父を葬る

著者 :
  • 幻戯書房
3.53
  • (3)
  • (4)
  • (7)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 45
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784901998468

作品紹介・あらすじ

看取り、看取られるすべての人に贈る、高千穂の土俗を舞台に描く血と救済の物語。渾身の書き下ろし長編小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 小説という形をとってはいるものの、ほぼ作者の実体験と言っていいだろう。
    九州の高千穂で癌に冒され痴呆も進む父の最期を見つめた作者の弔いの物語だ。

    徐々に死期が近づいてくるその様子を軸として、様々に去来する思い出を織り込んでいる。
    そのせいか時系列がバラバラで少々読みづらい。
    これも作者の心の思うままに綴った結果だろう。
    まだ乳飲み子だった頃の記憶から始まり、胸のつかえとなっている曾祖母との出来事、そして父に連れて行かれた小料理屋の様子など現在に至るまでどれもこれも郷愁を誘うものだ。

    何と言っても作者の両親が非常に魅力的。
    おそらく田舎での閉塞感を感じながらも故郷で教師となった父。その後の彼の生き様は挫折だったのか怠慢だったのか。
    ボケてしまってからも端々に感じられる素養の高さと機知。
    そしてこんな父をとことん愛しつくした母。
    当時では珍し恋愛結婚の果てに町から嫁いできた母は、もはや母ではなく女に戻っていた。

    この二人を見つめた作者はどこか傍観者のようである。
    二人の中に入る隙がなかったということだろうか。
    経済的な援助はしても仕事場が東京にあるのだからいたしかたないのかもしれない。
    これも介護の現実だろう。
    美しい話に見えてもこれが老老介護なんだと思う。
    結局は出来る範囲で最善を尽くすしかないのか。

    それにしても、理性的とも思われるノンフィクション作家の作者。
    この作者が化学療法を一切拒み、漢方の力にすがるのが興味深かった。
    延命治療を決断する場面もしかり。
    人間、やはり理性だけではどうにもならない生き物なんだな。
    感情があるのだから。

    それにしても最後まで一家を支え続けたW医師の姿には胸を打たれる。
    家族の思いをまっすぐに受け止め理解し、協力の姿勢を崩さない。
    時には医者の領域を超えたような言動も見受けられて。
    誰もがこんな医師に出会えることができたら、介護の辛さも緩和されるのかもしれない。
    高千穂の自然が人の温かみを育てるのだろうか。
    願わくば私もこんな医師に出会いたい。

    • vilureefさん
      nico314さん、こんにちは。
      コメントありがとうございます(*^_^*)

      nico314さんは医療系のお仕事をしていらっしゃるの...
      nico314さん、こんにちは。
      コメントありがとうございます(*^_^*)

      nico314さんは医療系のお仕事をしていらっしゃるのかな?
      医療やサービス業など直接人とかかわっていく仕事は神経も使うし大変ですよね。
      ほどほどに頑張ってくださいね。

      私は完全に一人の世界です。
      コミュニケーションに飢えています・・・(^_^;)
      2014/08/25
    • nejidonさん
      vilureefさん,こんにちは♪
      コメントしようと思いながら遅くなってしまいました。ごめんなさいね。

      なかなかハードな一冊のようで...
      vilureefさん,こんにちは♪
      コメントしようと思いながら遅くなってしまいました。ごめんなさいね。

      なかなかハードな一冊のようで読み応えもありそうですね。
      素敵な両親の姿を観て育った作者さんだから、思い出をすべて書き留めておきたかったのかもしれませんね。
      私の両親も、片方が入院するともう片方が必ず、「わたしがついてるよ」なんてぎゅうっと手を握ってました。
      同室の患者さんたちの、あんぐり口を開けた顔を、今も楽しく思い出します。
      そうそう、担当の医師によって運命が分かれるところですよね。
      心無い言葉を吐いて、患者を凍りつかせる医師も確かに存在しますから。
      「先生を頼ってこちらに来てるんですから、今の言葉は撤回してください」
      ・・真剣にそんなことを言ったこともあります。

      ええ?vilureefさんはコミュニケーションに飢えてるんですか?
      お子さんがまだ小さいからかな。
      うちのにゃんこたちをレンタルしましょうか(笑)
      2014/08/29
    • vilureefさん
      nejidonさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      すっかり秋めいてまいりましたね。
      いよいよ読書の秋でしょうか。
      私...
      nejidonさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      すっかり秋めいてまいりましたね。
      いよいよ読書の秋でしょうか。
      私は夏バテなのか読書が遅々として進んでおりません・・・。
      秋になれば復活するかしら。

      さて、この本、良かったですよ。
      nejidonさんにもきっと気に入ってもらえると思います(*^_^*)
      ここ半年くらいで介護について書かれた本を何冊か読みましたが、本当に人それぞれですよね。
      男女の差もあるだろうし、夫婦か親子かによっても介護に対する心構えが変わってくるだろうし。
      この本に登場する母親は執念的と言っていいほどの介護なんです。
      自分で追いこんでどんどん疲弊していくようで痛々しいんです。
      時には客観的に意見を言える人がいることも大事だな、などと思いました。
      nejidonさんのご両親は素敵な関係だったのですね。聞いてる方が恥ずかしくなりそう(笑)

      コミュニケーションに飢えている・・・。
      これ仕事のことなんですー(^_^;)
      一人黙々とやる仕事なもので。
      人間関係のストレスはありませんが、楽しくワイワイ仕事やるって言うのもいいなと。
      贅沢ですよね。
      家に帰れば息子と猫達に攻められて、一人になりたいと思うこともしばしばです・・・。
      2014/08/29
  • 読了後に感じるやるせなさは、高千穂文化でボクも生きていたからだと思いました。

    父親の闘病と母の看病、先祖、家族、自分がすべて高千穂の世界から一人称で語られています。ただの闘病記ではなく、高千穂の真実や苦しみの歴史が詰まっています。

    会話の語尾に含まれる、高千穂方言独特のニュアンスも伝わってくる高山氏の文体には、焼酎の匂いすら感じられ、無性に帰りたくなってきます。

  • 自分もほんの二カ月前に母を葬り、読みながらいろいろな想いがよぎった。
    その時最善と思う事をやり医師とも話し合い、死に近づいていく親と向き合ってきたけど、最後の方のページで「主人公はだれかということだよ」という言葉を読んでギクっとなった。果たして自分はどうだったか。
    誰でも少なからず後悔は残り、100%満足して見送れる人はいないのではなかろうか。

    高千穂という独特な風土のかもし出す、草木や鳥や風の色や匂い空気感が伝わってくる。
    ここでは本当に山に霊魂が還るのであろう。
    時々クスっとなる文があったり、読書中静かな時間が流れた。

  • 「家族という血は、自分では選べない理不尽なもの。幸福な記憶は少なく、消耗するばかり。恨みに近いネガティブなエネルギーをため込み、吐きださないと重くてしょうがなかった。」

  • 生きるのも一生懸命なら、死ぬのも一生懸命です。             その時考えてもわかることも じっとしておられなくて無駄なこともやってしまうものです。
    人間は、家族は、おろかなほどいとおしいものです。

  • 末期癌を告知された父の看取りの物語。誰もが満足できる看取りは難しい。

  • 父親の病気が発覚し、故郷・高千穂に帰ることになった私。
    そこで私は、父を看ながら、昔の記憶・父という人間・母という人間・
    あるいはもう居なくなった人達や高千穂の地に思いを巡らせる。
    どう逝き、どう看取り、どう受け止めていくかを考えさせられる一冊。

    …私に本当に近しい人で、まだ亡くなっている人が
    いないせいか、「死」の前後のリアリティが私の中で小さい。
    ただそんな事になったら、ひどく取り乱してしまう様な気はする。
    でも、その前にこの物語のように様々な事があるのだろう。
    看取る立場になったなら、決め込まずその人がどうしたいのかを
    よく考えてみる事が一番大事だと、読み終わって思った。

  • 家族ってなぁ知っているようで知らないことも

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

1958年、宮崎県高千穂町生まれ。法政大学文学部中退。2000年、『火花―北条民雄の生涯』(飛鳥新社、2000年)で、第22回講談社ノンフィクション賞、第31回大宅壮一ノンフィクション賞を同時受賞。著書に『水平記―松本治一郎と部落解放運動の100年』(新潮社、2005年)、『父を葬(おく)る』(幻戯書房、2009年)、『どん底―部落差別自作自演事件』(小学館、2012年)、『宿命の子―笹川一族の神話』(小学館、2014年)、『ふたり―皇后美智子と石牟礼道子』(講談社、2015年)など。

「2016年 『生き抜け、その日のために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高山文彦の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×