〈愛国心〉のゆくえ: 教育基本法改正という問題

著者 :
  • 世織書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784902163193

作品紹介・あらすじ

現代は「政治的な教育が可能になった時代」であると同時に「政治に関する教育が必要になった時代」でもある。「現代社会や政治についての認識を深めない教育」をどう変えればよいのか。

感想・レビュー・書評

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  • 教育基本法改正の問題に広田さんがどうメスを入れるのかに期待して読みました。
    気になった箇所をいくつかピックアップしてみます。

    …今教育現場で起きていることは、社会や政治の問題を自覚的に考える教員にとっては、居場所がなくなるような事態である。教育基本法に詳細な徳目を盛り込み、「正しい国民」を一元的な目標とする教育は、批判的能力をもった自律的で柔軟な国民を作り出すことに失敗するだろう。教員を「権力で無批判なロボット」にしておいて、しかも、目標としての人間像を一義的に定めておいて、そのような教員がそのような内容や方法で教える教育によって、「自分で判断する能力をもった、多様な価値観を尊重する主体」を作らせようとするのは、奇妙な話で無理がある。「人格形成価値」、すなわち自律的に判断能力をもち「善は何か」を自ら問える主体の形成を、教育の営みの主眼だと考えるならば、今の改正の方向は愚かな選択だというしかない(p165)。

    …それどころか、…(中略)…学校が実際に果たしている機能は「政治からの隔離」である十八歳に至るまで(最近は大学を卒業する二二歳まで?)彼らを「コドモ」扱いして、具体的な政治から遠ざける機能を果たしている。
     問題は、その間に、彼らの世界観や人間観の大きな部分が形成されていく、という点である。思春期を迎えた子供たちは、「自分探し」を始めるようになる。特に現代は、性急に「自分らしさ」をもとめる社会になっている。十代後半にさしかかる子供たちは、いやおうなしに「自分らしさ」という手がかりで、この世界を解釈し、その中に自分を位置づけようとする。…(中略)…「大人の世界」から切り離された、学校空間の中にも友人関係や消費の世界などの「自己形成」の空間にも、いずれも現実の生き生きとした、しかし同時に複雑さに満ちた、「政治」が登場してくる局面はない。すなわち、今の学校も、身近な人間関係も、消費空間も、いずれも、非政治的な脱色された世界なのである。それらの狭い世界の中に、子供たちは、「本当の自分」を位置づけていくことになる。彼らは実際の「政治」と接点をもつ機会もなく、世界観を形成し、オトナになっていっているのだ。
     こうした経緯によって、生徒たちの「政治への無知・無関心」が進行していく。今の学校は、ほとんどの子供たちにとって、<政治的無能化>の装置として機能しているといえるのかもしれない。保守派の論者の中には、教育基本法があまりに「個人」を尊重してきたために、私生活主義に走る子供が増えたとする議論があるが、私にいわせると大事なことを見落としている。教育基本法第八条第一項が骨抜きにされ、少しでも「政治」の匂いがするようなものは学校の教育活動で徹底的に禁止・自粛されてきたために、子供たちは身の回りの狭い世界を「世界」として見るしかない状況にとどめおかれ、公共的課題を自分の頭でどう考えたらよいかわからないままに大人になっている―子供の世界を大人たちが脱政治化しておいて、「社会のことに関心がない」と子供たちを非難するのだから、それはマッチポンプというべきである。(p216-218)

    これも「禿同」です。う〜ん、総選挙の前に読みたかったなぁ。
    広田さんによれば、この本は『教育 思考のフロンティア』(岩波書店,2004)との姉妹編ともいうべき本らしいので、興味がある方はセットで読むといいかも。

  • 分類=教育。05年9月。

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著者プロフィール

1959年生まれ。現在、日本大学文理学部教育学科教授。研究領域は、近現代の教育を広く社会科学的な視点から考察する教育社会学。1997年、『陸軍将校の教育社会史』(世織書房)で第19回サントリー学芸賞受賞。著作に『教育は何をなすべきか――能力・職業・市民』(岩波書店)、編著に『歴史としての日教組』(名古屋大学出版会)など多数。

「2022年 『学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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