村八分

著者 :
  • ケイ・アンド・ビー・パブリッシャーズ
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784902800036

感想・レビュー・書評

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  •  先日読んだ花村萬月の『俺のロック・ステディ』に、村八分のことが出てきた(花村は若いころ京都に住んでいたことがあり、村八分の全盛期を間近に見ている)。で、なつかしくなって村八分のことを検索していてこの本のことを知り、読んでみたしだい。

     村八分は、ただ1作のアルバムを発表したのみで解散した、1970年代の伝説のロックバンド。解散後もライヴ音源などが続々とCD化され、それらのアルバムはいまなお静かに売れつづけている。
     著者の山口冨士夫は村八分のリード・ギタリストで、ヴォーカルのチャー坊(=柴田和志/故人)とともにバンドの中心者だった人物。天才肌のギタリストである。

     著者といっても、本書は山口へのロング・インタビューを文章化したものだ。構成を担当したのは藤枝静樹という人。ライターではなく、ミュージック・クリップの監督さんだそうだ。

     なるほど、と思う。「ライターが構成を担当したなら、こうはならない」という文章になっているから。
     ほとんど「テープ起こしをそのまま載せました」みたいな感じ。話はあちこちに飛ぶし、当人同士にしかわからないような人名が説明抜きでポンポン出てくるし、抽象的でよくわからない言い回しもそのまま文章化されている。

     私のようなライターが構成を担当したなら、時制を整えたり、意味を損なわない程度に言葉を補ったり、脚注をつけたりと、あの手この手でトリートメントをして読みやすい本にする。本書にはそういうトリートメントが皆無に等しいのである。
     もっとも、ヘタに読みやすい本にするよりはこういう書き方のほうが、山口の人となりがダイレクトに伝わってよい面もあるだろうが……。

     構成は難ありだが、内容はなかなか面白い。バンド内の確執やドラッグ遍歴も赤裸々に明かして、異様な迫力がある。
     たとえば、山口とチャー坊が出会ったその日の晩にいきなり一緒に「キメる」場面。

    《「チャー坊、もしかしてL持ってる?」って聞いたら、ちょっと「何を言うねん」って顔をしたけれども、「だってシスコから帰ってきたんでしょ? 持ってねえの? そんくらい」って言ったら、「あるよ」って。(中略)その晩トリップしちゃうんだよ、ユウゾウと三人で。》

     また、村八分以前のダイナマイツ(山口がメンバーだったグループサウンズのバンド)時代についての記述ではあるが、次のような一節もある。

    《当時、楽器屋から楽器盗んだりレコード屋からレコードを十枚、二十枚単位でいっぺんに持ってきちゃうのはオレたちの遊びだったんだ。どうしても欲しいレコードは金出して買ったけど。リスペクトってヤツだな。》

     うーむ……。
     よい悪いは別にして(いや、ドラッグも万引きも当然悪いことですが)、昔のロックってこういうもんだったよなあ。本書には全編に「昔のロック」のアブナイ香りが横溢している。

     孤児院に育ち、黒人との混血であることから差別も体験した山口の生い立ちはそれ自体ドラマティックなのだが、本書にはミュージシャンになる前のことにはほとんど言及なし。そのへんは、山口の自伝『So What』にくわしい。

     なお、本書には中島らもが自らの村八分体験(および山口冨士夫との遭遇)を元にした短編小説「ねたのよい」も収録されている。
     「ねたのよい」とは村八分の曲の一つ。この小説の初出は『小説すばる』2004年11月号(本書には初出が明記されておらず、「本書のための書き下ろし」として扱われている。なぜ?)で、らもが亡くなったのは同年7月だから、ほとんど遺作に近いのではないか。

    P.S.
    狩撫麻礼が原作を書き、谷口ジローが作画を担当した『LIVE!オデッセイ』という劇画がある。1枚だけアルバムを発表したのち渡米した伝説のロック・シンガー「オデッセイ」が、突然帰国するところから始まる物語。いま思えば、あれは村八分およびチャー坊を意識した設定だったのだな。本書を読んで初めて気づいた。

  • 冨士夫ちゃん云く、ロックはいいけどロールはどうした?全く同感。

  • 日本初のストーンズタイプのロックバンド、村八分。リードギタリストでありバンドの生みの親である山口富士夫による、伝説のバンドのクロニクル。
    (世代的に二回りぐらい上のため)登場するバンドマンの名前は半分以上知らず、また話があっちゃこっちゃ飛ぶため、ちと読みにくいものの、それでも赤裸々に綴られる当時のアングラの世界は、なかなか強烈。ただし、本書中盤で語られるギターについての丁寧な解説は、富士夫ちゃんの生真面目さが覗える。
    全編に溢れる、天才パフォーマーにしての無類の不良ヒッピー、チャー坊に対する尊敬と憎しみが入り混じったアンビバレントな思い。ここに書かれたエピソードが本当だとすると、チャー坊は相当の「ろくでなし」だが、富士夫ちゃんはそれこそ憎みきれなかったみたい。
    おまけのCDも、故中島らもによる短編小説も、◎◎◎

  • thx mr fujio yamaguchi, it's deadly cool book! can feel 70s atmosphere from photographs.

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