映画を撮りながら考えたこと

著者 :
  • ミシマ社
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本棚登録 : 623
感想 : 44
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908762

作品紹介・あらすじ

『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』…

全作品を振り返り、探った、
「この時代に表現しつづける」
その方法と技術、困難、そして可能性。

構想8年の決定版

感想・レビュー・書評

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  •  なんて贅沢な本。この時、是枝監督がこの作品をなぜ作ったのか。どんな試行錯誤があったのか。思いのたけを余すことなく語ってくれる。映画論にとどまらず、テレビ、ドキュメンタリー、そして社会と映画の在り方にまで切り込む。その言葉の一つ一つに発見がある....

    ●感想
     本書の扱うテーマは重層的だ。是枝監督自身がいつもオープンで、多くのことから学び続けているからだろう。作者自身の思考がとても豊かで幅広い。まずこの本は「是枝裕和にによるエッセイ」である。同時に2020年現在日本最高峰の監督による「映画論」にもなっている。時にそれは、テレビや報道のあり方にも及んで「テレビ論」「メディア論」ともなる。映画を撮りながら考えたことを語るというコンセプトだが、扱うカテゴリーが広い。作者が制作会社出身でドキュメンタリーを撮ったのが影響している。読みながら、たくさんの世界に触れられるので、とても贅沢な時間だった。
     是枝監督は映画だけを突き詰めてきたような映画バカではない。作品を撮りながら、常に現実社会の見つめている。いつもより映画を作りながら、どこかの人や、社会に想いを寄せている。だからこの人の作品は面白い。視聴者は映画を通じて現実の中に何かを発見する。考えさせられる。決して押しつけがましいメッセージはない。提供されるのはいつも「対象の見つめ方」である。だから柔軟性があるし、単一的にならない。受け取り方を多様にするから、議論が起こって面白いのだ。久しぶりに「こりゃ贅沢やでぇ」と思える本に出会った。読んですぐに、フラットで押しつけがましくない、けど映画を撮ることにかけて情熱的な作者に魅了されるだろう。


    ●本書を読みながら気になった記述・コト
    *是枝監督の言う「あの頃は若かった」って、どういう意味なんだろう
     本書中にちょくちょく失敗談や頭に血が上ったエピソードを紹介し「あの頃は若かった」と語られる。是枝監督にとって「若かった」って、どういうこと何だろう。もう少しを年を経てから、直情的に怒らずに対応する、ということなのだろうか。

    *2020年最高の監督も昔は失敗続きで叱られていた
     スーパースターの失敗談には勇気づけられるよね。監督が20代のころ、「学生のの海外での成長感動ストーリー」を現実を捻じ曲げて演出することに嫌気がさし、完全な失敗劇として番組を撮りきった。そのときのプロデューサーに言われたのが「こういう学生を連れて行った番組側の責任があるだろう。それをお前はどう考えるのだ?だいたいそんば番組、誰が見たいんだ」と激怒されたという。そして、番組はボツとなり、レギュラーから外された...。
     「これでダメなら業界から足を洗おう」と思って作った番組もあった。その番組がヒットしていなかったら..という時期もあった。       

    *ドキュメンタリー論:誰かの理想的なイメージを「再現する」のではなく、何かを「生成」する
    "「僕は『やらせ』とは自己のイメージを現実に優先させてしまう閉じた態度から生まれるものだと考えています。」
    "「とにかく日本人は、『ドキュメンタリーというのは手を加えない事実にカメラを向けて真実が撮れたものだ』という事実信仰がすごく強い。」

    *両論併記という逃げ
    "「本来の両論併記とは、見た人の思考をさらにその先に深めていくために存在する手段にすぎません。
     いろんな選択肢を提示して、その先を考えさせるために行う手段であり、目的ではない。それ自体を目的にしてしまうと、つくり手がその先に思考を進められないので、見た人も同じく誰も何も考えないという状況が起きます。」

    *カット割り、光、音にこだわる
    "「『歩いても 歩いても』を撮る前、僕は日本の映画史に残る技術やノウハウを学ぶために、成瀬巳喜男監督の作品をかなり見直しました」
    "「~成瀬監督はどのカットを見ても必ずカメラを対象に対してひねっています。」「成瀬がカメラをひねって撮っているのは、そのほうが部屋や家具などの位置関係がわかりやすく、人間を動かしやすいからだと思います。」  

    *イマージュか、オマージュか
    "「少なくとも僕はドキュメンタリーからスタートしているので、決して作品が『私』の中から生まれてきているのではなく、『私』と『世界』の接点から生まれてくるものだと認識しています。特に映像はカメラという機械を通すので、それが顕著です。自分のメッセージを伝えるためではなく、「自分が世界と出会うためにカメラを使う」ということこそ、ドキュメンタリーの基本であって、それがフィクションといちばん大きく違うところなのではないでしょうか」

    *映画祭はニッポンアピールの場ではない
    "「映画祭というのは、『映画の豊かさとは何か? そのために私たちは何ができるのか?』を考える場です。映画を神様に譬えるつもりはありませんが、映画の僕として自分たちに何ができるのかを思考し、映画という太い河に流れる一滴の水としてそこに参加できる喜びを皆で分かち合う、それが映画祭です。決して『映画が私たち日本の経済に何をもたらしてくれるのか?』をアピールする場ではありません。」映画祭はビジネスコンペではないのだな。コンペというより、学会。皆で「映画」について問い、作品を発表し、映画について思索を深める場なんだな。 

    *テレビはジャズ

    ...この本はとても発見が多い。また読み返すだろうなぁ。

  • レビュー『映画を撮りながら考えたこと』(是枝裕和)
    ここ数年映画を観るようになった自分ではあるけど、本当に、「観る側の世界の広さによって見えてくるその映画の世界の広さも違ってくるのだなぁ」ということを考えさせられることが多くなってなかで、手にとった一冊。
    この本を読む(‘読む’という感覚じゃなくて、是枝監督が上映し終えた映画のスクリーンの前で語っているのを聴いていたという感じのほうが適切かもしれない)ことによって、映像の作り手側の姿に触れることができた、きっとこれから映画を観るときは、無意識のうちに作り手側の想いや意志を感じる感性が疼いてくれることだろう。

    さて、もう少し具体的にこの本で印象に残ったことを挙げておこうと思う。まずは‘日本の映画産業’を‘世界の映画文化’との比較のなかで見つめていた箇所、しかもそれを映画監督の目を通して眺められたこと。世界各都市で開催されている‘映画祭’、今までは、何となく映画作品の箔をつけるためのイベントくらいにしかとらえていなかったけど、世界各都市のマイナーなものから、メジャーなものまで多くの映画祭を巡ってきた監督の経験から、眺めた‘日本という国が映画に向き合う姿’が、時間軸でいうものすごく近いところ、文化の深度でいうと本当に浅いところに置かれているように語っていた。
    是枝監督が巡って眺めた各都市での映画ファンとの触れ合いや映画関係者を受け入れる街の人々のもてなしのここち良さは読んでいる私にも伝わってきた。

    そして「悪いのはみんな萩本欽一である」という強烈な番組タイトルで、テレビ番組の制作経験と、その可能性を語った箇所は、
    「欽ちゃんはそんなことをしでかしていたのか」という驚きと、「そういう見方をすれば確かに欽ちゃんはテレビを素人化し、「芸がなくても出られらる場所」に変えてしまったという、エンターテイメントとしてのテレビ変遷の謎解きをしてくれる。

    是枝監督が制作した、ドキュメンタリー、テレビ番組、映画を時系列に並べ、制作のエピソードを添えながら、映画の面白さ、可能性を‘作り手’の側から語る後半部分。それらをとおして、もう一度観てみようと思った映画は
    『歩いても、歩いても』(安倍寛)
    『奇跡』(前田前田)
    『海よりもまだ深く』(安倍寛)

    まだ観ていないのだが是非観たいのが
    『幻の光』(江角マキコ のデビュー作)
    『DISTANCE』(伊勢谷友介)

  • 間違いなく人生のバイブル
    やっぱり私にはもう少し時間が必要だ
    今読んでよかった

  • 少し前から気になっていた「是枝監督のあたまんなか」。しばらくの間読みたいリストに置かれていた本書を帰省をきっかけに久々に大きな本をえいっと手にしてみた。

    普段映画を観る前にはできるだけ事前情報をえないようにするのが自分の信条であるがゆえに未鑑賞作品のタイトルが出だす頁では若干躊躇するも、パーキングブレーキをかけるには至らずそのまま読み進めていくことになった…というか止まれなかった。

    既鑑賞作品は「ワンダフルライフ」「歩いても 歩いても」「そして父になる」「万引き家族」の4本止まり。でもそれらの作品を通して気になり始めたのが一体この監督がどうしたことに思いを馳せ、こうした作品を世に送り出すことにしたのか(もしくはなったのか)、その動機やあるとするならその紆余曲折の過程を知ってみたいというぼんやりとした願いであり、そうしたものがあったからこそ実際に本書を手にする日を楽しみにしていたのではあるが、ただ前述の他愛のない信条が故に遅々として増えてゆかない観賞歴が邪魔をして結局今までかかってしまった。

    ただ結果は…。

    上々…どころか明朗快活、気分爽快。自分自身の言語能力のはるか上でもってきちんと説明されていくその作品が生まれることの発端と過程の様子。あたまの中で「それそれ!自分も日々抱えていた感情は‼」となんども唱えながらよくぞきちんと説明してくれたと言わんばかりの賛称を送りながら一気に読み進めることになった。

    奇しくもつい先日Japan Societyでの映画祭Japan Cutsを通して是枝監督の愛弟子の一人であるという広瀬奈々子監督の初監督作品の上映に(しかもご本人登壇のQ&Aセッションつきの機会に)触れることができ、それゆえ本書で是枝監督が言及する「後に続く世代へのドアの開け方」といったような話題についてもあいづちを打ちながら読み進めることができたのは幸運だった。

    幸い来月には「誰も知らない」を劇場で鑑賞する機会が得られそうで、素晴らしき前夜祭となった。残りの作品もとっとと制覇し、また本書に戻ってこよう。

  • 大好きな是枝監督が映画を撮りながら考えていたことの本。途中まで読んで、全部読むのがもったいなくて寝かしていたけれど、樹木希林さんが亡くなり、改めて手にとった。

    最初に是枝監督の映画を見たのは2008年「歩いても歩いても」。何で見ようと思ったのか思い出せなかったけど、きっとこのコピー「人生はいつもちょっとだけ間に合わない」。これが出会い。

    ・音楽や美術や映画や本や教養(中略)、世界はそういう小さなことの積み重ねで成り立っている
    ・被害者の家族の誰もが加害者を呪っているわけではない。人間の感情はそれほどまでに複雑で、多様性に満ちている。
    ・意味のある死より、意味のない豊かな生を発見する。


    改めてまた作品を見てみようと思う。
    2018.11

  •  本屋さんを探しまわるもなかなか目にすることが出来ず、図書館にリクエストしてようやく読むことが出来た。
    分厚く値段もそこそこする単行本だけれど、それだけの価値がある本だと思った。借りていることも忘れて何度か線を引きたくなったくらい、心に刺さる言葉がたくさん。
    一度読んで読んだ、おしまい、にできない本。
    そのあたりが、是枝監督の映像作品と同じだと思った。
    何度も何度も読み返したくなる。
    もう一遍観たくなる。観なきゃいけない気がしてくる。

     自身の監督作品のことを軸に、テレビや映画の世界のこと、映画祭のこと・・・。特に映画祭についてとテレビ論は、監督の作品を観ていない人が読んでも、とても面白いと思う。
    この本をより楽しむためには、やはり是枝監督の作品をたくさん観て知っておく方が良いのだけれど、残念ながら私は、映画の初期の頃の数作と、最近の数作しか観ていない。ここに載っている全ての作品を観たいと思っていて、その上でまたこの本を手にしたい。映画は観られるだろうけれど、ドキュメンタリー番組はどうなんだろうか。

     私は映画を観るのが好きだけれど、映画を語ることは得意ではない。でも、もっと映画を観る視点を広げて掘り下げられるように、そしてそれを自分の言葉に出来て、うまく人に伝えることが出来るようになりたいな、とこの本を読んでいる間中、猛烈に思った。

  • 映画「そして父になる」で、福山雅治に対して、リリーフランキーが怒り、福山を叩こうとするシーン。リリーフランキーの叩き方が、その役の人生を浮かび上がらせる最高の演技になっていた。ずっとこの演出が、是枝監督のものかリリーフランキーのものか、気になっていたがようやくこの本で謎が解けた。

  • 2016年公開の「海よりもまだ深く」までの自作(テレビも含む)について意図や経緯を語った貴重な記録。
    子供の頃からテレビのホームドラマをよく見ていたことから現在家族をテーマにした作品を多く撮っていることは興味深い。
    テレビのドキュメンタリーに関しての記述も多く、若い頃の思索や葛藤を率直に書いているのが好印象。
    作品を見ていなくても製作側の意図や困難さが伝わる。

  • 愛知大学図書館のOPAC https://opac.aichi-u.ac.jp/webopac/BB00966979

  • 海街diaryが好きだったので、撮影秘話を期待して読んでみた。あの映画いから滲み出ている空気が大好きで、珍しく作りての視点に興味を持ったのだった。
    キャスティングやロケ地との奇跡的な出会い。よくあるリップサービスのための言葉だと思っていたが、本作に限ってはリアリティーがある一言だ。あの空気感は他のキャスティングやスタジオのセットでは醸し出せなかっただろう。
    良い映画は運の要素も大きいのだな。

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著者プロフィール

著者)是枝裕和 Hirokazu KORE-EDA
映画監督。1962 年東京生まれ。87 年早稲田大学第一文学部卒業後、テレビマンユニオン に参加し、主にドキュメンタリー番組を演出。14 年に独立し、制作者集団「分福」を立ち 上げる。主な監督作品に、『誰も知らない』(04/カンヌ国際映画祭最優秀男優賞)、『そ して父になる』(13/カンヌ国際映画祭審査員賞)、『万引き家族』(18/カンヌ国際映画 祭パルムドール、第 91 回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)、『真実』(19/ヴェネ チア国際映画祭オープニング作品)。次回作では、主演にソン・ガンホ、カン・ドンウォ ン、ぺ・ドゥナを迎えて韓国映画『ブローカー(仮)』を 21 年撮影予定。

「2020年 『真実 La Vérité シナリオ対訳 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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