宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)

制作 : 尾山 慎二 
  • 群像社
3.58
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本棚登録 : 219
レビュー : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903619231

作品紹介・あらすじ

うすよごれた地上の現実がいやになったら宇宙に飛び出そう!子供の頃から月にあこがれて宇宙飛行士になったソ連の若者オモンに下された命令は、帰ることのできない月への特攻飛行!アメリカのアポロが着陸したのが月の表なら、ソ連のオモンは月の裏側をめざす。宇宙開発の競争なんてどうせ人間の妄想の産物にすぎないのさ!?だからロケットで月に行った英雄はいまも必死に自転車をこぎつづけている!ロシアのベストセラー作家ペレーヴィンが描く地上のスペース・ファンタジー。

感想・レビュー・書評

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  • 今年のノーベル文学賞受賞者の作品の邦訳を出していたから…というわけでは必ずしもないんだけれど、同じ出版社というつながりと、読みそびれていたこともあって読んでみた。

    宇宙へ行くことを子供のころから夢見ていた青年が、ルノホート計画を担うべき人員に選ばれ、月を目指す…という、言ってみればソ連邦的宇宙開発物語。科学の力と言うよりも、どうも人力で月を目指すんじゃないかという素っ頓狂な展開で、全編面白悲しく鬱が充満しており、力ないトホホ笑いを浮かべるしかない場面の連続。同じ宇宙開発物語でも、マーキュリー計画へのアメリカの動きを追ったノンフィクション、トム・ウルフの『ライト・スタッフ』のような力強さや明るさはなく、むしろその真裏を行く感じ。

    並べたてられる宇宙開発のハリボテ感と高圧的な「同志」関係、人身御供的な「英雄」感は、旧西側陣営の人間から考えると、いかにもあるあるな旧ソ連設定なんだけれど、読んで早いうちに井上靖の『補陀落渡海記』を思い出した。「大願成就」のために自分が望もうと望まざるとにかかわらず、周囲の期待と圧力で送り出されてしまう息苦しさがまったく同じだと思った。とにかく、ミチョークの声の録音テープ(を起こすオモン)の描写と、ロケットの各段を担当するメンバーの描写が、悲喜劇だと思って読んでいてもさすがにつらい。結末はちゃぶ台返しのようであり、どこかから巧妙に伏線を巡らせていての展開なのかもしれないが、はっきり把握できなかった。でもそれでいいんだと思う。

    欧米流のブラックユーモアというよりも、クラシカルなロシア文学に通じる庶民の悲哀といったものが強く感じられる中編だった。ソローキン先生のやたらめったらなむちゃくちゃ感のほうが、読後がすっきりしているように思えるから不思議。

  • 宇宙飛行士への憧れを抱くソ連の少年が月の裏を目指す。ソ連の宇宙開発の歴史が戯画化され寓話的に描かれた作品。冷戦時代の宇宙開発競争のため、駒のように命を粗末に扱われる飛行士らのエピソードが哀れにも可笑しくも感じられ(しょぼい月面歩行車ルノホートの描写や練習の様子やキッシンジャー歓迎のエピソードなど特に。)、奇想小説として楽しく読み進める。また大まかな筋としては予想の範囲内の結末を迎えるが、どうやらそこはそれほど重要ではないようで解説を読むと全体に重層的な仕掛けがほどこされていて、ソ連批判だけではなく「(前略)ソヴィエト人の内面の宇宙をテーマにしたもの」らしい。ロックバンドのピンク・フロイド作品への目立った言及が一部にあり、その割に『狂気(The Dark Side of the Moon)が言及されていないのは意識してのことというのは感じたが、主人公の宇宙飛行士仲間のミチョークの妄想記録により興味を惹かれる。解説で前世(?)と書かれているが、メソポタミア文明、ローマ帝国、ナチスと時代や地域も違う謎めいたイメージの連鎖がつづられる。大きな神話的なイメージの流れの中に現代として宇宙飛行士を位置付けているのかもしれない(そこには性的なメタファーも含まれているようだ)。再読を要するなあ。
     装丁は美しく、コンパクトなサイズもかわいらしい本そのものとしても大変チャーミングである。群像社ライブラリーは揃えたくなる。

  • 「あのころの僕に、人生で最良のものとはつねに目の端をかすめるだけのものでしかないなんて、どうして知りようがあっただろう。」

    最近、ロシア文学がアツい!(二回目)ということで『ジェネレーション〈P〉』が気になっていたのだけれど、まずこれで予習をしよう、と手にとった一冊。
    冷戦時、アメリカとの苛烈な技術競争を行っていたソ連が舞台。幼い頃から宇宙飛行士に憧れたオモンが、色々あって月に向かうことになるという話なのだけれども、ライカ犬よろしくそれは一方通行の宇宙船で、地球に帰ってくることはできない旅だった。
    幼少時代、どのように空を目指すようになったのか、親友との出会い、航空学校への進学、突然の宇宙飛行士への任命、トレーニング、そして月への出航…と、かなり内容がぎゅっとつまっている。ところどころに出てくる箴言も良いし、解説で書かれている繰り返し現れるモチーフなども良かった。
    帰ってくることのできない宇宙への旅と言えば、先日読んだ高橋源一郎『銀河鉄道の彼方に』を思い出すのだけれど、どちらもきゅうっと身が縮こまる、切ない気持ちにさせられた。どうやら自分はこういうテーマに弱いらしい。共に宇宙へと出航する仲間たちも、ほんとうにちょっとしか紹介されていないのだけれども、十分にインパクトを与えるキャラクターたちだった。


    (ちょっとネタバレ)

    最後のオチに関しては、なんとなく想像がつくというか、あちゃあ、やっぱそういう風になっちゃうのね、と思わなくも無いのだけれど、まあ、それはそれで。
    しかし途中の展開にも、切り取られた足は結局どうなったの?というかなぜ切ったの?切ったのになんで普通に自転車漕げてるの?とか、切り離された宇宙船の他の人たちはどうなったの?とかいろいろ疑問もあって、そこの辺はちょっとマイナス。

    でも総じてなかなかに良い読書だったので、他の作品も読みます。
    あ、でも『ロシアの村上春樹』って惹句は完全に詐欺だと思う。

  • <現代ロシア文学の奇才ペレーヴィンが描く、ソ連月旅行計画>

    子どもの頃から宇宙に憧れていた少年オモンは、ソ連の宇宙飛行士となって、帰ることができない月への特攻飛行を遂行するよう命じられる。彼は無事に月にたどり着けるのか、そしてその後、彼を待ち受けるものは何か。

    さほど長くない物語だが、個人的にはすいすいとは読めなかった。
    意味深長なエピソードが次々に出てくる。寓話のような隠喩のようなそれぞれのエピソード自体を理解するとともに、そのエピソードにこめられた意味を測る必要もあり、行きつ戻りつの読書だった。
    痛烈な皮肉とシニカルなユーモアが織り込まれた物語である。

    主人公の名前自体、象徴的だ。オモンは警察特殊部隊の略称であるし、ラーはエジプトの神である。太陽神ラーの頭部はハヤブサの形である。太陽の神が月の裏側を目指すのだ。

    ソ連時代の宇宙開発を題材にしているようでありながら、著者によれば、これは内面の宇宙をテーマにしたものなのだという。
    著者の狙いとしては、体制の批判というよりもその中で生きる個人のあり方に主眼を置いているというところだろう。

    内なる宇宙への旅の果てに、オモンは自由を手に入れたのだろうか。
    勝利の旗は彼の魂の中ではためいたのだろうか。

  • 自転車をこぎながら飛行機を追いかけ、空に憧れた時代が確かにあったな。主人公は宇宙空間にて、どんな思いでPinkFloydの「Echo」を聴いたのだろうか。どんな思いで月の裏側を…素敵な作品だった。

  • どんなに読み進めても宇宙にピントが合わなくて、電話のベルのような鋭い音だけがくっきりと主人公のまわりで公転している

  • 『図書館大戦争』を読んだ時も思ったけど、現代ロシア文学は奇想だな。奇想あってのSFだけど。ミチョークの幻視告白が読みどころ。オモンに未来はある?これもディストピア?

  • どんなに歪みきっていても、体制の中で生きていかざるを得ない人間たちの滑稽さと悲しみと希望と。

    ロケットが切り離されるたびに死んでいく若者たち。
    吹き上がる炎は命の輝き。

    明かされるハリボテの宇宙計画。
    死んでいった仲間たちは無駄死にだったのか?と思いつつも、結局のところ人生、死なんてそんなもんなのかもしれないな、とも考える。
    特に2015年の今、日本で生きていると。

  • あらすじを読んで、もっと楽しい物語を期待してたせいもあるが、動かし方が好きになれない。
    そもそも、奇想に混ぜものが多いのはあまり好みではないのだ。

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プロフィール

1962年生まれ。現代ロシアを代表する作家。『ジェネレーション〈P〉』『汝はTなり』『チャパーエフと空虚』『虫の生活』などが訳されている。

「2018年 『iPhuck10』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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