チキン・サンデー

  • アスラン書房
4.38
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784900656208

感想・レビュー・書評

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  • 「ありがとう、フォルカー先生」のパトリシア・ポラッコの本で、自身の実体験の作品化。
    表紙絵そのままの3人の子どもたちが、裏表紙の見返しにも写真で表れる。
    文化・民族・人種が違っても愛し合い理解しあえると教えてくれる、爽やかで温かい読後のお話。こういったテーマの絵本はなかなか無いので、とても貴重だ。

    ベースがキリスト教最大のお祭りである復活祭なので、そこだけでも説明が必要かもしれない。イースターエッグがキーポイントとなるので、それもまた。
    約16分。高学年以上に。春のお彼岸の頃が最適。
    丁寧に読み、絵もじっくり見せてこのお話の豊かさを伝えたい。

    宗派こそ違うが、隣のスチュワート兄弟ときょうだいになる誓いをたてたパトリシア。
    スチュワートたちにはユーラおばあちゃんという、とても素敵なおばあちゃんがいる。
    たぶん、ゴスペルシンガーなのだろう。
    その歌声は「雷がゆるやかにとどろくような、雨がやさしく降るような声」だと言う。
    日曜日にはユーラおばあちゃんと3人の子どもたちとで教会に行くのだが、その道すがら「コジンスキーさんの帽子屋」のショーウィンドを眺めてはため息をつくおばあちゃん。
    大好きなおばあちゃんに、あの帽子をプレゼントしようと計画を立てた3人だったが。。。

    テキストはリズミカルで、必要最低限の表現。
    その分、挿絵が雄弁に物語る。
    登場人物たちの表情の豊かさや仕草の細かさ。悲しい場面は心底悲し気に描かれ、嬉しい場面はこちらまで胸がぐっと来るものがある。
    ユーラおばあちゃんの家の中の様子と、パトリシアの家の様子の違い。家具や装飾品の細かな描写。(たくさんある写真は、たぶんコラージュの技法だ)
    そしてコジンスキーさんの腕の青い刺青にもぜひ注目してほしい。
    これは囚人番号を刻まれたもので、ホロコーストの生き残りだということが分かる。
    ユーラおばあちゃんの「帽子屋さんは、そりゃあ辛い目にあってきなさったんだよ」という言葉の意味が、ここで分かる。

    誤解を解こうと行動に移した子どもたち。それを応援した周りの大人。
    コジンスキーさんの笑顔。そしてそして、何て美しいイースターエッグ。
    こんなにも凝った模様のイースターエッグは、初めて見た。
    一途に心を込めたものが相手の心を動かし、また心から贈られたものでみんなが幸せになる。
    少しずつ打ち解けていく様子は、もう涙・涙で、読めなくなるほどだ。
    良い本が読めて良かった。
    春までしっかり練習して、子どもたちの心に届けたい。

  • チキン・サンデー|絵本ナビ : パトリシア・ポラッコ,パトリシア・ポラッコ,福本 友美子 みんなの声・通販
    https://www.ehonnavi.net/sp/sp_ehon00.asp?no=5833&spf=1

    Patricia Polacco | Jewish Historical Society of Michigan
    https://www.michjewishhistory.org/mwwmd/2018/05/patricia-polacco.html

    チキン・サンデー
    http://www.aslanshobo.com/books/ISBN4-900656-20-8.html

  • 心の深いところからあたたかいものがこみあげてくる、読後感。真実の愛、信じること、許すこと。そういう一番大切なことを、三人の子どもたちが体験した事件を通してみごとに表現されている。これは、作者パトリシア・ポラッコさんの体験をもとにした物語。この話の背景をきちんと理解するには、多国籍多民族国家のアメリカや世界のこともわかっていないといけないだろうが、そうでなくても、「うそをついてはいけない」というおばあちゃんの教えとまっすぐな子どもたちの気持ちがストレートに届く。
    こういう話を繰り返して聞いてもらうと、子どもはどんどんいい子になっていくとおもうな。美しいイースターエッグが出てきます。春にむけていかがでしょう。高学年以上、中・高生にもよんでほしい。

  • 同じく「ありがとう、フォルカーせんせい」の著書。
    同書と同じく名作だと思う。間違いなく★5つ。

    この人の画風、誰かに似ていると思ったら、そう、かのノーマンロックウェルが浮かんだ。彼と同じく、日常の生活、表情の描き方のうまさに心底惚れ込んでしまう。

    お話しも、涙無くしては読めない。
    正直に、まっすぐに生きる人たちの物語。
    誤解が解け、ささやかなプレゼントに結実していく様は、とてもハートウォーミングなのです。

  • パトリシア・ポラッコは、自身の経験したこと、家族との思い出、
    先祖代々から聞いた話などを作品にしてきた。

    代々伝わってきた物語や伝統を大切にし、
    年長者への尊敬の気持ちを表わしている作品が多いように思う。

    『ありがとう、フォルカーせんせい』では、
    字を読むことが困難だったトリシャ(パトリシア・ポラッコ自身)が
    フォルカーせんせいに教えてもらって、読めるようになる。

    『彼の手は語りつぐ』は、シェルダン・ラッセル・カーティスが
    南北戦争の時にピンクス・エイリーに助けられた経験を娘に語り、
    代々の子供たちに語りつぎ、自分のところにまで伝わってきた物語を書いたものである。

    パトリシアは、ミシガン州ランシングで、ロシア系アメリカ人の家族に生まれ、
    『ありがとう、フォルカーせんせい』でも描かれているように、
    途中でカリフォルニア州オークランドに引っ越している。

    パトリシアには、ロシア出身の祖母がおり、
    彼女はその祖母をバブーシュカと呼んでいた。

    『かみなりケーキ』は、ミシガン州で農場に住んでいたパーブシュカとの思い出を描いている。

    『チキン・サンデー』は、家族で引っ越した先のカリフォルニアで、
    家族同然に育ったスチュワートとウィンストンとそのおばあちゃんユーラとの物語である。

    本書も、『かみなりケーキ』と同じく一人称で語られる。

    スチュワートとウィンストンは、わたしの家のそばに住んでいて、
    ある夏、ふたりの家の裏庭で、「きょうだいになる誓いの儀式」をした。

    わたしの本当のおばあちゃんは、2年前の夏に亡くなってしまったけれど、
    スチュワートとウィンストンときょうだいになったので、
    わたしは、彼らのおばあちゃんのユーラ・メー・ウィーカーさんを本当のおばあちゃん同然に思っている。

    わたしの家の宗派とふたりの家の宗派は異なるけれど、
    わたしのおかあさんは、スチュワートたちと一緒の教会に行かせてくれた。

    わたしはロシア系なので白人だが、スチュワート、ウィンストン、ユーラは黒人だ。

    『彼の手は語りつぐ』でも、黒人奴隷のことは語られているが、
    彼女の一族、一家は人種的なことに、分け隔てない感情を持ってきた人なのだと思う。

    黒人と教会といえば、ゴスペルがイメージされるが、
    聖歌隊以前に、普通に歌がそこにあったのだと思う。

    『野のユリ』という作品で、
    東欧からやってきた修道女たちと黒人のホーマーが歌うシーンがあった。

    ホーマーの歌に修道女達が掛け合いをしていくのだが、
    掛け合いはアーメンコーラスのような感じ。

    ホーマー曰く、その歌は、教会に行くときに
    黒人が自然と口ずさむような歌なんだそうだ。

    ゴスペルの原点は、敬虔な宗教音楽や古典音楽のような
    きっちりとした譜面があるようなところからではなくて、
    こういった市井の黒人たちが教会に行くときに口ずさんでいた歌なんだろうと思う。

    ユーラおばあちゃんも歌を歌った。

    わたしはユーラおばあちゃんの歌が好きだった。

    ユーラおばあちゃんは、「雷がゆるやかにとどろくような、雨がやさしく降るような声で」歌うのだった。

    教会へは行きも帰りも歩いた。

    ユーラおばあちゃんは、コジンスキーさんのぼうし屋までくると必ず立ち止まって
    ガラス越しに素敵な帽子を眺めてため息をつく。

    そしてまた歩き出す。

    ユーラおばあちゃんは、いつも夕飯にフライド・チキンを作ってくれたので、
    こうやって一緒に過ごす日曜日のことを、わたしたちは「チキン・サンデー」と呼んでいた。

    おばあちゃんは、コジンスキーさんの店のイースター用の帽子が特に気に入っている。

    3人はすでにそれに気づいていて、
    「世界中のなによりも、あのぼうしをおばあちゃんにあげたいなあ」と思うのだった。

    3人は「ねがいごとの木」のうろからかんと取り出し、
    ためていたお金を数えるのだが、ちっとも足りない。

    コジンスキーさんに頼んで仕事をさせてもらおうとお店に寄るが、
    ちょうど大きな男の子たちが帽子屋の裏口に卵を投げつけていて、
    コジンスキーさんがドアと開けたところにいた3人は卵を投げた犯人に間違われてしまう。

    やっていないという3人をおばあちゃんは信じてくれた。

    だが、コジンスキーさんには誤解されたまま。

    3人は誤解を解くために作戦を練るのだった。

    わたしのロシア系伝統が彼らを助けることとなった。

    さて、それは?

    絵としてもとても美しいので、ぜひ見て確かめていただきたい。

    そして、作戦を決行して一生懸命がんばった3人にはさらなるごほうびが!

    教会で歌うのは黒人的伝統、3人が作ったものはロシアの伝統を受けたもの。

    時代が変わっていく中でも、残っていくもの、受け継がれていくものは確かにある。

  • 家族ってどんな存在ですか?人から勘違いをされた時、どうしますか?人を信じる事の大切さ、あきらめず自分を信じてもらうための勇気ある行動。家族の愛と思いの深さ。
    考えさせられる作品です。

  • 絵の中にある「ウクライナのたまご」という文字にハッとした。名もなき市井の人々を描きながら歴史の流れまで感じさせる。

  • 人が幸福を感じる最も有効な方法は、誰かに優しくすることだ、と聞いたことがある。

    見返りを期待せず、洗濯したての木綿みたいな愛情を、大好きな人たちと交わしながら生きていけたら最高だな。

    読み終えると、誰かに優しくしたくなります。

    イースターの頃のおはなし。

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著者プロフィール

Patoricia Polacco(パトリシア・ポラッコ)
作家、イラストレーターとして活躍し、日常の問題をテーマにした作品を多く手がけ、これまでに45冊もの児童書を出版している。 全国の学校を訪問して講演活動も行っている。本書『ふたりママの家で』は、講演活動を通じて、レズビアンマザーの親を持つ何人もの子供たちと出会い、こういった伝統的な形ではないかもしれないが素晴らしい家族を持つ子供たちのために、さまざまな家族の形を讃える本を書く必要を感じて誕生した。日本で翻訳出版されている絵本には『ありがとう、フォルカーせんせい』(岩崎書店)、『彼の手は語りつぐ』(あすなろ書房)などがある。

「2018年 『ふたりママの家で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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