透明な沈黙

著者 :
  • 青志社
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本棚登録 : 279
感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903853987

作品紹介・あらすじ

20世紀最大の哲学者と永遠の生命を与えられた美しき生物たちとの「真理」と「生」の結実。

感想・レビュー・書評

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  • 剥製と骨格標本の合の子のような透明標本の周りにウィトゲンシュタインの哲学をまぶしているとてもミステリアスで面白い本。
    透明標本そのものも美しく、パラパラと眺めるのも勿論楽しいのだが私は個人的に文字を追いながら眺める方法をオススメしたい。
    そのページごとの言葉のチョイスがよく哲学をあまり読まない人でも雰囲気で楽しめる。さらに言葉と標本との距離が丁度よく、文字を辿る間も常に標本が目に入る。読んでいるうちにその標本が私たちに読み聞かせてくれているような錯覚が起こり、喋りかけてくる剥製とはまた違う不思議な感覚に私たちを誘ってくれる。
    個人的にかなり好きな本。

  •  透明標本のことはよく分からないけど、ウィトゲンシュタインの言葉のセンスには馴染みがある。

    私が書くものは、ほとんどいつも自分自身に対する独白である。
    それは私が、自分と二人きりで話していることなのだ。

    生き生きとした暖かい核に達するために、
    人は毎朝、
    生気を失った岩クズをかきわけて、
    さらに押し進まなければならない。

    幸福なものの世界は、不幸なものの世界とは別の世界である。

    才能とは、そこから新しい水が繰り返し流れ出す泉である。
    しかしこの泉は、
    正しく用いられなければ価値を失う。

    歳をとるにつれて、ますます私は
    論理的に視野が狭くなる。
    私の物事を一挙に見る力は
    衰えている。
    そして私の思考は
    息が短くなっている。

    ザラザラした大地に戻れ。

    私の書くものは、
    しばしばただの「口ごもり」にすぎないのだ。

    私は才能の乏しい人間だ。
    こんな私にも
    何か正しいことが
    成し遂げられますように。

    時々私は、自分の理性が、負荷のかかった、
    今にも割れそうなガラス棒であるかのように感じる。

    勇気は常に独創的だ。

    死は人生の出来事ではない。
    死を人は経験しない。

    絶望に終わりはない。
    自殺もそれを終わらせることはない。
    人が奮起して絶望を終わらせない限りは。

    このテンション、この強度、この透明性、ヤバい

    『宗教哲学日記』読みたくなりますね。

  • 「勇気は常に独創的だ」。ウィトゲンシュタインの人間味のある生きることの意味を問い続けたという「生の言葉」と、神秘的な雰囲気を醸し出した透明標本とがうまく合っていて、不思議な世界を作り出している一冊だった。ウィトゲンシュタインの言葉は深く、総てを理解しきる事は難しい。しかし、人間味溢れるこの言葉には幾つか共感できる部分もあった。その「生の言葉」の横で存在する、語ることのできる生である「死」の透明標本は矛盾しているようで溶け込んでいた。

  • ヴィトゲンシュタインと透明標本のコラボ。
    言語哲学の人と、視覚から訴えかけてくる作品なので、それぞれに考えさせられる。
    ちょっと疲れた時はボーっと写真を眺めるのに切り替えるのもいいかも。

  • 哲学はやっぱあんまパッとしなかったんですけども、透明標本のインパクトがスゲエ……
    標本室とか行ってみたい……。

  • オーストリア生まれの哲学者ウィトゲンシュタインの格言×冨田伊織氏の透明標本。
    余計なものをそぎ落としたあるがままの真理と姿を掛け合わせると、こうも人に多くを訴えるのか。ウィトゲンシュタインの生きているからこそ目の当たりにする真理を、鬼界彰夫訳がシンプルかつ力強く訴える。そして静となった標本が生き生きと言葉を弾ませる。それぞれの良さを引き立たせる絶妙な組み合わせ。
    「生」の反対は「死」ではなく「停滞」かもしれない。

    「語ることのできないものについて、人は沈黙しなければならない」
    「思考にも、耕す時と収穫する時がある」

  • ★★★★☆
    透明標本に目がいってしまうが、格言集でもあります。
    (まっきー)

  • 言葉も写真も美しい。ウィトゲンシュタインの言葉も透明標本もそれ自体が素晴らしいのはもとより絶妙にマッチしているためつい溜息が出てしまう素晴らしさ。沈んでいる時に読むと立ち直れる。

  • 透明標本を見たくて買った本。
    いくつか響く言葉はあった。もちろんまったく理解できないものも多くあったのだけれど。この言葉もそうだけど、透明標本も不思議な世界観を出してきて引き込まれる。なんだろうね。不思議な世界。原版の、新世界・透明標本もみてみよう。

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著者プロフィール

1954年、京都府生まれ。1990年京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学、Ph.D.(ニューヨーク市立大学)。現在、筑波大学大学院人文社会科学研究科名誉教授。

[著書]
『ウィトゲンシュタインはこう考えた』(講談社現代新書、2003年)
『生き方と哲学』(講談社、2011年)
『『哲学探究』とはいかなる書物か』(勁草書房、2018年)
[訳書]
『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記』(講談社、2005年)

「2020年 『ウィトゲンシュタイン 思考の生成原理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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