涜神

  • 月曜社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (139ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784901477192

作品紹介・あらすじ

資本主義の「聖域」を侵犯すること、権力の諸装置を無力化し、権力が剥奪していた空間を人々の「共通の使用」へと返還すること。

感想・レビュー・書評

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  • 真理を解読するにはとても難しく私の基礎知識ではとても及ばないが、比喩の表情が清冽に清廉で心地良いイマジネーションを誘い出す。権力を糾弾し攻撃するのではなく無力化すること、そこから解放させること。イメージだけでも充分に開かれた浮遊感に浸れる。いたずらな天使に導かれ現実と非現実の間の閾をドライブしてきたみたい。詩的に美しく、マジカルでファンタスティック、でも実体は資本主義の構造の究明にあるという不思議な魅力ある書物。中身に似つかわしく、小さな真白な造本もまた愛おしい。

  • アガンベンが「自分にとってたいへん重要な主題について、可能なかぎり明確」に述べるという本作は、ベンヤミン・フーコーらのテクストをもとに、「子供」「魔術」「幸福」「天使」「パロディ」「写真」「ポルノ」への考察を通してグローバル資本主義体制下のにおける権力構造を解き明かす珠玉の論考集だ。

    「可能なかぎり明確」に述べられたはずであるが、もちろんそこまで平易ではないため、下手な解説は差し控え、本文の引用に直接語っていただこう。

    「遊びの『涜神』は、宗教的領域だけにかかわるものではない……子供たちは、わたしたちがまじめなものとみなすことに慣れてきた、経済や戦争や法律やその他の活動の領域に属するものまで、おもちゃに変えてしまう……もはや見守られずに遊ばれるレリギオーが使用の門を開くように、経済と法と政治の力は、遊びによって無力化され、新しい幸福の門となるのである」(p110)

    「資本主義という宗教は、その究極の形式においては、分離すべきものがもはやないような、分離の純粋な形式を実現する。余すことのない絶対的な涜神は、今や、おなじくらい空虚で全体的な聖別と一致する……もし神聖を汚すことが神聖なものの領域のうちに分離されていたものを共通の使用へと返還することを意味するなら、資本主義という宗教は、その究極の段階においては、絶対的に《神聖を汚すことができないもの Improfanabile》の創造をめざすのである」(p118-119)

    「その結果生じる行動は、純粋な手段、すなわち、手段としての性質を頑強に維持しながらも、ある目的との関係から解き放たれたひとつの実践に転化するのであり……すなわち、新しい使用の創造は、人間にとっては、古い使用を無力化し、それを不活性化することのよってのみ、可能となるのだ」(p125)

    アガンベンは新たな神権体制を転覆するための来るべき「遊び=涜神」を要請する。しかし、アガンベンがポルノやヌード写真への考察がしめすように、本来は反抗的「涜神」であったはずの行為は、いとも簡単に馴致され資本主義のコードへと組み込まれてしまうのだ(最も「ファッショナブル」なものとして!)。

    資本主義の強みとは、いかなる「反」をも捕獲し中和可能な装置にある。アガンベンは、「《神聖を汚すことのできないもの》の神聖を汚すことは、来るべき世代の政治的課題である(p135)」と述べる。

    このアガンベンがわれわれに提出する課題はまことに困難なものであることは間違いない。しかし本作は今後とも、われわれにとって暗澹とした日常の闇に一筋の光を差し込む導きの糸として欠かせない一冊であり続けるであろう。

  • 引用される人物、作品に既知のものが少なく、自分の浅学さを思い知らされた本でした。
    もっと色々と知っていればもっと味わえたのだろうな、と思うととても残念。
    とは言え、読んでいてはっ、とさせられたり解釈が広がったりと色々と教えてくれた本です。

    『瀆神礼賛』の終盤が意外なところに話が行き、それでも綺麗に纏まって終わるのが一番印象に残りました。

  • アガンベンを読み尽くしたい

  • ジョルジョ・アガンベンの著作を読んだのは初めてだが、思想表現としてのエッセイをこれほど巧みに駆使する思想家/批評家は稀ではないか。

    人間が誕生の瞬間にその保護下に置かれる守護神とされる「ゲニウス」をテーマにしたエッセイをはじめ、本書は、写真の存在論に触れつつ(「審判の日」)、言語表現形式としての「パロディ」の起源や近代的主体(作者)論(「身振りとしての作者」)に迫るなど、様々な思想の断章(フラグメント)を積み重ねる。その一章一章は、それぞれの輝きを放ちながらも、がゆるやかに相互に関連し合い、隠された宇宙の秘密を暴き出し、思想の星座を形づくっている。それはかつてヴァルター・ベンヤミンが唱えた「コンステラツィオーン」のようだ。

    最終章「映画史上最も美しい六分間」は僅か二ページの断章だが、これほどの強度と、躍動と、そして美しさに満ち溢れた思想表現は他にない。イタリア現代思想の豊饒さを窺い知ることのできた一冊。

  • ハードカバーながら新書くらいのサイズの、真っ白で小さい、かわいらしい本。著者ジョルジョ・アガンベンは『スタンツェ』の人で、現代イタリアの、どうやらいま話題の哲学者であるようだ。
    『スタンツェ』もそうだったが、この本もたゆたうような詩的な文章の中に、ボルヘス的博識が詰まっている。ブッキッシュ。
    決して難解ではなく、意外なテーマを次々と持ってくるごく短い文章がたくさん集まった、宝石箱のような本である。
    読んでいてなるほどと感心させられるが、大きな問題をとことん突き詰めていく本ではないから、印象はさほど強くない。むしろ、たまに開いて数カ所拾い読むといった、そんな楽しみ方ができる本ではないか。
    この人の思想については、もっと長大な著作を読んでみないとよくわからない。

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著者プロフィール

1942年生まれ。哲学者。マチェラータ大学、ヴェローナ大学、ヴェネツィア建築大学で教えた後、現在、ズヴィッツェラ・イタリアーナ大学メンドリジオ建築アカデミーで教鞭をとる。『ホモ・サケル』(以文社)、『例外状態』(未來社)、『スタシス』『王国と栄光』(共に青土社)、『アウシュヴィッツの残りのもの』(月曜社)、『いと高き貧しさ』『身体の使用』(共にみすず書房)など、著書多数。

「2019年 『オプス・デイ 任務の考古学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジョルジョ・アガンベンの作品

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