- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784898315576
感想・レビュー・書評
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硫黄島では日米合わせて、40000名ほどの死傷者が出た。圧倒的戦力で上陸したアメリカ側の死傷者数が日本よりも多かった事は驚きだが、日本側も21000名弱の兵士のうち95%にあたる20000名程が死亡または行方不明となる。この戦いを率いたのは栗林忠道中将(戦後大将に昇進)、アメリカ側はミッドウェイ海戦で日本を打ち破ったレイモンド・スプルーアンス海軍大将であった。知っての通り、日本側守備隊は全長18キロにも及ぶ地下坑道を掘り、地下に篭ってアメリカを迎え撃つ戦法を採用した。ただでさえ硫黄が立ち込める火山地帯の島で地下の温度はサウナのごとく、川も湖も無い島では水も雨水に頼らざるを得ないという極限状態。その様な中でも前述した様に多大な損害を与えた栗林の指揮ぶりが戦後も長くアメリカからも尊敬畏怖の念を抱かせる戦いとなった。アメリカ側は1945年2月の上陸時に5日で陥ちると予測していたが、3月末までの1カ月以上戦い抜き、最後の最後まで、アメリカの本土上陸を少しでも遅らせる、太平洋の防波堤に徹した戦いであった。
映画ではクリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」で知る人も多いだろうが、多くの書籍も出ており、特に梯久美子の「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」は栗林中将の子思い、組織を率いるリーダーとしてのあるべき姿、人間性などがよく伺える一冊だ。
そんな硫黄島の戦いに於いて、戦闘開始前に海軍の硫黄島警備隊司令の任にあった和智恒蔵海軍大佐が、戦後に僧となり遺骨収集、戦没者供養などの活動に捧げた人生を本書は追う。戦闘前に更迭された原因は、新たに赴任した陸軍の栗林との防衛戦略の意見の違いからくる対立だそうだが、自らの部下の多くをこの戦いで失った事を、残りの人生をかけて贖罪しようとしたのではないだろうか。
和智氏はGHQに占領され、服従する日本側に於いて、遺骨収集のために島への上陸を訴えて活動を続ける。念願叶いいざ島を訪れてみると、頭蓋骨のない遺骸が多く、戦闘中にアメリカ兵が「お土産」として持ち帰った事を問題視し、その後の人生では、アメリカ兵士達に再三頭蓋骨を返すよう訴えるのである。
戦後も島には地下に立て篭もったままの残留兵士もおり、戦後の硫黄島訪問時に崖から身を投げるなど、戦時中と変わらず、戦後も悲劇が続いた。それ程悲惨な戦いとなった硫黄島の戦いであるが、現在に続く慰霊や遺骨収集での現地訪問(誰でも行けるわけではない)の先魁となったのは、間違いなくこの和智氏等の努力にあったと言える。
売名行為との誹謗中傷や、関連詐欺に巻き込まれるなど、様々な苦難を自らも負いつつ、亡くなる最後まで慰霊に人生を捧げ、部下のいる硫黄島への分骨という形で、島に眠る和智氏。地下から這い出して敵戦車に爆弾ごと飛び込む戦いや、映画に見られる様なアメリカ兵が摺鉢山に星条旗を掲げるなど、派手な場面ばかりが思い浮かぶが、その陰で戦後も長きにわたり戦い続けた1人の男の人生にフォーカスし、また違った視点で硫黄島の戦いを見る機会になった。
特に間も無く戦後80年を目前に控え、当時の戦闘を体験した人々の多くが鬼籍に入る中、体験者やその家族の言葉を聞き、新たな事実に触れることの出来る最後の時間が近づいている。平和しか知らない現代日本人が、その平和の礎を築くために散っていった同じ日本人が、過去に間違いなくいた事を心に刻み、続く平和を未来に繋げるためにも、読んでおきたい一冊だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
硫黄島玉砕の少し前、本土帰還命令により生き延びることになった海軍士官が、戦後僧侶となり、硫黄島の戦没者の遺骨収集や慰霊碑建立、日米合同での鎮魂式典を実現させるべく40年以上もの時間を費やした記録。
一民間人が軽くあしらわれ、壁に立ちはだかれつつも折れずにぶれずに実現を目指す。アイデアも執念も凄いです。 -
戦闘直前に本土に帰還し、硫黄島の玉砕を免れた和智恒蔵海軍大佐の執念の半生。
印象に残ったのは、戦勝国米国に対して、硫黄島の遺骨収集と慰霊祭の実施を粘りよく和智恒蔵氏の執念と強かさ。しかし、時代の流れには良くも悪くも逆らえない無情さ。
とにかく、硫黄島の遺骨収集に対する、和智大佐の機智と執念に敬服させられ続ける一冊でした。
参考サイト:「米兵の「首刈り族」」 http://blogs.yahoo.co.jp/tatsuya11147/25934366.html -
硫黄島で亡くなった兵の鎮魂に生涯をつくした和智恒蔵の半生。
玉砕の島として知られる硫黄島は、映画にもなり、時々話題に上ることはあるけれど、その実態はあまり知られていないように思います。
かくいう私も、詳細に知っているわけではなく、滑走路の下で遺骨が下敷きにされていることや、遺骨収集が思うように進まない実情については聞き知っているけれど、和智恒蔵氏については本書で初めて知りました。
表題と、著者が上坂冬子氏であることから手に取ったのですが、読んで己の不識さを痛感。
多くの人に読んでもらいたい一冊。 -
硫黄島の歴史について知りたくて読書。
硫黄島で戦い、そして、戦後も生き延びた和智恒蔵さんの知られざる活動の歴史を紹介する内容である。
もっと日本人は東京都でもある硫黄島のことを知る必要があると思う。近年、硫黄島の戦いについて映画化されたが、まだまだ自分も含めて何も知らないのが一般的だと思う。
そもそも正しい名称すら知らなかったことが恥ずかしい。正式な読み方はいとうとうである。イオウジマは米軍の日本語翻訳者が読んで英語化されたものらしい。だから日本人であればいおうとうと読む必要があると思う。
また、青山繁晴さんの話を聞くまで現在ある滑走路の下にも無数の遺骨が埋まったままで、遺骨の収集も進んでいないことも恥ずかしながら知らなかった。
本書では和智恒蔵さんの現代のヘラクレスといわれるまでの熱意と行動力で生涯硫黄島に関わったことを知る。そして、持ち去られた1,000といわれる髑髏のうちまだ950の髑髏が返還されていないことも。
日本人が決して忘れてはいけないつい最近の歴史をまた1つ学ぶ。そして今後も関心を持ち続けたいと思う。
読書時間:約1時間10分