ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る

  • バジリコ
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  • / ISBN・EAN: 9784901784665

作品紹介・あらすじ

ひとり国を離れ、恋もした-クスリもやった-そして失望した。戦火を逃れた異国での孤独…傷心の帰国…結婚やがて離婚。ハーベイ賞、アレックス賞などを受賞した話題作の続編。

感想・レビュー・書評

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  • ガソリンの値上げがこの月曜にあった。これでうち打ち止めにはなりそうにない、さらに上がるだろう。それはペルシャ湾の機器から来ている。アメリカはイランが悪いのだと言う。しかし、私たちはイランのことをほとんど知らないで今まで来た。情報はほとんど入らない。そういう中で、このマンガは新鮮だった。

    二巻目は、1984年から1994年まで15歳から25歳迄のマルジの疾風怒濤の青春時代が描かれる。

    ウィーンでの4年間、恋とマリファナ、自由と責任、そして身体の成長と精神の成長とのバランスと取り方に失敗して(しかし、日本の若者よりも十分大人ではあるが)、マルジはイランに帰る。イランはイラクとの停戦直後だった。

    両親は相変わらず進歩的思想の持ち主だか、社会はヨーロッパと比べれば非常に抑圧的ではある。しかし、彼らは強かに自由を愉しむ術を持っていた。

    1991年、湾岸戦争が起きる。彼らの意見は西洋、特に日米間のそれとは、少し「視点」が違う。私は大いに傾聴に値すると思う。彼ら親子の会話を聴いてみよう。

    (西洋のスーパーが買い占めに走っている報道を見て父娘は笑う)

    父「いかれてるよ。戦争は6000キロも遠くで起きているのに怖がるなんて。あんまりお気楽に暮らしているから、何にでも不安になるのさ」

    母「何を笑っているの」

    マルジ「テレビの、湾岸戦争に怯えるヨーロッパ人を見て、あの人たちはよっぽど悩みがないんだろうって言ってたの」

    母「いつからイランのメディアを信用するようになったの?反西洋の宣伝工作がその目的なのよ」

    マルジ「気にすることはないわよ、ママ。西洋のメディアもイランを攻撃しているもの。そうして私たちは、原理主義者でテロリストだっていう悪評が生まれるんだから」

    母「それはそうかも。こっちの狂信とあっちの軽蔑と、どっちもどっちね」

    母「個人的にはサダムが嫌いだし、クウェート人にも何の親近感もわかない。でも、自分たちを「解放者」と呼ぶ連合軍の厚顔無恥さも同じくらい嫌いだわ。連中がいるのは、石油のためなんだもの」

    父「その通りだ。アフガニスタンをみてみろ!10年間戦争をして、90万の死者を出したのに、いまだ、混乱状態だ」

    父「誰も指一本動かそうとしない。アフガニスタンが貧しい国たからだ」

    父「最低なのは、クウェートへの介入が人権の名のもとになされていることだ!どの権利だ?どの人間だ?」

    もちろんイランでこの様な人たちは、少数派だった。しかし、歴史は彼らの分析が正しかったことを示している。

    もちろんイランがテロリストかどうかはともかく、原理主義的な思考をしがちだということは忘れ無い。しかし、それ以上に私たちとしては、西洋のハイエナ的な思考を忘れてはならない。

    特に現代の様な新たな石油危機が起きている様な時に、当たり前のことだけど、イラン国内に宗教はちがうが、合理的思考が出来る「庶民」がいることを忘れてはならない。

  • 10代のマルジの青春。戦争から逃れるため両親から離れ欧州ですごす孤独の日々、そして帰国。お互いに尊敬し信頼しあう親との関係もすばらしい。

  • イランでの日常生活、女性の立場など、知らない世界を漫画で垣間見れて有難い。女性は生まれた国によって立場が随分違う。一概に良い悪いは言えないが、「運命だ」と受け入れるには世界中の情報が手に入りやすくなり、勝手に想像し辛い気持ちになる。とはいえ、日常生活の中、思春期の考え方に似たような体験をみつけ親近感を覚える。「どこも同じだね」とイランを身近に感じるのは新鮮な体験。映画も見てみよう!

  • 戦争の最大の被害者は子ども。
    大人の一般市民だって勿論そうだが、前者の未来の阻まれ方はエグい。
    筆者が優秀で格好良い女性なので尚更そう思う。

    中東問題は根深く触れるのに躊躇するが、漫画形式で1人の女性にスポットを当てた運びで、ハードルが低いのが本書の功績の1つ。とは言えさらっとは読めない。イスラムのこと、人権のこと、戦争のこと。物理的・心理的距離の遠さは否めない。
    そんな中、主人公の率直な描写が救い。
    優等生でなく芯の強い人間には、ないものねだりでいつの日も憧れる。

    もう一度1巻から読みたいな。
    続きはないのかしら。もしくは同じ著者の他の作品でも。
    中東問題の解説ではなく、当事者の手記が一市民目線で入りやすいかもな。

  • 戦火を逃れ、宗教の戒律から解き放たれ、新天地ヨーロッパへーー。しかし、夢見た自由の地では、移民への差別と偏見、孤独が心を苛み、麻薬が身体を蝕む。
    マルジの体験に共感することで、祖国へは帰れず、異国での暮らしは厳しい難民の人たちの気持ちがわかるような気がします。これは物語ではなく、今現在も世界のどこかである悲しい現実です。

  • マルジがいよいよ一人でウィーンへ。初めての寮生活、アナーキストたちとの交遊、恋…。そして故郷に帰ってきて見たものは。マルジは上流社会のイラン人。普通のイラン人の生活とはかけ離れていますので注意。

  • 1巻目もよかったけど、これをよくぞ描き上げたものだと感心。

    複雑な事情を抱えたとはいえ、思春期の子どもがたった1人外国で生きていく孤独感。よくわかるなぁ・・・自分もマルジと同じような年頃に交換留学でたった10か月だけ滞在したアメリカで温かく受け入れてはもらったけれど、しょせん異邦人だったし、韓国人の子からあからさまに日本人とは親友にはなれない、とかいわれちゃったり、嫌でも民族を意識させられた。同じアメリカ人でも、あちらはドイツ系、イタリア系、中国系、アイリッシュとまぁ民族意識がそれぞれにあった。不思議と民族間で見えない線が張られてるんだよねぇ。日本にいるとそういうのは絶対わからない。ビジネスでたまに会うだけでもわかんないかも。毎日顔を合わせてるからこそわかるライン。留学生の中には、マルジのように本国にはいられなくて、やむなく渡米してきたって子もたくさんいたし。
    アメリカになじめなくて、本国に帰りたいけど移民してきちゃったから帰れないって子もいたなぁ・・・

    (この本の内容とは全然関係ないけど。)

    マルジの両親のように、国にいては言論に自由もなく、行動も制限され、政府には懐疑的、子どもには広い視野をもっておいてほしいと海外へ送り出す、せめて子どもだけでも…の気持ち。
    読みながら、留学先で知り合ったその子たちのことを思い出した。

    タイトル通りマルジは故郷に戻る。戻りたいと思った気持ちはすごくよくわかったよ。

    私は、思春期の少女の成長物語としてこれを読んだけども
    もちろん、イランの抱える複雑な民族事情を垣間見られる興味深いお話でもあります。読めば読むほど発見がありそう。

  • 味わい深い

  • 大人になっちゃったのね・・・

  • 「おませ」だったなマルジの、ヤングアダルト以降の物語。

    前編に続き後編でもそのぶっ飛び具合のアクセルを緩めることがないマルジです。大学生になりパーティー、麻薬、恋愛と傷心、そしてイラクへの帰国。またパーティ三昧(当局のをかいくぐる)、そして結婚と離婚。

    これが本当にイスラム革命後のイランでのことかと思うと本当に魂消ます。

    というよりです。むしろ人の内実はそれほど文化によっても変わらないのかもしれないなあと。勿論、マルジのケースはかの国では大いに例外ではあるとは思います。でも彼女の「こじらせ」具合ってのは、なんというか、若気の至り的な失敗に見えるのです。ある意味若者あるある的な。

    でもマルジのいいところを自身を客観視できていること。運命論や神の御業とか言い出さないし、自分の非を認めているところが人間として尊敬できるところです。
    だからこそ、本作品は一層人を勇気づける力があるのではないか、と思います。

    ・・・
    戦争があっても、宗教の締め付けがきつくても、人種差別があっても、離婚しても、それでも前向きに生きることが出来る。そんなメッセージを勝手に受け取りました。

    勿論周囲のサポート(含む金銭的)に恵まれたからこそ、再出発も切れるのかもしれません。それでもなお、逆境を笑顔で切り抜けるしたたかさと強さ、そしてユーモアには脱帽でありました。

    ちょっと落ち込んだ時とかに、おすすめしたくなる本です。

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