- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784902916454
作品紹介・あらすじ
金井美恵子、川上弘美、諏訪哲史ら豪華執筆陣による
エッセイ、評論、インタビュー、山尾悠子書きおろしを収録
『飛ぶ孔雀』(2018)では、泉鏡花文学賞、日本SF大賞、芸術選奨文部科学大臣賞の三冠を達成しました。今ようやく時代が山尾悠子に追いつこうとしているのです。本書は、はじめての読者から生粋のファンまで楽しめる、山尾悠子読本の決定版です。
本特集は、山尾が自身の作歴を明らかにした書きおろしエッセイ、近作掌篇2作、インタビューを収録。美術、フェミニズム、翻訳といった多様な視点から作品を読み解き、進化を続ける作家像に迫ります。
写真家・沢渡朔が20代の山尾を撮影したポートレイトや、山尾の掌篇小説「小鳥たち」からインスピレーションを得て人形作家・中川多理が創作した人形の写真からなる32Pのカラーページも見どころです。
[執筆者]
金井美恵子、川上弘美、時里二郎、沼野充義、谷崎由依、金沢英之、三辺律子、佐藤弓生、諏訪哲史、川野芽生、田中美穂、金沢百枝、吉田恭子、倉数茂、高原英理、清水良典、高柳誠、東雅夫、礒崎純一、金原瑞人(掲載順)
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★★ 夜想#山尾悠子 特装版 ★★
[内容]
・中川多理・人形作品「薔薇色の脚」 1点
・『夜想#山尾悠子』 1冊
・特製函入
※人形は一点一点中川多理のオリジナルです
お問い合わせ|ステュディオ・パラボリカ
http://www.yaso-peyotl.com
感想・レビュー・書評
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恥ずかしながら、山尾悠子の密かなファンである。
だが、実は、まだ一冊も読んだことがない。
そんな訳で、この本を手にしたのだ。
そんなファンがいるものか!と言われても、実際ファンなのだから仕方がない。
本だって、『ラピスラズリ』、『歪み真珠』、『白い果実』(翻訳)、『飛ぶ孔雀』、そして本書と、既に5冊も持っている。
何故だろう?
まず、どうしようもなく書名に惹かれてしまう。
『ラピスラズリ』、『歪み真珠』、『飛ぶ孔雀』ときたもんだ。
次に、装丁にやられてしまう。
前二者の柳川貴子による装丁の静謐な美しさは、そこに蔵められた作品の佇まいを表す表象のようだ。
この書名にこの装丁、これが買わずにいられよか。
こうした僕の想いと同じ想いを抱いた人が他にもいるようだ。/
《その本のまわりだけ、しんと静かだった。書店員による惹句は添えられず、ただおもてを向けて置かれていた。不世出の幻想小説家、と帯にあった。
(略)碧玉色の箱に入った本は、静謐なたたずまいなのに強い吸引力があった。降る雪が音という音を吸い込むような、そうした吸引力だった。》
(谷崎由依『箱のなか、箱の外』)/
〈「夢の棲む街」、「耶路庭国異聞」、「ラピスラズリ」、「歪み真珠」‥‥‥タイトルだけでもうっとりしてしまう。》
(三辺律子『コバルト色のチョコレート 山尾悠子と児童文学』)/
若い頃は、安部公房、大江健三郎、高橋和巳と男性作家ばかり読んでいたが、この頃は、津島佑子、石牟礼道子、山尾悠子と女流作家ばかりに心惹かれるようだ。/
《新婦の母堂は北陸出身とのことで、黒留袖は加賀友禅、四季の花がいちどきに咲き乱れる華やかな裾模様だった。何かの用なのか、目立たぬように披露宴会場の隅を通っていく、その柄ゆきはいかにも珍しいものとして目に映るのだったが、艶やかな牡丹に桜に萩桔梗、まるで〈美女ヶ原〉を描いたような。と新郎側の縁戚であるKは思い、酒気のせいもあってか口に出していたようだった。
「鏡花の『薬草取』ですよね。ご存知なのですか」
ー中略ー
「小説のぜんたいが夢幻能の結構になっているといいますね。主人公と道連れの花売り娘が、それぞれワキとシテ」
「きみは国文科の学生ですか」
「卒論の準備中なんです。できれば院試も受けたいと」と娘は力みのある表情になった。
「論文のテーマは鏡花で、『薬草取』を論じるということだね」》
(山尾悠子『「薬草取」まで』)/
このあたり、能・狂言など伝統芸能の素養の全くない僕には、やや敷居が高いという感も否めないが、山尾自身を思わせる女子学生が登場し、この短篇自体も夢幻能の結構になっているようだ。/
《漏斗の街の構造をそのまま模したとされる劇場は街のもっとも底にある。円形舞台は客席のさらに底の底にあり、急傾斜ぶりをもって知られる客席および満員の観客たちの姿のすべてが闇に包まれるとき、舞台の空間のみが照明の底にあかあかと曝される。おどる薔薇色の脚たちはどこからともなくそこへ踏み込んでくるのだが、たとえば猛々しいまでの〈骨盤の踊り〉、
(略)〈巨体化した太腿の踊り〉、(略)〈長い脚の踊り〉等々、その舞踏の目覚ましさといっては満座の観客たちの注視を一瞬たりとも手放すことはないのだった。》
(山尾悠子『薔薇色の脚のオード』)/
その他、《山尾文学は翻訳文学である》とする吉田恭子の「理想形態市のエートスーー翻訳文学としての山尾悠子』と、《山尾作品をいつも詩として読んできた》という高柳誠の『〈私的〉山尾悠子年代記』が面白かった。
まさに「山尾悠子特集」の名にふさわしい充実の読み心地だ。 -
山尾悠子特集と聞いて飛びついた。『翼と宝冠』に『山の人魚と虚ろの王』ときてのこれで、満を持してという感触。
評論、エッセイ、対談、年譜など盛りだくさんの内容。文学賞に関心がなくて、さらに言えば文芸誌を読むことがほぼないものだから、略歴や作品発表の場や生の言論などなどなど、今にして初めて触れるところが大きくてとても興味深く面白かった。そして知る未読の作品の多さ。ぜひいつか本になってほしい。
評論では川野芽生による「呪われたもののための福音 ――『ラピスラズリ』評」が出色。これは『ラピスラズリ』を再読しなければ。単行本がいずれも豪華なだけに、これまで文庫版を揃える欲求が薄かったのも悔やまれる。惜しいことをしていた。
それから、吉田恭子による「理想形態市のエートス ――翻訳文学としての山尾悠子」も特に印象的。ジェフリー・フォードの三部作には全部山尾悠子が絡んでいてほしかった。「翻訳『白い果実』は山尾悠子唯一の翻訳小説として完結している」のだけど、後2作の読み心地がどうしても物足りなかった覚えがある。これも再読したい。それから、今年刊行予定とある吉田恭子共訳『生まれつき翻訳』も気になる。
今後の活動も楽しみにしつつ、既刊も入手してみたい。『仮面物語 或は鏡の王国の記』と『オットーと魔術師』が未読……。復刊とかどうですか。 -
最近好んで読んでいる山尾悠子さん特集。
見た目通り読み応え十分でした。
難解と言われる山尾さんですが、ファンは多くいてる様ですね。
対談が面白かったです。
特に人形作家さんとの。
若い頃の山尾さん、とんでもなく美人でした。