海岸線の歴史

著者 :
  • ミシマ社
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本棚登録 : 83
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908083

作品紹介・あらすじ

日本のアイデンティティは、「海岸線」にあり。
「海やまのあひだ」はどのような変化をしてきたのか?
「日本人の生きるかたち」を根底から問い直す、瞠目の書。

感想・レビュー・書評

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  • 「砂の文明・石の文明・泥の文明」の提唱者、松本健一氏による日本の海岸線を巡る論考。
    国土の面積が日本の25倍の米国、26倍の中国とくらべて、日本の海岸線の総延長はそれぞれ1.5倍、2倍に達するという。以下、備忘メモ。

    英国が植民地するような地域は、切り立った崖で水深が陸地近くまで深く、すぐそばに高台がある(例えば香港)。要するに大型船が接岸しやすく、また他国船の接近を見つけやすい場所、それが狙い目だった。

    一方、日本にとっては従来良港とは「入江」だった。波が小さく水深が浅い。香港のような条件のところは「灘」つまり難所だった。黒船来航、産業の変革で従来とは違う条件の港が開け始めた(例えば神戸)。ちなみに、「海岸線」自体がごく新しい言葉。吉田松陰あたりは使っていたようだ。

    海岸(というより海辺)は「神と人間が接触する場」であった。日本人の先祖の一部は大陸・半島からの渡来であり(出雲大社)、海辺に神社が立ち、死者が海に還るとの信仰も源流はそこにある。(網野善彦の「境界」を巡る論との接点。また、古事記にみられる海洋系の神と農耕系の神との対立(前者の代表例が機織り機を壊すスサノオノミコト))

    海は共有物、という感覚は海洋開発によって失われつつある。今や国土と同様に領有権を議論される場となってしまい、その行きつく先が「大陸棚法」。こうなると海岸線の意味はますますなくなっていくだろう。
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    研究書というよりはかぎりなく「エッセイ」に近い書物。しかし、豊かな「気づき」を多数与えられた本であった。

  • ◆きっかけ
    日経WOMAN 2011年1月号p30 村木厚子さんが拘置所生活の中で読んだ一冊として挙げられていて。2017/3/4

  • 2016/5/15

  • 150606 中央図書館
    著者の松本健一は、北一輝の評伝などを著す歴史家、評論家、評伝家?である。本作は、歴史エッセイと言ってよいと思うが、高度成長期以前に育った日本人(山地育ちを除く)の心情には、生活空間から砂浜を通り、波打ち際へ、海原へ、と、なだらかに外へ続いている風景があるということを述べている。ところが現代では、喫水の深いコンテナ船、タンカーを受け入れないと、賑わいのある港湾とならず、経済活動から取り残されてしまう。このため、コンクリート防波堤で守られた港湾、後背地が普通の光景となり、その前衛としてテトラポットの群れが、海を遮ってしまった。その結果、生活空間からなだらかにつながる海の風情は、そして海岸線は、失われてしまったという。九十九里浜も戦後の短い期間でほとんど消失した。
    こういう現状を、松本は慷慨し、歴史に現れたさまざまな日記、エセー、評伝、エピソードを引用して、われわれのノスタルジーを掻き立てんとしている。
    ・志賀『日本風景論』は、海というよりも火山性の「山」を嘆賞の中心においている。
    ・井伏鱒二『荻窪風土記』では、荻窪で汽笛が聞こえるという。森鴎外の観潮楼も、本郷の高台から海が見えていたということである。

  • 数多くの史料を読み込んだ力作だとは思うが、海岸線に関しては多くの専門家による先行研究がある以上、著者独自の考えを展開する前にそちらももう少し下調べをしてあれば、内容に一層の厚みが加わったのではと残念に思う。
    理科系の内容でハードルが高いのはわかるが、今の時代ネット検索によりある程度の調査は可能なはずである。

  • 日本人にとって、海岸線というのがどのように意識されてきたか。
    白砂青松というこの国の原風景はいつ頃できたものなのか。
    日本人のアイデンティティとしての海岸線をさまざまな視点から論じた
    一冊。興味深い史実はいくつかあったが、それが日本人の精神にどういう影響を与えてきたのかは少しわかりづらい。新しい発見は余り感じられなかったのが残念。

  • 実に良い装幀だと思ったら,クラフト・エヴィング商會の仕事であった.

  • 2008年8月10日購入

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著者プロフィール

評論家・歴史学者

「2016年 『辻井喬=堤清二 文化を創造する文学者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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