チョムスキー、世界を語る

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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784901510097

作品紹介・あらすじ

グローバリゼーションのもとに振りかざされる“正義”や“自由と平等”の虚像。
 知識人とメディアの責任、言論の自由を軸に、現代世界の政治・経済・社会など、あらゆる問題を語り尽くす。チョムスキー思想の全体像を引き出した1999年の長編インタビュー。

感想・レビュー・書評

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  • 自分が社会階層の頂点のほうに位置する階層であることを逡巡なく言う代わりに辛辣な批判も言い放つチョムスキーのこれは、自由で,傲岸不遜(アンペルティナン)で正鵠を射抜く(ペルティナン)精神の内省録なのである(P15)
    ISILによる日本人拉致に対する見方を矯正するために、今こそチョムスキーを読みたい。

    [more]<blockquote>P77 そもそも、資本主義なんてどこにもありはしません。

    P115 力を握っているものにとっても国防は必要なのです。まず、人民を統制するために必要ですが,それだけでなく、企業経営の諸々の費用やリスクを社会に肩代わりさせるようにするのに,やはり国家という装置が必要なのです。そういう目的を果たすのに使われてる仕掛けの中でも大きいものひとつが、ほかでもない「国防」というやつです。まず人々を脅します。【中略】これを真に受けて国民が本気で怖がれば,国防のために喜んで金を出すようになりますから。国防とは,そもそも強力な力を持つ国家というものを前提にしています。強力なというのは,治安維持のために外国に軍事介入することも辞さない,ということもありますが、それと同時に,経済体制をつくり出すことができる,という含みがあるのです。

    P124 米国は世界一豊かな国で,さまざまの面で信じがたいほど恵まれており,素晴らしい資源を抱え,敵もいない。【中略】しかしそれなら米国は,今頃,世界で一番,それも群を抜いて断然金持ちで,繁栄を誇る国でなければおかしいのです。ところが実際は,米国の賃金はヨーロッパよりも低く延べ労働時間は世界の工業国の中で最長という有様なのです。何しろ米国は,法律で義務づけられた有給休暇が存在しない唯一の国ですから。

    P131 (民主主義は)最良のシステムです。「一番欠点が少ない」ではなくて。【中略】民主主義というものは一応は存在しているけれども,まだその公約した目標のすべてを実現してはいません。

    P136 現実には、フランスは一番不平等の大きい国のひとつです。ちょっとすごい建前と本音の使い分けですね。

    P138 (民主主義というと,人民の人民による人民のための政治とも言われるが)その考えは頭から追い払わないと。それは権力の側がありとあらゆる手段を通じて私たちに吹き込もうとしている幻想であって,たとえばテレビの刑事物の連続ドラマというような単純な手段まで利用されています。

    P140 政府がもはや直接的な暴力を行使し得ない場合は,人々をマインドコントロールする必要が生じます。これが米英両国で洗脳を引き受ける産業が他のどこよりも巧妙になっている理由です。【中略】プロパガンダのテクニックというのは,人々に自分たちが無力で,孤立していて,お互いに切り離されているという感じを抱かせればいよいのです。実際,一般に広告宣伝産業にとって理想的な世界とは,二つの要素の上に成り立つ世界ということになるでしょう。この理想が仮に実現したらの話ですが,民衆がもはや金持ちや特権階級を脅かす存在ではなくなり,エリートの言う意味での「民主主義の危険」なるものが解消されること、これです。人々は自分自身のささやかな生活といった生活の中の軽薄な部分にしか関心がなくなります。【中略】ひとびとは「役者」ではなく「観客」の立場に留まることになるのです。

    P152 行動を起こしたいなら,評判など無視しなければダメです。私は大丈夫ですよ,特権階級の一員ですから。併し恵まれない労働者には高くつくでしょう。それを免れる唯一の方法は,組織を作ることです。

    P175 米国や西洋社会で、米国が南ベトナムを防衛したのは間違っていたのか正しかったのかという議論が持ち上がる場合、米国は南ベトナムを防衛したということを前提として話が始まっているわけです。しかしここで仮にロシア軍がアフガニスタンを防衛したのは間違っていたのか正しかったのかと尋ねてみれば,誰でもみな,その問題の建て方がおかしいと気づくでしょう。

    P181 「簡潔である(コンシジョン)というのは、前後2回のコマーシャルの間に,3つのフレーズでものを言うことをさすのです。これが,思考をコントロールするのに実にうまいやり方なのです。【中略】なにぶん時間がないので,何の証拠も示せずしっかりした根拠を挙げて自説に裏付けを与えることもままならないのですから。【中略】カダフィ大佐はテロリストだと言うことはできます。1分で済みますから。しかし「ビル・クリントンはテロリストだ」と言わなければならないとしたら・・

    P194 抑止力とは何か,シチリアへ行ってマフィアのゴッドファーザーに聞いてごらんなさい。もしも誰かが命令に逆らったり,おとなしく金を納めなかったら,そいつの金を取り上げるのではなく殺してしまう。抑止力があるとはそういうことだと。米軍/英国軍は,これと同じ理屈に従っているのです。彼らは要するに世界中から怖れられるようになりたい。

    P211 (人間を)信じる気持ちではないですね。希望ですよ。よく知らないものを信じるべきではないでしょうから。
    信頼すること。人間にできることはせいぜいそれだけです。人間は本能的に平等と自由に惹かれるものだと考えてもよさそうな,幾ばくかの理由があります。同じ一人の人間が,ナチスの親衛隊にもなれば聖人にもなりうる。では何がそれを決めるのか。それは,偶然の成り行きと,そしてその本人の個人的な選択です。</blockquote>

  • ノーム・チョムスキーの「生成文法」論は、ちょっと間違っているんじゃないかという気がしているが、政治・社会分野で鋭くユニークな発言をしているらしいので、こういう本も読んでみることにした。
    ただし、本書は「インタビュー」を記録したものである。この手のものはみんなそうだが、奥行きがあまりなく、思想主題も結局は語り尽くされずに終わってしまうため、思考の全体像がどうにも掴めないという欠点がある。
    本書の中では、多国籍企業は「組織の方が個人よりも上位に立つという原理につらぬかれ」ており、共産主義やファシズムと同様の「全体主義」の形態をしめしている、といったチョムスキーの指摘が気に入った。
    そのうえで、チョムスキーは現在について、企業と国家とが、それぞれ異なる次元に属するものでありながら、支え合い強力な権力となって、世界を覆い尽くそうとしている、と語る。大衆はニュースを観客として目撃しながらも、ある程度以上は政治に参加できない、という状況に追いやられている。
    チョムスキーはどういうところから世界情勢の情報を入手しているのかわからないが、特に合衆国的な体制を鋭く批判し、権力のシステムを見破ろうとつとめるその姿勢には、とても好感が持てる。
    とはいえ、やはりこの本はインタビュー本なので、彼の思考に深く分け入っていくことが難しい。ちゃんと「書かれた書物」として、この分野での彼の著作を読んでみたい。

  • さすがチョムスキー。
    その慧眼には驚きます。
    出来事の裏に隠された本質的な変化、動きを捉えること、考えること、これは確かにとても大切なこと。そういった視点を忘れないでいたい。

  • 当たり前のように思っている民主主義が、実はほとんどその理念を達成していない。
    メディアや知識人、大企業の実態を暴き、本当に世の中を動かしているものは何なのかに迫る。
    チョムスキーは権力側を単純に悪者扱いせず、彼らのリアルも取り上げて真実を見ようとしていて、とても真摯な印象を受ける。

  • ゼミでやってきたことと、フランスで学んだことがシンプルに分かりやすくまとめられている。
    うまくまとめられない自分にはもってこいの本でした。

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著者プロフィール

ノーム・チョムスキー(著) 1928年生。言語学者、批評家、活動家。アリゾナ大学言語学栄誉教授。『統辞構造論』(1957年)において言語学に「チョムスキー革命」をもたらし、その後も生成文法研究の発展を牽引し続けた。エドワード・ハーマンとの共著『マニュファクチャリング・コンセント』(1988年)では自由民主主義社会における思想統制のメカニズムを分析した。またベトナム反戦運動では中心的な役割を担い、それ以降も各地の独立メディアと協力して様々な草の根運動に協力し続けてきた。主に自国アメリカの国内外での強権主義に対して、アナーキズム思想と大量の歴史的資料に基づいて重厚な批判を展開している。存命中の学者としては世界で最も多く引用されている。ウェブサイト:https://chomsky.info/

「2021年 『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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