本は読めないものだから心配するな〈新装版〉

著者 :
  • 左右社
3.83
  • (11)
  • (13)
  • (8)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 259
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903500591

作品紹介・あらすじ

「管啓次郎は、批評を紀行にしてしまう思想の一匹狼、もしくは詩的なコヨーテだ」堀江敏幸。本と旅をめぐる話題の本が早くも新装版で登場。青山ブックセンター2010年エッセイ・紀行部門売上1位!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • いったい私は何のためにこんなに本を読むのだろう?とたまに考えないことはないけれど、それよりも読んでいる一瞬一瞬の得も知れぬ触感、切れ間にふと見上げた空がいつもと少し違って見えるその広がりがたまらなくて私は読むことをやめられない。想念があちらこちらに張り巡る。「読書の目的は内容の記憶ではない。そのときその場で本との接合面に生じた一回きりのよろこびを、これからやってくる未来の別のよろこび(読書によるものとはかぎらない、生のいろいろな局面でのよろこび)へとつなげてゆくことだ。」正に私の読書を肯定してくれる力強い言葉に後押しされて、私は読み続けるだろう。いつまでもどこまでも。


    私が敬愛するル・クレジオをこんなふうに表現しているのがうれしい。「根っからのアウトサイダーだ、たしかに。その文学は、現行の世界の縁(へり)にある。やがて新たな大洪水が人間社会を滅ぼそうとするとき、われわれに最後の希望を与えるのは彼の文学だと、ぼくは思う。」私もそう感じている。

  • 読むのにかなり時間がかかった一冊。

    時間がかかった理由は二つ。ひとつは、本から本へ旅してゆく著者の感性が独特で、それをしっかり味わいたいために、読み終えたエッセーをもう一度読むことがあったから。そして、もうひとつは、その独特な感性はさらっと読むことでは理解できなくて、行きつ戻りつしなければいけなかったから。

    この独特な感性は本のスタイルにも表出していて、例えば目次がないとか、見開きの左ページ上部隅に本文中のキーセンテンスを抜き書きしているとか。

    こんな雰囲気のあるエッセーを読み終えた感想は、まさにこの本のタイトルに押されたかのような「もっと本が読みたい」というもの。

    ハードルが少し高い本ではあるけれど、手元に置いておいていつか再読したい。

  • タイトルの潔さに惹かれて手に取った本。読む前は、本を読むのが苦手な人向けの読書指南か何かかなと思ったけど、内容は全く違いました。著者の本業が詩人ということもあり、著者の主張は説教じみてはおらず、独特な表現で綴られています。

    著者によると、本とは、それ一冊で完結するものではない。ある本を読むということは、他の本とつながり、読みとった内容が自分の中で反響して、そこからさらに広がっていくということ。
    だから、本を読んで得た内容を頭の中に留めておく必要はない。著者の表現を借りれば「読書の内容が水なら、それを共有場である海に流してやると良い。流量を誇ったり、人と比べたりする必要もない。水が作り変える環境を生きた相で捉え、水系の生存に役立てると良い」ということになります。
    ここから更に発展させ、著者は読書の目的は内容の記憶ではなく、「その時の本との接合面に生じた一回きりの喜びを、これからやってくる未来の別の喜びへとつなげていくこと」としています。著者が、本を読むことを通じて世界を広げ、知らないことを知り、想像力を膨らませることを愛しているんだな、というのが分かる部分です。

    これ以外に共感したのが、著者にとっての「新書」という種類の本の考え方。著者の言葉も借りつつ自分なりに解釈すると、「新書は森となり、それを伝ってネットワークを作ることができる。一冊から他の世界へとつながっていく。新書は、教養を培うのに適している。なぜなら、教養とはその時、その場にないものをどれだけ豊かに呼び覚ますことができるか、また人が見落としがちな隠された連環をどれだけ細心に見抜くことができるかにかかっているものであって、新書はそうした他の世界とのつながりを得るための出発点であり、分岐点となれるものだからである」ということになります。
    新書を単なる導入書、入門書という位置づけで捉えるのではなく、そこから更に世界を広げていける道標として使うという点、自分自身の新書感と合致しました。知識と教養が広がるかどうかは、ひとえに読み手の努力次第。

  • 熱が、尋常じゃない。大好きなものを語るのに、大好きすぎるがゆえにかえって努めて落ち着いて話しているかのような、それとも、本の楽しみを知り尽くし誘いこむような、蠱惑的な文章。それは、幼い頃から身につけてきていたらしい「無意識下での本との距離の取り方」を意識させるくらいにこちらの心にどんどん踏み込んでくるのだった。この熱に浮かされて一気に読むのも最高だと思うのだけど、深呼吸しながら時間をかけて拾い読み。読みたい本、読み返したい本も増える。本棚に置いて、好きなときに手に取れるのが幸福な、読書人生の友人のような本。

  • この本と出会ったことは、ぼくの中の読書観を変えた。ぼくはそれまでせっせと貧乏性を発揮して読むことで何かを得ること、血肉化することを目論んでいたのだと思う。だけど肝心なのはその「本を読むこと」と「生きること」を渾然一体と成して、いわばぼく自身が(相当にこむずかしい、カッコつけたレトリックを駆使してしまうが)流動体となって世界に参加することなのだと思う。そう捉えていくとこの本を読むことは新しい生き方や在り方を見出すことにもつながるのではないか。とりわけ(精神面において)若い人にこそ薦めうる啓発書だと受け取った

  • 本は読めないものだから心配するな。あらゆる読書論の真実はこれにつきるんじゃないだろうか。話題の書評集が新装版に。(e-honより)

  • 旅と詩。
    小刻みよい文章で心地よいが、もう少し歳をとってから読みたい内容。時を忘れたときに触れたい。

  • 文学
    思索
    ことば

  • 借り物。最初は装飾的な文に戸惑い、読みにくく感じたが、慣れてくると文の美しさが心地よく感じるように。タイトルに励まされる。何度も読み直したい本なので、購入した。

  • B&Bで購入。
    つい最近、何かほかのもので「本は読めないものだから心配するな」というこの一文が紹介されていて、B&Bの書棚で背表紙を見た途端に「あ!」と思ったのだ。
    いちおう読み終えたことにしているけれど、そばに置いて気が向いたら手にとってひろい読みしたい本。
    こういう本に出会えてよかったなぁと本当に思える一冊。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1958年生まれ。詩人、批評家。明治大学理工学部教授。詩集『Agend'Ars』『島の水、島の火』『海に降る雨』『時制論』『数と夕方』『狂狗集 Mad Dog Riprap』(いずれも左右社)、『犬探し/犬のパピルス』『PARADISE TEMPLE』(いずれもTombac)、英文詩集にTransit Blues(University of Canberra)がある。紀行文集『斜線の旅』(インスクリプト)により読売文学賞受賞(2011年)。エドゥアール・グリッサン『〈関係〉の詩学』『第四世紀』(いずれもインスクリプト)をはじめ、翻訳書多数。2021年、多和田葉子、レイ・マゴサキらによる管啓次郎論を集めた研究書Wild Lines and Poetic Travels(Doug Slaymaker ed., Lexington Books)が出版された。

「2023年 『一週間、その他の小さな旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

管啓次郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×