左衛門が生きた世の中はどんなだったのだろうか。義理・人情、大坂の町人文化。生身の芝居である歌舞伎ではなく人形浄瑠璃が流行った背景を想像しながら、読了。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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