ピノコ哀しや: 手塚治虫「ブラック・ジャック」論

  • 五柳書院 (2020年2月1日発売)
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本 ・本 (157ページ) / ISBN・EAN: 9784901646352

感想・レビュー・書評

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  • 娘が漫画ブラックジャックを読み始めるようになって、私もあわせて再読している。そうすると、それに関連する書籍も読みたくなり、本書に手を伸ばすに至る。

    この本は秋田書店版及び講談社版のブラックジャック全集の各回の配列をとおしてブックジャックとピノコの愛の軌跡を考察する本である。
    講談社版はブラックジャックがピノコを同伴者として受け入れ、さらにはピノコの求愛を受け入れていくというストーリーを、明らかに意識して配列されているという考察。

    漫画ブラックジャックは一回読み切りの短編集である。
    もともと、ブラックジャックは雑誌への連載を短期として予定していたため、ブラックジャックに関する人物像を伝えるエピソードは、当初省かれていた。謎の人物のまま消える運命だった。時間を軸に展開するストーリーではない。

    しかし一回読み切りの形式であることを変えないまま、編集者の意向により長期の連載に切り替えられたのをきっかけに、様々なキャラクターを加え、身の上も語る必要がでてきた。
    「半分白髪で顔がツギハギの謎」を語ってみたり、
    「ブラックジャックと対照的な存在として描かれる安楽死させることを職業とするドクターキリコ」や
    「ブラックジャックの恩師であり、医師としての指針ともなっている本間丈太郎医師」などを次々と登場させるに至っている。
    そして、各回バラバラの状態だったものに一定の秩序を持たせ、構成的に成り立たせる必要がでてきたが、その役割を担うことになったのが「ピノコである」という考察だ。

    ブラックジャックを取り巻く、ピノコやその他の女性の存在との関りを考察しながら、死生観、性に対する考え方、高額報酬請求の真意などを読み解いていく感じ。
    ブラックジャックが好きな方は、復習の意味でも一度読んでみてはどうだろう。

  • 誰もが知っている手塚治虫の「ブラックジャック」を、ピノコという存在を軸に考察した本である。何よりも驚いたのは、秋田書店版と講談社版で順番が違うと言う話であった。作品の発表順と思っていたが、講談社版はピノコ中心に構成されていた。そして、ピノコの登場する話が多いことにも驚いた。特に話の本筋に関係なく、存在することで場を明るくしているだけと思っていたのだが、彼女を軸に考えると、ブラックジャックとピノコの人間関係の話になると言うのが作者の主張で、完全な脇役と考えていた私には眼から鱗であった。手塚作品には「リボンの騎士」のように男装の女性が出てきたり、普通に女性としてのヒロインは意外に少ないような気がする。彼の女性観について見直すのも面白いかもしれない。

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著者プロフィール

評論家。1942年東京生まれ。上智大学経済学部卒業。著書に『家族という意志』(岩波書店)、『家族という絆が断たれるとき』『宿業の理想を超えて』『「孤独」から考える秋葉原無差別殺傷事件(共著)』(以上、批評社)、『ひきこもるという情熱』『〈宮崎勤〉を探して』『「存在論的ひきこもり」論』(以上、雲母書房)などがある。

「2013年 『子どものための親子論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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